ファンクショナルリーチテスト Functional reach test の詳細

はじめに

ファンクショナルリーチテスト Functional reach test について原著1,2)にもとづいて詳しく解説します。

ファンクショナルリーチテストとは

手をできるだけ遠くに伸ばしてもらい,その手の移動距離をみる検査です(図 1 )。

機能的リーチ・テスト3)とか機能的上肢到達検査4)とも呼ばれます。
また,原著では Functional reach となっていて,最後の test はついていません。

ファンクショナルリーチテスト
図 1: ファンクショナルリーチテスト(文献 6 を参考にして作図)

原著に書かれている方法

準備,被験者の姿勢

靴や靴下などは脱いで素足となり,壁のそばに立ってもらいます。
壁に対して両肩を結んだ線が垂直になるようにします。
また,壁が利き手側になるようにします注1)

立位姿勢については,「いつも通りに楽な姿勢で立ってください」と指示します注2)

物差しを被験者の肩峰の高さに合わせて壁に貼り付けます。

利き手を前に挙げ(肩関節屈曲 90°),指は握ってもらいます注3)

転倒に備えて,介助者をつけます。

検査の動き

壁(物差し)に触れることなく,物差しに沿ってできるだけ前に手を伸ばしてもらいます。

バランスを保ち,足を踏み出さない(支持基底面を変えない)ようにします。

手を前に伸ばす方法についての指示は出しません(詳細は後述)。

測定

第 3 中手骨末端が届いた位置を確認し,移動距離を求めます。

計測は全部で 5 回行います。
はじめの 2 回は練習で,その後の 3 回分の平均を検査結果として記録します。

壁に触れてしまったり,足を踏み出したりしてしまった場合は,やり直しです。

原著には書かれていないこと

物差しの固定について

物差しは水平にして固定します。
原著にこのことは書かれていませんが,常識的には水平でいいと思います。
ただし,完璧に水平にするのは面倒です。

物差しを肩峰の高さに合わせて壁に固定するためには,測定する場所に合わせて工夫する必要があります。
点滴スタンドに固定する方法や指示棒を用いた方法7)があります。
専用の測定機器もあります。
測定機器では,機器のバーを握ってしまうとバランスを補助することになりますので,拳でバーを押すようにします。

測定の単位

測定の単位は mm 単位でいいと思います。
原著はインチで測定していて,測定値のデータをみると小数点以下 2 桁まであります(1 インチは 25.4 mm です)。

元の姿勢に戻る必要

測定後に,元の姿勢に戻れなければ,バランスを保てたと言えず,測定は無効になります。

手を前に伸ばす方法についての指示

先に「手を前に伸ばす方法についての指示は出さない」と書きました。
これは原著の「No attempt was made to control the subject’s methods of reach」を私が翻訳したものです。
翻訳には自信がないのですが,原著で指定されている方法以外のことは気にしなくてもいいということだと思います。
例えば,体幹の前屈をどれくらい使うのかは被験者によって異なりますが,それは関係ないということです(動作分析の観点では重要です)。

手の高さを保つ

体幹を前屈した場合には,手の高さが問題になります。
原著では明記されていませんが,手が物差しの高さから外れないようにしていたようです。
ファンクショナルリーチの方法を示す図として,図 2 のような図が使われることがありますが,おそらくは間違いということになります。

FRTでは,手は物差しの高さから外れないようにする
図 2: 手は物差しの高さから外れないようにする

踵の挙上

踵をあげてもいいのかどうかは原著には書かれていません。
しかし,支持基底面を変えないとなっていますので,踵をあげてはいけないと解釈できます。
ただし,踵挙上の有無の判断は厳密には困難です。

体幹の回旋

体幹の回旋を許していいのかどうかについて,原著には記載がありません。
手を前に伸ばす方法についての指示は出さないとなっていますから,体幹は回旋してもよいのかもしれません。
一方で,検査開始時に,壁に対して両肩を結んだ線が垂直になるようにするとありますが,この指示は手を前に出すときにも有効なのであれば,体幹は回旋してはいけないことになります。

「体幹の回旋は許す4)」としている文献もありますが,その根拠ははっきりとは示されていません。

体幹を回旋すると,重心が前に移動した距離以上に手が前に出ることになります。
重心の前方移動を測りたいのであれば,体幹は回旋させない方がいいでしょう。
体幹回旋の影響を受けないようにするため,両手を伸ばすようにすることもあります5)

開脚の程度

開脚の程度については,検査の再現性を考えると統一してもいいのかもしれません。
文献によっては,「肩幅に広げる6)」としていたり,「15 cm 開脚程度に統一してもよい4)」としていたりします。

計測は 5 回ですが,その間は開脚の程度は同じにします。
ただし,最初の論文1)では,開脚の程度が変わらないよう床に足の位置をトレースしていますが,次の論文2)では,開脚の程度を固定したのかどうかは書かれていません。

足の前後は揃えるのか

足の前後のずれに関して,原著には記載がありません。
開脚の程度を固定していたので,前後の位置も固定していた可能性が高いと思います。

いつも通りに楽な姿勢で立つことになっていますから,両肩を結んだ線が壁に対して直角になっていれば,足が前後にずれていてもいいのかもしれません。
しかし,例えば,足を踏み出してしまって測定しなおす場合,足の前後のずれが変化すれば,重心の前後の位置も変化し,測定値が変わってしまう可能性があります。

足の前後はそろえることに統一しておいたほうがいいのかもしれません。

重心の偏倚

開始時に重心点が前後に偏っていると,結果が大きく変化します。
例えば,体を後ろに傾けたところから始めると,測定値は大きくなります。
しかし,原著ではこの点には触れていません。
重心点の位置がバラつくのを避けるために,壁を背にして立つという方法があります5)

転倒のリスク

原著の機械での測定では,被験者にハーネス(安全ベルト)をつけ,ロープで確保できるようにまでしています。
二人で測定する方が無難です。
測定機器を用いると,転倒予防に専念できます。

検査結果の解釈

基本的な考え方

この検査はバランスの問題のスクリーニング7)検査です。
測定値が小さければ,バランスの問題がありそうだと考えます。

理論的には,立位の前方への安定域を間接的に測ることができます(安定域についてはこちらの記事でまとめています)。
しかし,リーチ距離と両足圧中心の前方移動距離との相関は低い3)とされています。

標準値

年齢男性(cm)<女性(cm)
20~4042.4±4.837.1±5.6
41~6937.8±5.635.1±5.6
70~8733.5±4.126.7±8.9

カットオフ値

パーキンソン病患者において,過去 1 年の間に 2 回以上の転倒があった患者群を識別するためのカットオフ値は 31.75 cm(感度 0.86,特異度 0.52)です8)

高齢者の転倒のリスクについてのカットオフ値は 15.3 cm となっていることが多いのですが,その根拠となっている研究2)はカットオフ値を調べる研究ではありません。
その研究では,被験者をファンクショナルリーチの結果によってカテゴリー分けをしていて,0 インチ,6 インチ以下,6 インチ超 10 インチ未満,10インチ以上に分けています。
6 インチは 15.24 cm ですので,これが 15.3 cm となり,さらにこれがカットオフ値であると誤って解釈されたのかもしれません。

転倒群と非転倒群の間で,ファンクショナルリーチの値に差がなかったとする研究9)もあります。
ファンクショナルリーチは,バランスの一部分を見ているだけですので,転倒のリスクを検出する能力はそれほど高くないのかもしれません。

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注釈

1)原著1)では研究の都合で右利きの人のみを対象にしています。その後の論文2)では,「利き腕の肩峰の高さに物差しを合わせる」と書かれています。利き手で測定するとは書かれていませんが,利き手で測定すると判断していいでしょう。

2)立位姿勢について原著では「Subjects were asked to assume a position of normal, relaxed stance near the center of the force platform」となっています。
この英文の解釈に自信がないのですが,「normal」は「いつも通り」という意味で,「relaxed stance」は「両足を楽に立てるよう広げる」という意味だと思います。
ですので,いつも通りに楽な姿勢で立ってもらうことになります。
「自然な開脚位で立位を保持4)」としている文献もあります。

3)軽く握ると書かれていることがありますが,原著1,2)では「make a fist」となっていて「軽く」にあたる記載はありません。

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参考文献

1)Duncan PW, Weiner DK, et al.: Functional reach: a new clinical measure of balance. J Gerontol. 1990; 45: M192-197.
2)Duncan PW, Studenski S, et al.: Functional reach: predictive validity in a sample of elderly male veterans. J Gerontol. 1992; 47: M93-98.
3)中村隆一, 齋藤宏, 他: 基礎運動学(第6版補訂). 医歯薬出版, 2013, pp375.
4)内山靖: Functional Reach (FR):機能的上肢到達検査, 臨床評価指標入門 適用と解釈のポイント. 内山靖, 小林武, 他(編), 協同医書出版社, 東京, 2013, pp97-102.
5) 田口孝行, 内田亮太, 他: バランスの測定法. 理学療法. 2013; 30: 1035-1045.
6)Woollacott MH, Shumway-Cook A: Motor Control Theory and Practical Applications (2nd edition). Lippincot Williams & Willkins, 2001, pp273-274.
7) 森尾裕志, 大森圭貢, 他: 指示棒を用いたfunctional reach test の開発. 総合リハ. 2007; 35: 487-493.
8)Dibble LE, Lange M: Predicting falls in individuals with Parkinson disease: a reconsideration of clinical balance measures. J Neurol Phys Ther. 2006; 30: 60-67. doi: 10.1097/01.npt.0000282569.70920.dc.
9)Thomas JI, Lane JV: A pilot study to explore the predictive validity of 4 measures of falls risk in frail elderly patients. Arch Phys Med Rehabil. 2005; 86: 1636-1640. doi: 10.1016/j.apmr.2005.03.004.

2021 年 8 月 13 日
2019 年 12 月 25 日

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