はじめに
広い意味での関節の分類について解説します。
滑膜関節の関節面の形状と動きに基づいた分類(球関節,鞍関節など)については 別の記事 でまとめています。
目次
関節とは
2 つ以上の隣接する骨どうしの連結を広義の関節(joint または articulation)といいます。
関節の分類法としては,大きく分けて,可動性による分類と,骨間に介在する組織の種類による分類の 2 つがあります。
可動性による分類
可動性により,不動関節,半関節,可動関節の 3 つに分類されます9,10)。
この分類の定義はやや曖昧です。
可動性のみによる分類だけでなく「可動性の観点から,線維性連結を不動関節,軟骨性連結を半関節,滑膜性連結を可動関節と呼ぶことがある3)」というように,後述する骨間に介在する組織の種類による分類が定義に含まれていることもあります。
わずかな関節運動が可能である半関節と運動性にすぐれた滑走関節 gliding joint の 2 つに分ける場合もあります7)。
不動関節(不動結合)synarthrosis
明らかな運動は生じない関節です。
半関節 amphiarthrosis
わずかに動く関節です。
半関節の定義はいくつかあり統一されていません。
一つは,線維軟骨結合を不動関節と可動関節の中間的なものと考えて半関節と呼ぶ場合です4,9)。
線維軟骨結合だけでなく,靭帯結合も半関節に含める場合もあります10)。
また,半関節を次にあげる可動関節(滑膜関節)の一種とし,関節面の状態や靭帯の緊張によって可動性が制限され,わずかしか動かない関節を指す場合もあります7,9)。
可動関節(分離連結)diarthrosis
最も可動性のある関節です。
狭義の関節であり,滑膜性の連結に相当します。
骨間に介在する組織の種類による分類
線維性の連結,軟骨性の連結,骨結合,滑膜性の連結の 4 つに分類します。
線維性の連結 fibrous joint
線維性関節1)とも呼ばれます。
強い線維性の結合組織による連結です。
日本人体解剖学5)には「骨の間が結合組織で満たされ,その間に隙間がなく,ほとんど運動性がない」とありますが,その間隙や運動性の度合いは様々です。
線維性の連結には,靭帯結合,縫合,釘植の 3 つがあります。
靭帯結合 syndesmosis
靭帯や骨間膜による結合です。
不動関節に分類されることがありますが,実際には結合部位によってその可動性は様々です。
遠位脛腓関節における骨間靭帯による結合は靭帯結合です。
ただし,遠位脛腓関節は滑膜関節であるとしている文献があります11)。
他の靭帯結合としては,茎突舌骨靭帯,棘間靭帯,黄色靭帯,項靭帯,前腕骨間膜,下腿骨間膜による結合があります。
縫合 suture
頭蓋骨だけにある連結です。
骨間の間隙が狭く,わずかな量の結合組織(縫合靱帯)によって結合されます。
頭蓋骨表面を覆う骨膜によっても結合されます。
- 鋸状縫合 suture serrata:結合する骨の縁が不規則な曲線の凹凸になっていて,互いにかみ合っています(例:冠状縫合,矢状縫合,ラムダ縫合)。
- 鱗状縫合 sutura squamosa:骨の縁が片刃のような形をして,重なり合って結合しています(例:側頭骨鱗部と頭頂骨との縫合)
- 平滑縫合(直線縫合) sutura plana(sutura harmonia):骨の縁がほぼ直線で結合します(例:横口蓋縫合,正中口蓋縫合,鼻骨間縫合)。
- 夾合連結(きょうごうれんけつ)schindylesis:一方の骨に溝があり,他方の骨の突出がそれにはまって結合します(例:蝶鋤骨縫合)。
平滑縫合(直線縫合) sutura plana(sutura harmonia)については,日本語と英語のどちらも 2 つの名称がありますが,翻訳が統一されていません。
「直線縫合 Sutura plana,平滑縫合 Sutura Harmonia」としている文献8)がある一方,「平滑縫合 sutura plana」としている文献9)もあります。
夾合連結の分類の定義は文献によって異なります。
分担解剖学9)では,夾合連結は縫合の一種となっていますが,Gray’s Anatomy10) では,縫合とは別の線維性結合に分類しています。
また,他の文献には夾合連結 schindylesis は載っていません。
釘植 gomphosis
歯の歯根と上・下顎骨の歯槽との結合です。
結合組織性の歯根膜によって結合しています。
釘が打ち込まれたようにはまり込んでいるので釘植と呼ばれます。
軟骨性の連結 cartilaginous joint
軟骨性関節1)とも言います。
軟骨による結合です。
軟骨結合と線維軟骨結合の 2 種類があります。
軟骨結合 synchondrosis
硝子軟骨による結合です。
[硝子]軟骨結合5,8)と表記されることもあります。
軟骨結合の例としては,長管骨における骨幹と骨端の間の骨端軟骨板(成長板)による結合,腸骨,恥骨,坐骨の結合,蝶後頭軟骨結合5),側頭骨岩様部と後頭骨頸静脈突起との結合10)があります。
どれも小児にあるもので,成長に伴って骨結合に変わります。
骨結合にはならない軟骨結合があるのかどうかは分かりませんでした。
線維軟骨結合 symphysis
線維軟骨による結合です。
恥骨結合,椎体間結合,胸骨柄結合,胸骨剣結合は線維軟骨結合です2,5,9)。
「線維軟骨は骨で置換されない9)」との記述がありますが,胸骨柄結合5)と胸骨剣結合2)は骨結合に変わります。
第 1 肋骨と胸骨の間の胸肋関節については,軟骨結合としている文献3,5,7,8)と線維軟骨結合としている文献2,4)に分かれます。
骨結合 osseous joint
骨間に介在する組織が骨であり,骨による結合です。
骨結合という分類が載っているのは,今回調べたなかでは,日本人体解剖学5)と分冊解剖学アトラス8)だけです。
軟骨性の連結が骨結合に変化します。
日本人体解剖学5)には「多くの場合軟骨結合から転化したもの」とありますが,軟骨性の連結から変化したものではない骨結合があるのかどうかは分かりませんでした。
骨結合の例としては,軟骨性の連結であげたもの以外に仙骨があります。
滑膜性の連結 synovial joint
滑膜関節1)ともいいます。
連結する骨の間に滑液で満たされた間隙(関節腔)があり,その間隙の内面に滑膜がある連結です。
間隙があっても滑膜がなければ滑膜性の連結ではありません。
可動性による分類における可動関節であり,狭義の関節です。
滑膜性の連結の分類法として,関節をつくる骨の数による分類,関節の運動軸の数による分類,関節面の形状と動きに基づいた分類があります。
関節をつくる骨の数による分類
- 単関節 simple joint:2 個の骨からなる関節
- 複関節 compound joint:3 個以上の骨からなる関節
関節の運動軸の数による分類
- 一軸性関節 uniaxial joint:運動軸が 1 つで,運動自由度が 1 度の関節
- 二軸性関節 biaxial joint:運動軸が 2 つで,運動自由度が 2 度の関節
- 多軸性関節 multiaxial joint:運動軸が 3 つ以上で,運動自由度が 3 度の関節
3 軸性の関節(球関節)と多軸性の関節(平面関節)とで分けている文献があります7)。
関節面の形状と動きに基づいた分類
別の記事 でまとめています。
その他の分類
形態的には関節ではないが,機能的には関節に類似の動きをする構造を機能的関節と呼びます3)。
仮性関節あるいは擬似関節とも呼ばれます<sup>4)</sup>。
第 2 肩関節や肩甲胸郭関節は機能的関節です。
おわりに
「連結」と「結合」の使い分けは曖昧なままです。ご容赦ください。
各分類の例については,それが全てであるのかどうかは確認できていません。
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スポンサーリンク参考文献
1)P. D. Andrew, 有馬慶美, 他(監訳):筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版. 医歯薬出版, 2020, pp32-39.
2)秋田恵一(訳): グレイ解剖学(原著第4版). エルゼビア・ジャパン, 2019, pp15-18,129.
3)野村嶬: 関節と靭帯, 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野 解剖学(第4版). 野村嶬(編), 医学書院, 2018, pp87-161.
4)武田功(統括監訳): ブルンストローム臨床運動学原著第6版. 医歯薬出版, 2013, pp10-13.
5)金子丑之助: 日本人体解剖学上巻(改訂19版). 南山堂, 2002, pp113,166-171,183.
6)板場英行: 関節の構造と運動, 標準理学療法学 専門分野 運動療法学 総論. 吉尾雅春(編), 医学書院, 2001, pp20-41.
7)博田節夫(編): 関節運動学的アプローチ AKA. 医歯薬出版, 1997, pp7-10.
8)長島聖司(訳): 分冊 解剖学アトラス I (第5版). 文光堂, 2002, pp22-29.
9)森於菟, 小川鼎三, 他: 分担解剖学第1巻(第11版). 金原出版, 1983, pp173-180.
10)Gray H, Lewis WH: Anatomy of the human body 21st edition. Lea & Febiger, 1924, pp284-286.
11)Bartonícek J: Anatomy of the tibiofibular syndesmosis and its clinical relevance. Surg Radiol Anat. 2003; 25: 379-386. doi: 10.1007/s00276-003-0156-4.
2024 年 8 月 18 日
2024 年 9 月 3 日
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