はじめに
股関節外転筋群の筋力低下によって生じる異常歩行について解説します。
正常歩行での股関節外転筋の働き
単下肢支持期において,上半身の重心は股関節の内側にあるため,股関節内転モーメントが生じます。
この股関節内転モーメントに抗して骨盤を安定させるために股関節外転筋群が働きます。
荷重応答期に股関節外転筋群は遠心性収縮を行い,遊脚側の骨盤をわずかに落下(立脚側の股関節を内転)させて,衝撃吸収を行いつつ,骨盤を支えます。
立脚中期には骨盤の上昇が始まり,立脚終期で中間位に戻り,前遊脚期の終わりまで上昇が続きます。
股関節外転筋群の活動が最大になるのは荷重応答期です。
立脚中期の 25% GC に,重心が内側に移動し始めて股関節内転モーメントは小さくなりますので,股関節外転筋群の活動は弱まります。
トレンデレンブルク歩行
股関節外転筋群の筋力低下があれば,立脚側の股関節の過度の内転が生じ,遊脚側の骨盤が過度に落下します。
トレンデレンブルク歩行と呼ばれています。
荷重応答期では正常でも骨盤が落下しますので,筋力低下の程度によっては,過度な落下と正常な落下の区別は難しくなります。
荷重応答期での骨盤の過度の落下は,衝撃吸収機能の低下につながります。
立脚中期以降の立脚期では,骨盤が落下していれば,すぐに分かります。
立脚中期以降は股関節外転筋群はあまり強く活動する必要はないのですが,荷重応答期で正常パターンから外れていますので,骨盤の上昇は起こらず,骨盤の過度の落下は単下肢支持期を通して続いてしまいます。
遊脚側骨盤落下の影響
遊脚側の骨盤が落下するということは,体幹も遊脚側に倒れることになります。
体幹は立脚側に側屈して,バランスをとります。
体幹を大きく動かせば,エネルギー消費は増えます。
腰背部の痛みにつながることもあります
体幹の側屈に伴い,立脚肢の膝関節が過度に外反することがあります。
骨盤が落下した分,下肢は長くなりますので,トウクリアランスを阻害します。
遊脚肢を大きく動かさなければなりませんので,エネルギー消費は増えます。
デュシェンヌ歩行
骨盤の落下が起こらずに,体幹の立脚側への側屈が起こる場合があり,デュシェンヌ歩行と呼ばれています。
上半身の重心を立脚側に移動し,股関節の内転モーメントが生じないようにする代償動作です。
股関節痛を伴えばデュシェンヌ歩行になることが多いと思います。
ただ,トレンデレンブルク歩行とデュシェンヌ歩行のどちらがでるかということについて詳しく書いている文献は,まだ見つけられていません。
おわりに
股関節外転筋群の筋力低下によってトレンデレンブルク歩行が出現しますが,トレンデレンブルク歩行の原因は股関節外転筋群の筋力低下だけではありません。
Trendelenburg をトレンデレンブルクと読むか,トレンデレンブルグと読むかについては,こちらの記事を参考にしてください。
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スポンサーリンク参考文献
1)武田功(統括監訳): ペリー 歩行分析 原著第2版 -正常歩行と異常歩行- .医歯薬出版, 2017, pp111-185.
2)月城慶一, 山本澄子, 他(訳): 観察による歩行分析. 医学書院, 2006, pp111-157.
3)P. D. Andrew, 有馬慶美, 他(監訳):筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版. 医歯薬出版, 2020, pp726-728.
4)藤本将志: 治せる治療家になるためには適切な自主トレーニングが必要である-運動器疾患の歩行障害(トレンデレンブルグ現象)を治す. Sportsmedicine. 2019; 213: 42-46.
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2021 年 1 月 1 日
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