前腕の関節の解剖と運動:基本情報のまとめ

はじめに

前腕の関節の解剖(構造)と運動について基本的なところをまとめます。

前腕の関節には,上橈尺関節 superior radioulnar joint(近位橈尺関節 proximal radioulnar joint)と下橈尺関節 inferior radioulnar joint(遠位橈尺関節 distal radioulnar joint)があります。
橈骨と尺骨をつなぎ,前腕の回内・回外を行う関節です。

なお,橈骨と尺骨の間の関節として,上・下橈尺関節に加えて前腕骨間膜を列記している文献5,21,22)があります。
橈骨と尺骨の骨間縁が前腕骨間膜によって連結されたもので,靭帯結合という広義の関節です。
その関節の名称として middle radioulnar union23) や橈尺靭帯結合 syndesmosis radio-ulnaris21) がありますが,よく使われる名称ではないため,「前腕骨間膜」を関節として列記しているのだと思います。

目次

前腕の関節を構成する骨と関節面

上橈尺関節

  • 橈骨頭の関節環状面(凸面)
  • 尺骨の橈骨切痕(凹面),輪状靭帯

輪状靱帯の内側面は軟骨で覆われています。

下橈尺関節

  • 尺骨頭の関節環状面(凸面)
  • 橈骨の尺骨切痕,関節円板(凹面)

関節軟骨に覆われている範囲についての詳しい説明は,今回調べた文献にはありません。

関節円板の上面(近位面)が下橈尺関節の関節面になります。
下面(遠位面)は橈骨手根関節の関節面です。

下橈尺関節
図 1: 下橈尺関節1)。左図は関節を切離している。右図はやや下方から見ている。

関節の分類

上橈尺関節

    • 可動性による分類:可動関節
    • 骨間に介在する組織の種類による分類:滑膜関節
    • 関節面の形状と動きによる分類:車軸関節
    • 運動軸による分類:一軸性関節
    • 骨数による分類:単関節

    橈骨頭の関節環状面は上下方向にもわずかに凸ですので,球関節とみなすこともできます4)
    球関節であれば 3 軸性になりますが,3軸性の動きについての説明は,今回調べた文献にはありません。
    回内時,橈骨は上腕骨に対し軽度内転する4)との記述はあります(後述)。

    下橈尺関節

      • 可動性による分類:可動関節
      • 骨間に介在する組織の種類による分類:滑膜関節
      • 関節面の形状と動きによる分類:車軸関節4,6)
      • 運動軸による分類:一軸性関節
      • 骨数による分類:単関節

      関節分類の全体については こちら

      関節面の形状と動きによる分類については こちら

      関節周囲の結合組織(靱帯など)

      関節包

      上橈尺関節は,腕尺関節と腕橈関節とともに,肘関節の関節包に包まれています(肘関節についてはこちら)。

      下橈尺関節の関節包についての詳しい説明はありません。

      輪状靭帯

      • 付着部:尺骨の橈骨切痕の前縁〜後縁
      • 靱帯が緊張する動き:記載なし

      輪状靱帯と尺骨の橈骨切痕で作られた輪の中で橈骨頭が回転します。

      外側側副靭帯複合体を構成する靱帯です(詳しくはこちら)。

      accessory collateral ligament10)

      • 近位付着部:輪状靱帯下縁
      • 遠位付着部:尺骨回外筋稜
      • 靱帯が緊張する動き:記載なし

      外側側副靭帯複合体を構成する靱帯です。
      輪状靱帯の安定性に働いています10)

      外側側副靭帯複合体
      図 2: 外側側副靭帯複合体19)

      方形靱帯

      • 近位付着部:尺骨の橈骨切痕のすぐ下
      • 遠位付着部:橈骨頸の内側
      • 靱帯が緊張する動き:回内・回外

      関節包の下部が肥厚した靱帯です16)

      橈骨と尺骨をつなぎ,関節包の下部を補強して,上橈尺関節の安定化に働きます。

      上橈尺関節の断面
      図 3: 上橈尺関節の断面9)

      斜索

      • 近位付着部:尺骨粗面の外側
      • 遠位付着部:橈骨粗面下方の骨間縁
      • 靱帯が緊張する動き:回外2)

      前腕骨間膜の一部です。
      尺骨から橈骨に向かって外下方に走り,前腕骨間膜の中央線維束とはほぼ直交します。
      その走行から,斜索は尺骨に対して橈骨が下方にずれるのを防いでいると考えられています。

      前腕骨間膜
      図 4: 前腕骨間膜1)

      前腕骨間膜

      • 近位付着部:橈骨の骨間縁
      • 遠位付着部:尺骨の骨間縁
      • 骨間膜が緊張する動き:回外位

      前腕骨間膜の主要な線維は中央線維束と呼ばれます。

      橈骨粗面よりも遠位に付着します。
      橈骨から尺骨に向かって斜め下方に走ります。
      下部には,尺骨から橈骨に向かって斜め下方に走る線維があり,背側斜索と呼ばれることがあります1)

      中央線維束の働きは,橈骨と尺骨をつなぎ,橈骨への圧縮方向の力を尺骨に伝えます。
      また,筋の付着部となっています。

      中央線維束の緊張は,回内位で最も弛緩し,回外位で最も緊張します1)
      ただし,別の文献17)では,最大回内位および最大回外位で弛緩するとあり,一定ではありません。

      関節円板

      • 尺骨の付着部:茎状突起
      • 橈骨の付着部:尺骨切痕下端
      • 前方の付着部:掌側関節包靱帯
      • 後方の付着部:背側関節包靱帯

      下橈尺関節には関節円板があります。
      形は三角形で,三角線維軟骨とも呼ばれます。
      そして,三角線維軟骨複合体の一部分です。

      近位面も遠位面も関節軟骨に覆われています9)
      近位面は下橈尺関節の関節面で,尺骨頭と接しています。
      遠位面は橈骨手根関節です。
      関節円板が下橈尺関節と橈骨手根関節を分けていて,関節腔は通常は別になります。

      橈骨と尺骨をつないでおり,下橈尺関節の安定化させます。

      回内・回外の際には,橈骨とともに動きます。

      関節円板の動き
      図 5: 関節円板の動き1)

      背側関節包靱帯(背側橈尺靱帯)

      下橈尺関節の靱帯で浅層と深層があります。

      浅層

      • 尺骨の付着部:茎状突起の基部から中央部の橈側
      • 橈骨の付着部:尺骨切痕の背側縁遠位
      • 靱帯が緊張する動き:回内

      深層

      • 尺骨の付着部:小窩
      • 橈骨の付着部:尺骨切痕の背側縁遠位
      • 靱帯が緊張する動き:回内

      背側関節包靱帯は回内で緊張しますが,全ての線維が緊張するわけではなく1),回内の制限因子となるほどは緊張しない9)ようです。

      背側・掌側関節包靱帯
      図 6: 背側・掌側関節包靱帯18)

      掌側関節包靱帯(掌側橈尺靱帯)

      下橈尺関節の靱帯で浅層と深層があります。

      浅層

      • 尺骨の付着部:茎状突起の基部から中央部の橈側
      • 橈骨の付着部:尺骨切痕の掌側縁遠位
      • 靱帯が緊張する動き:回外

      深層

      • 尺骨の付着部:小窩
      • 橈骨の付着部:尺骨切痕の掌側縁遠位
      • 靱帯が緊張する動き:回外

      滑液包

      滑液包についての記載はなく,有無すら分かりません。

      前腕の関節の安定化に作用する筋

      上橈尺関節については記載がありません。

      下橈尺関節の安定化には,方形回内筋と尺側手根伸筋腱が働きます。

      前腕の関節の運動

      回内と回外

      上橈尺関節,下橈尺関節,腕橈関節が同時に動いて前腕の回内・回外が行われます。

      静止した尺骨に対して橈骨が動くと書かれていることが多いのですが,尺骨の内外転が生じるとしている文献5,9)もあります。

      橈骨の動きは軸回旋が主ですが,軽度の内外転も起こります(図 7)。

      橈骨の内転
      図 7: 橈骨の内転

      運動軸は,おおまかには,橈骨頭の中心と尺骨の茎状突起を結んだ線です。

      • 回内の可動域:90°3)
      • 回内の制限因子:橈骨と尺骨の衝突,あるいは靱帯,骨間膜,筋の緊張
      • 回内のエンドフィール:骨性または結合組織性

      回内の可動域は,文献によって違いがあり,75°1),80°2),85°9)と様々です。

      制限因子とエンドフィールに関して,骨の衝突あるいは靱帯などの緊張ということになっています。
      「あるいは」というのは,どちらであるのかが分かっていないということなのか?それとも,個人差があるということなのか?については,文献2,12)の記述からは分かりません。

      • 回外の可動域:90°3)
      • 回外の制限因子:下橈尺関節の掌側橈尺靱帯,斜索,骨間膜,円回内筋,方形回内筋の緊張12)
      • 回外のエンドフィール:結合組織性

      回外の可動域を 85° としている文献1)があります。

      回外の制限因子に関して,「橈骨の尺骨切痕の後端が尺側手根伸筋腱を介して,尺骨の茎状突起に衝突して生じる。この運動を制限する靱帯はとくにないが,筋としては回内筋が制限に働く9)」という記述もあります。

      しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)

      上橈尺関節

      • CPP:前腕 5° 回外位
      • LPP:前腕 35° 回外位 + 肘関節 70° 屈曲位

      下橈尺関節

      • CPP:前腕 5° 回外位
      • LPP:前腕 10° 回外位

      関節内圧

      上橈尺関節

      関節内圧が最も低くなるのは屈曲 80° のときです1)

      下橈尺関節

      記載なし。

      作用する筋

      主動作筋と補助動筋に分けていますが,その区別の基準は決まっていないようです。
      ここでは基礎運動学11)や徒手筋力テスト15)などを参考にして分けています。
      はっきりしないものは補助動筋にしました。

      回内に作用する筋

      • 主動作筋
        • 円回内筋
        • 方形回内筋
      • 補助動筋
        • 腕橈骨筋
        • 手関節屈筋群

      腕橈骨筋は回外位から中間位までの回内で作用します。

      手関節屈筋群のうちどの筋がどの程度作用するかについては情報がありませんが,橈側手根屈筋が補助動筋となっている文献が多いようです。

      回内の補助動筋として肘筋を挙げている文献11)がありますが,上腕骨と尺骨に付着する肘筋に回内はできないはずです。
      円回内筋が働いたときに肘関節屈曲が起こらないよう,肘関節伸筋として働くということかもしれません。

      回外に作用する筋

      • 主動作筋
        • 回外筋
        • 上腕二頭筋
      • 補助動筋
        • 腕橈骨筋
        • 長母指外転筋など

      腕橈骨筋は回内位から中間位までの回外に作用します。

      腕橈骨筋以外の補助動筋は文献によって異なります。
      長母指外転筋以外に,橈側手根伸筋,長母指伸筋,示指伸筋,短母指伸筋がありますが,どれもどの程度の作用であるのかは書かれていません。
      MMT の教科書15)では,補助動筋はないことになっていますので,他の文献にある補助動筋の作用はかなり弱いと考えてもいいのかもしれません。

      上腕骨に付着する筋はこちら
      尺骨と橈骨に付着する筋はこちら

      主な血液供給

      上橈尺関節5)

      • 上腕動脈
      • 上腕深動脈
      • 橈骨動脈
      • 尺骨動脈

      これらの動脈の枝で肘関節動脈網が作られます。

      下橈尺関節20)

      • 橈骨動脈
      • 尺骨動脈
      • 前骨間動脈
      • 後骨間動脈

      関節の感覚神経支配1)

      上橈尺関節

      正中神経(C6 〜 C7)。

      下橈尺関節

      尺骨神経がほとんど(C8)。

      その他の特徴

      肘内障

      下橈尺関節の亜脱臼です。
      輪状靱帯が橈骨頭から外れます。
      好発年齢は 5 歳以下で,手を強く引っ張られてたときに起こります。

      あわせて読みたい

      肘関節:基本情報

      手関節の解剖と運動:基本情報のまとめ

      関節の分類(広義の関節)

      滑膜関節の分類(関節面の形状と動きに基づいた分類)

      関節運動学(関節包内運動)における関節面の動き

      しまりの肢位とゆるみの肢位

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      参考文献

      1)P. D. Andrew, 有馬慶美, 日髙正巳(監訳):筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版. 医歯薬出版, 2020, pp211-242.
      2)武田功(統括監訳): ブルンストローム臨床運動学原著第6版. 医歯薬出版, 2013, pp204-236.
      3)久保俊一, 中島康晴, 田中康仁: 関節可動域表示ならびに測定法改訂について(2022 年4 月改訂). Jpn J Rehabil Med. 2021; 58: 1188-1200.
      4)博田節夫(編): 関節運動学的アプローチ AKA. 医歯薬出版, 1997, pp19-20.
      5)秋田恵一(訳): グレイ解剖学(原著第4版). エルゼビア・ジャパン, 2019, pp627-643.
      6)金子丑之助: 日本人体解剖学上巻(改訂19版). 南山堂, 2002, pp193-194.
      7)長島聖司(訳): 分冊 解剖学アトラス I (第5版). 文光堂, 2002, pp120-123.
      8)富雅男(訳): 四肢関節のマニュアルモビリゼーション. 医歯薬出版, 1995, pp103-114.
      9)荻島秀男(監訳): カパンディ関節の生理学 I 上肢. 医歯薬出版, 1995, pp100-131.
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      12)木村哲彦(監修): 関節可動域測定法 可動域測定の手引き. 共同医書出版, 1993, pp48-51.
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      14)大井淑雄, 博田節夫(編): 運動療法第2版(リハビリテーション医学全書7). 医歯薬出版, 1993, pp165-167.
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      23)Gray H, Lewis WH: Anatomy of the human body 21st edition. Lea & Febiger, 1924, pp325-327.

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      2021 年 11 月 16 日
      2021 年 12 月 6 日
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