手関節の解剖と運動:基本情報のまとめ

はじめに

手関節の解剖(構造)と運動について基本的なところをまとめます。

手関節は複数の関節からなり,主には,橈骨手根関節 radiocarpal joint と,手根中央関節 midcarpal joint からなります。
この記事では,この 2 つの関節をとりあげます。

豆状三角関節と下橈尺関節を手関節に含める場合15)もありますが,機能的には手関節には含まれません。

その他の手根間関節(舟状月状関節,月状三角関節など)も手関節の運動において重要な役割を担いますが,より専門的な内容になりますので,今回は省きます。

目次

手関節を構成する骨と関節面

橈骨手根関節

橈骨と近位手根列からなる関節です。

  • 舟状骨,月状骨,三角骨(凸面)
  • 橈骨手根関節面4,6),関節円板(凹面)

中間位では,舟状骨と月状骨の橈側部が橈骨と接触し,三角骨と月状骨の尺側部は関節円板と接触しています。
三角骨は尺屈した時だけ橈骨と接触します。

手関節
図 1: 手関節,尺骨手根間隙には三角線維軟骨複合体(関節円板)があるが,図では省略

橈骨の手根関節面(遠位端)には傾斜があります。

尺側傾斜

尺骨の方に向かって約 25° 傾いています1)
角度は文献によって違いがあり,20° 4),あるいは 25 〜 30°9) となっています。

掌側傾斜

掌側に約 10° 傾いています。
これも文献によって異なり, 10〜15° 4),あるいは 20 〜 25° 9) となっています。

尺側傾斜と掌側傾斜
図 2: 尺側傾斜と掌側傾斜

手根中央関節

近位手根列と遠位手根列からなる関節です。
内側区画と外側区画に分かれます。

内側区画

  • 有頭骨頭と有鉤骨の頂部(凸面)
  • 舟状骨,月状骨,三角骨(凹面)

外側区画

  • 舟状骨(凸面)
  • 大菱形骨,小菱形骨(凹面)

可動範囲が大きいのは内側区画の方です。

手根中央関節全体の関節腔はS字状です。

関節の分類

橈骨手根関節

  • 可動性による分類:滑膜性関節(可動結合)
  • 関節面の形状と動きによる分類:楕円関節
  • 運動軸による分類:2 軸性
  • 骨数による分類:複関節

手根中央関節

  • 可動性による分類:滑膜性関節(可動結合)
  • 関節面の形状と動きによる分類:内側区画は変形した楕円関節,外側区画は平面関節10)
  • 運動軸による分類:2 軸性
  • 骨数による分類:複関節

手関節の靱帯

橈骨手根関節と手根中央関節では分けておらず,手関節全体の靱帯です。

分類の仕方や名称は文献による違いが多く,スタンダードといえるものを選ぶことができませんでした。
この記事では,各文献でだいたい共通しているものをあげています。

背側橈骨手根靱帯(背側橈骨三角靭帯15)

背側にある関節包靱帯です。

  • 近位付着部:橈骨下端と茎状突起の背面
  • 遠位付着部:舟状骨,月状骨,三角骨の背面
  • 靱帯が緊張する動き:手関節屈曲(掌屈)9)

背側手根間靱帯

主には舟状骨と三角骨に付着15)する,背側にある関節包靱帯です。

  • 付着部:大菱形骨,舟状骨,三角骨,ときに月状骨を相互につなぐ
  • 靱帯が緊張する動き:記載なし

掌側橈骨手根靱帯

掌側にある関節包靱帯です。
複数の靱帯が含まれており,主なものは,橈骨舟状有頭靱帯,長橈骨月状骨靱帯,短橈骨月状骨靱帯の 3 つです。

  • 近位付着部:橈骨遠位端および茎状突起の掌面
  • 遠位付着部:舟状骨,有頭骨,月状骨の掌面
  • 靱帯が緊張する動き:手関節伸展(背屈)

掌側手根間靱帯

各手根骨の掌側をつなぐ関節包靱帯で,以下のような靱帯があります(靱帯名が付着部を表す)。

  • 舟状三角靭帯
  • 舟状有頭靱帯
  • 月状三角靭帯
  • 舟状大菱形小菱形靱帯
  • 三角有頭靱帯
  • 三角有鉤靱帯

掌側尺骨手根靱帯

掌側で尺骨と手根骨をつなぐ関節包靱帯です。
以下の靱帯が含まれます(靱帯名が付着部を表す)。
三角線維軟骨複合体に含まれます。

  • 尺骨月状靱帯
  • 尺骨三角靭帯
  • 尺骨有頭靱帯

橈側側副靭帯(外側手根側副靭帯)

関節包靱帯です。
独立した靱帯として分類されていないこともあります1)

  • 近位付着部:橈骨茎状突起
  • 遠位付着部:舟状骨9)
  • 靱帯が緊張する動き:手関節の尺屈(内転)

尺側側副靭帯(内側手根側副靭帯)

三角線維軟骨複合体の一部です。
関節包靱帯であるのかどうかについては記載がありません。

  • 近位付着部:尺骨茎状突起
  • 遠位付着部:三角骨6),大菱形骨9),豆状骨9)
  • 靱帯が緊張する動き:手関節橈屈(外転)

骨間手根間靱帯

各手根骨を相互につなぐ靱帯で,関節包からは独立した靱帯です。
一般的な解剖学の教科書には詳しい説明はありません。

舟状月状靱帯

月状骨の安定化を担っており,損傷頻度も高い靱帯16)であり,臨床的には重要な靱帯ですが,解剖学的に詳細な情報を得ることができていません。
骨間手根間靱帯であるのか,あるいは関節包靱帯であるのかも分かりません。

関節周囲の結合組織(靱帯以外)

関節包

橈骨手根関節,手根中央関節,手根間関節(豆状三角関節を除く)は,共通の関節包に包まれています4)
しかし,「橈骨手根関節の関節包は,しばしば下橈尺関節,手根間関節,豆状骨関節などの関節腔と交通することがある6)」との記述もあり,関節包は各関節で独立していることもあるようです。

付着部についての詳しい情報はありません。

関節包の緊張は,背側はゆるく,掌側はかたくなっています。

滑膜ヒダがあります7)

三角線維軟骨複合体 triangular fibrocartilage complex; TFCC)

線維軟骨と靱帯の複合体で,尺骨と手根骨の間の隙間を埋めるような形をしています。

三角線維軟骨複合体の解剖学的構造については,文献による違いがあり,どれが真実であるのかは分かりません。
そこで,この記事では,全体像を示すことを優先し,細かいところは省略したいと思います(ですので,不正確なところもあります)。

立体構造の概要を図に示します(中村の報告17,18)にある図を一部改変して引用します)。

三角線維軟骨複合体の立体構造
図 3: 三角線維軟骨複合体の立体構造

ハンモック状構造の底部は三角線維軟骨(関節円板)です。
ハンモック状構造に月状骨と三角骨がはいり,橈骨手根関節を形づくります。

図 3 では,三角線維軟骨複合体の一部である掌側尺骨手根靱帯(尺骨三角靭帯,尺骨月状靱帯)は省略されています。

屈筋支帯(横手根靱帯1)

前腕筋膜の一部です。
屈筋支帯と手根骨によって手根管ができます。

  • 尺側の付着部:豆状骨,有鈎骨鈎
  • 橈側の付着部:舟状骨結節と大菱形骨結節

伸筋支帯

前腕筋膜の一部で,横走する線維で補強されています。
手関節背側を通過する筋の腱を固定する働きがあります。

  • 尺側の付着部:尺骨茎状突起
  • 掌側の付着部:尺側手根屈筋の腱,豆状骨,豆中手靱帯
  • 橈側の付着部:橈骨茎状突起,橈側側副靭帯

滑液包6)

手関節周囲には腱鞘が多数ありますが,教科書等では詳しい説明はありません。
ここでは,名称を列挙するにとどめます。

  • 背側腱鞘
    • 長母指外転筋の腱鞘
    • 短母指伸筋の腱鞘
    • 長橈側手根伸筋の腱鞘
    • 短橈側手根伸筋の腱鞘
    • 長母指伸筋の腱鞘
    • 総指伸筋および示指伸筋の腱鞘
    • 小指伸筋の腱鞘
    • 尺側手根伸筋の腱鞘
    • 短橈側手根伸筋の滑液包
  • 掌側腱鞘
    • 橈側手根屈筋の腱鞘
    • 長母指屈筋の腱鞘
    • 指屈筋の総腱鞘
    • 指の腱鞘

三角線維軟骨複合体の中に茎突前間隙という滑液包があります16)

手関節の安定化に作用する筋

記載なし。

手関節の運動

屈曲(掌屈)・伸展(背屈)と橈屈(外転)・尺屈(内転)が行われます。

屈曲(掌屈)と伸展(背屈)

  • 屈曲の可動域(他動):90° 3)
  • 屈曲の制限因子:背側橈骨手根靱帯と背側の関節包の緊張11)
  • 屈曲のエンドフィール:結合組織性11)
  • 伸展の可動域(他動):70° 3)
  • 伸展の制限因子:掌側橈骨手根靱帯と掌側の関節包の緊張または橈骨と手根骨の衝突11)
  • 伸展のエンドフィール:結合組織性または骨性11)

屈曲の可動域は文献によって異なり,70 〜 85° 1)あるいは 85° 4,9)などとなっています。
伸展も同様で,60 〜 75° 1)あるいは 85° 4,9)などとなっています。
他動なのか自動なのかは明記されていません。

屈曲と伸展のどちらも,自動で 85° くらい,他動で 90° 以上としている文献10)もあります。

屈曲の方が伸展よりも可動域が大きいとしている文献と,同じとしている文献に分かれます。

屈伸の可動域が最大となるのは,橈屈と尺屈が 0°(中間位)のときです9)

運動軸については,文献によって少しずつ異なり,有頭骨頭を通る1),橈骨茎状突起を触診している指の先端と尺骨茎状突起を触診している指の先端を結んだ線2),橈骨手根関節では月状骨を通る水平軸で手根中央関節では有頭骨を通る水平軸7,8),月状骨と有頭骨の間を通る9),などとなっています。

手関節の屈伸では,橈骨手根関節と手根中央関節がともに動きます。
手関節が完全に屈曲するとき,橈骨手根関節で 50°,手根中央関節で 35° 動きます。
手関節が完全に伸展するときは,橈骨手根関節で 35°,手根中央関節で 50° 動きます。
全体として,橈骨手根関節と手根中央関節が動く角度は同じくらいです。
また,小さな角度では,両関節は同じ程度で動きます2,9)
伸展で手根中央関節がより大きく動くのは掌側傾斜があるからです4)

橈屈(外転)と尺屈(内転)

  • 橈屈の可動域:25° 3)
  • 橈屈の制限因子:橈骨茎状突起と舟状骨の衝突または尺側側副靭帯,掌側尺骨手根靱帯,尺側の関節包の緊張11)
  • 橈屈のエンドフィール:骨性または結合組織性11)
  • 尺屈の可動域:55° 3)
  • 尺屈の制限因子:橈側側副靭帯と橈側の関節包の緊張11)
  • 尺屈のエンドフィール:結合組織性11)

橈屈の可動域は文献によって異なり,15 〜20° 1)あるいは 15° 9)などとなっています。
尺屈も同様で,35 〜 40° 1),45° 9),50° 4)などとなっています。
他動なのか自動なのかは明記されていません。

尺側傾斜があるため橈屈よりも尺屈の方が可動域が大きくなります。

橈屈と尺屈の可動域は,前腕の回内外や手関節の屈伸の影響を受けます。
回内位よりも回外位の方が,橈屈と尺屈の可動域は大きくなります9,10)
完全屈曲位あるいは完全伸展位では,橈屈と尺屈の可動域は最小となります7,9)
屈伸の中間位かやや屈曲位で,橈屈と尺屈の可動域は最大となります9)

運動軸は有頭骨頭を通ります1,9)

尺屈の 60% を橈骨手根関節が担います10)
橈屈は 50% を橈骨手根関節が担うという記述2,10)がある一方で,橈骨手根関節が 15%(手根中央関節が 85%) であるという記述1)もあります。

手根骨の近位列は,橈屈ではわずかに屈曲し,尺屈ではわずかに伸展します。

複合運動

動作の中での手関節の自然な動きでは,伸展には橈屈が伴い,屈曲には尺屈が伴った動きになります。
例えば,ハンマーをふるときのように,前腕をやや回内位にして手を上下させるときにこのような動きになっています。

関節運動の受動的抵抗が最も小さくなる運動方向であり,力が入りやすい方向です。

しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)

橈骨手根関節と手根中央関節のそれぞれの CPP・LPP に関する記載はありません。
以下は手関節の CPP・LPP です。

  • CPP:最大伸展位2,4,8)
  • LPP:屈伸の中間位 + 軽度尺屈位8)

LPP については,10 〜 15° 掌屈位 + 軽度尺屈位としている文献4)もあります。

橈骨手根関節の関節面同士の接触が最大になるのは,軽度伸展,軽度尺屈位です1)

関節内圧

記載なし。

作用する筋

主動作筋と補助動筋に分けていますが,その区別の基準は決まっていないようです。
ここでは基礎運動学11)や徒手筋力テスト14)などを参考にして分けています。
はっきりしないものは補助動筋にしました。

屈曲(掌屈)に作用する筋

  • 主動作筋
    • 橈側手根屈筋
    • 尺側手根屈筋
  • 補助動筋
    • 長掌筋
    • 浅指屈筋
    • 深指屈筋
    • 長母指外転筋
    • 長母指屈筋
    • 短母指伸筋1)

補助動筋の屈曲作用は弱いものではなく,浅指屈筋や深指屈筋の手関節屈曲トルクの発生能力は,主動作筋を上回ることが考えられます1)

伸展(背屈)に作用する筋

  • 主動作筋
    • 長橈側手根伸筋
    • 短橈側手根伸筋
    • 尺側手根伸筋
  • 補助動筋
    • 指伸筋
    • 小指伸筋
    • 示指伸筋
    • 長母指伸筋

橈屈に作用する筋

  • 主動作筋
    • 長橈側手根伸筋
    • 短橈側手根伸筋
  • 補助動筋
    • 橈側手根屈筋
    • 長母指伸筋
    • 短母指伸筋
    • 長母指外転筋
    • 長母指屈筋1)

尺屈に作用する筋

  • 主動作筋
    • 尺側手根伸筋
    • 尺側手根屈筋
  • 補助動筋1)
    • 深指屈筋
    • 浅指屈筋
    • 指伸筋

尺骨と橈骨に付着する筋はこちら

主な血液供給15)

  • 橈骨動脈
  • 尺骨動脈
  • 前骨間動脈
  • 後骨間動脈

関節の感覚神経支配1)

橈骨手根関節

  • 正中神経(C6 〜 C7)
  • 橈骨神経(C6 〜 C7)

手根中央関節

  • 正中神経(C6 〜 C7)
  • 橈骨神経(C6 〜 C7)
  • 尺骨神経深枝(C8)

前骨間神経(正中神経)と後骨間神経(橈骨神経)は関節周囲の軟部組織に分布します15)

おわりに

手関節は手との関わりが強いのですが,今回は手のことは省きました。

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参考文献

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2)武田功(統括監訳): ブルンストローム臨床運動学原著第6版. 医歯薬出版, 2013, pp237-288.
3)米本恭三, 石神重信, 他: 関節可動域表示ならびに測定法. リハビリテーション医学. 1995; 32: 207-217.
4)博田節夫(編): 関節運動学的アプローチ AKA. 医歯薬出版, 1997, pp20-24.
5)秋田恵一(訳): グレイ解剖学(原著第4版). エルゼビア・ジャパン, 2019, pp644-663.
6)金子丑之助: 日本人体解剖学上巻(改訂19版). 南山堂, 2002, pp194-200.
7)長島聖司(訳): 分冊 解剖学アトラス I (第5版). 文光堂, 2002, pp130-134.
8)富雅男(訳): 四肢関節のマニュアルモビリゼーション. 医歯薬出版, 1995, pp83-102.
9)荻島秀男(監訳): カパンディ関節の生理学 I 上肢. 医歯薬出版, 1995, pp132-165.
10)中村隆一, 斎藤宏, 他:基礎運動学(第6版補訂). 医歯薬出版株式会社, 2013, pp229-231.
11)木村哲彦(監修): 関節可動域測定法 可動域測定の手引き. 共同医書出版, 1993, pp52-59.
12)板場英行: 関節の構造と運動, 標準理学療法学 専門分野 運動療法学 総論. 吉尾雅春(編), 医学書院, 2001, pp20-41.
13)大井淑雄, 博田節夫(編): 運動療法第2版(リハビリテーション医学全書7). 医歯薬出版, 1993, pp165-167.
14)津山直一, 中村耕三(訳): 新・徒手筋力検査法(原著第9版). 協同医書出版社, 2015, 158-166.
15)玉井誠: 手関節の解剖. 関節外科. 2011; 30: 22-29.
16)神島保: 正常解剖 上肢;手関節. MB Orthop. 2013; 26: 101-107.
17)中村俊康: 手関節三角線維軟骨複合体(TFCC). 臨床画像. 2019; 35: 52-61.
18)中村俊康: 手関節三角線維軟骨複合体の機能解剖学および組織学的研究. 日整会誌. 1995; 69: 168-180.
19)野島元雄(監訳): 図解 四肢と脊椎の診かた. 医歯薬出版, 2000, pp56-100.

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2021 年 12 月 7 日

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