母指の手根中手関節の解剖と運動:基本情報のまとめ

はじめに

母指の手根中手関節(carpometacarpal joint : CMC 関節,CM 関節)の解剖(構造)と運動について基本的なところをまとめます。

大菱中手関節9)と呼ぶこともあります。

母指全体は他の指に対し約 90° 回転しており,解剖学的肢位では爪が外側を向きます。
ですので,母指の爪がある側は,背側であると同時に橈側です。
母指の方向に関する表現については注意が必要です。

目次

母指の手根中手関節を構成する骨と関節面

  • 大菱形骨
  • 第 1 中手骨底

関節面は一方に凸,他方に凹の鞍型です。

母指の手根中手関節の関節面,鞍型
図 1: 鞍型の関節面9)

大菱形骨は掌側へ約 30 〜 40° 傾きます。

大菱形骨の掌側への傾き
図 2: 大菱形骨の傾き4)

凸面と凹面がどちら向きであるのかを示すのに,掌背側方向とか橈尺側(内外側)方向という表現が使われます。
しかし,大菱形骨の傾きや母指の回転(前述)があるため,その方向は一つに定まりません。
ですので,凸面と凹面がどちら向きであるのかの説明は,文献によって1,4)逆になっています。

関節の分類

  • 可動性による分類:滑膜性関節(可動結合)
  • 関節面の形状と動きによる分類:鞍関節
  • 運動軸による分類:2 軸性
  • 骨数による分類:単関節

母指の手根中手関節の靱帯

靱帯の分類と名称は統一されていません。
この記事では「筋骨格系のキネシオロジー1)」の内容でまとめています(図 3)。

母指の手根中手関節の靱帯
図 3: 母指の手根中手関節の靱帯1)

前(掌側)斜走靱帯

  • 近位付着部:大菱形骨掌側結節
  • 遠位付着部:第 1 中手骨底の掌側
  • 靱帯が緊張する動き:完全伸展
  • 靱帯が緩む動き:対立・屈曲・外転

尺側側副靭帯

  • 近位付着部:横手根靱帯(屈筋支帯)の橈側
  • 遠位付着部:第 1 中手骨底の掌尺側
  • 靱帯が緊張する動き:外転・伸展

中手骨間靱帯

  • 近位付着部:第 2 中手骨底の背橈側
  • 遠位付着部:第 1 中手骨底の掌尺側
  • 靱帯が緊張する動き:対立・屈曲・外転

橈側側副靭帯

  • 近位付着部:大菱形骨の橈側面
  • 遠位付着部:第 1 中手骨底の背側
  • 靱帯が緊張する動き:対立・屈曲・外転

大菱形骨と第 1 中手骨のどちらも同じ側に付着していますが,大菱形骨では橈側,第 1 中手骨では背側と表現されています。
そして,中手骨の背側に付着していますが,中手骨の背側は橈側を向いていますので,靱帯の名前は橈側になっています。

後斜走靱帯

  • 近位付着部:大菱形骨の橈側
  • 遠位付着部:第 1 中手骨底の掌尺側
  • 靱帯が緊張する動き:対立・屈曲・外転

橈側側副靭帯と後斜走靱帯をあわせて背橈側靱帯または背側靱帯複合体と呼ぶことがあります。
橈側側副靭帯と後斜走靱帯は,対立位の手根中手関節の主な安定機構です。

関節周囲の結合組織(靱帯以外)

関節包

第 2 〜 5 手根中手関節の関節包からは独立しています。

大きな可動範囲をえるため,関節包には緩みがあり,大菱形骨と中手骨を 3 mm ほど離開させることができます2)

付着部についての詳細な情報はありません。

滑液包6)

腱を包む腱鞘がありますが,それ以外の滑液包の有無についての情報はありません。

  • 長母指外転筋の腱鞘
  • 短母指伸筋の腱鞘
  • 長母指伸筋の腱鞘
  • 長母指屈筋の腱鞘

母指の手根中手関節の安定化に作用する筋

教科書等では記載がありません。

母指の手根中手関節の運動

2 軸性の関節であり,屈曲・伸展,外転・内転が行われます。

軸回旋も含めて 3 軸性としている文献2,8)もありますが,2 軸の運動の組み合わせで回旋が起こるとする考え方が主流のようです。

屈曲と伸展

解剖学的肢位では,前額面における前後軸での動きです。
手掌面と平行な面での動きともいえます。
屈曲は,母指が手掌面上を横切って尺側に向かう動きです。
伸展は,母指が橈側に向かう動きです。

尺側内転・橈側外転ともいいます。
各文献において,これらの運動の定義が曖昧であり,全く同じものを表しているのかどうかは分かりません。
この記事では,屈曲は尺側内転と,伸展は橈側外転と同じであるとしておきます。

中手骨側が凹面,大菱形骨側が凸面です。
運動軸は大菱形骨を通ります。

屈曲と伸展には回旋が伴います。
爪の向きが変わることで回旋していることが分かります。
屈曲時には内旋(回内)し,伸展時には外旋(回外)します。
大菱形骨の関節面上にある溝が回旋を誘導します。

母指の手根中手関節における屈曲・伸展に伴う回旋
図 4: 屈曲・伸展に伴う回旋
  • 屈曲の可動域:45 〜 50° 1)(他動・自動のどちらであるのかは不明)
  • 屈曲の制限因子:母指球の筋腹と手掌の接触,または背側の関節包,短母指伸筋,短母指外転筋の緊張11)
  • 屈曲のエンドフィール:軟部組織性または結合組織性11)
  • 伸展の可動域:10 〜 15° 1)(他動・自動のどちらであるのかは不明)
  • 伸展の制限因子:掌側の関節包,短母指屈筋,母指内転筋,母指対立筋,第 1 背側骨間筋の緊張11)
  • 伸展のエンドフィール:結合組織性11)

可動域測定のための中間位の定義が文献1)には明示されていません。
おそらく,母指と示指が平行になったときだと思います。
屈曲の可動域を 20 〜 25°,伸展の可動域を30〜45°としている文献9)があり,大きな違いがあります。
屈曲と伸展を合わせた全体の可動範囲は比較的近い数値ですので,中間位の定義が異なるのかもしれません。

橈側外転(伸展)の可動域を 60° としている文献10)がありますが,これは母指と示指の角度であり,手根中手関節の角度ではなさそうです。

外転と内転

矢状面における内外側軸での動きに近い動きです。
解剖学的肢位において,第 1 中手骨は橈側に広がっており,矢状面にはありません。
ですので,矢状面での動きではないのですが,この外転と内転の運動面や軸を正確に示している文献はありません。
手掌面と垂直な面での動きであることは間違いなさそうです。

外転は母指が手掌から前方へ離れる動きです。
内転は母指が手掌面に戻る動きです。

掌側外転・掌側内転あるいは前位・後位9)ともいいます。
屈曲と伸展のところで書いたことと同じで,運動の定義が曖昧なため,同じ運動を表しているのかどうかが分かりません。
この記事では,外転 = 掌側外転 = 前位,内転 = 掌側内転 = 後位としておきます。

中手骨側が凸面,大菱形骨側が凹面です。
運動軸は中手骨を通ります。

  • 外転の可動域:45° 1)(他動・自動のどちらであるのかは不明)
  • 外転の制限因子:母指と示指の指間の筋膜と皮膚,母指内転筋,第 1 背側骨間筋の緊張11)
  • 外転のエンドフィール:結合組織性11)
  • 内転の可動域:記載なし
  • 内転の制限因子:記載なし
  • 内転のエンドフィール:記載なし

掌側外転(外転)の可動域を 90° としている文献10)がありますが,これは母指全体の角度であり,手根中手関節の角度ではなさそうです。

対立と復位

母指全体による動きですが,手根中手関節が重要な役割を担うため,ここでとりあげます。

対立は,母指の指腹が他の指の指腹と接触する動きです。
復位は,対立から解剖学的肢位へ戻る動きです。 

手根中手関節における対立と復位は,屈曲・伸展と外転・内転が複合した動きです。

対立の際,母指全体は 45 〜 60° 内旋します。
この内旋の大部分は手根中手関節が担い,中手指節関節,指節間関節,舟状大菱関節もそれぞれわずかに内旋します。

  • 対立の可動域:通常,角度で表すことはしない
  • 対立の制限因子:母指球の筋腹と手掌の接触,または関節包,短母指伸筋の緊張11)
  • 対立のエンドフィール:軟部組織性,または結合組織性11)
  • 復位の可動域:通常,角度で表すことはしない
  • 復位の制限因子:記載なし
  • 復位のエンドフィール:記載なし

しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)

  • CPP:最大対立位
  • LPP:内外転の中間位 + 屈伸の中間位

最大対立位の定義は書かれていませんが,おそらくは,母指と小指の指腹を合わせた肢位です。

関節内圧

教科書等には記載がありません。

作用する筋

主動作筋と補助動筋に分けていますが,その区別の基準は決まっていないようです。
ここでは基礎運動学11)を参考にして分けています。
はっきりしないものは補助動筋にしました。

屈曲(尺側内転)に作用する筋

  • 主動作筋
    • 短母指屈筋
    • 母指内転筋
  • 補助動筋
    • 母指対立筋
    • 短母指外転筋
    • 長母指屈筋

伸展(橈側外転)に作用する筋

  • 主動作筋
    • 長母指外転筋
  • 補助動筋
    • 長母指伸筋
    • 短母指伸筋

外転(掌側外転)に作用する筋

  • 主動作筋
    • 長母指外転筋
    • 短母指外転筋
  • 補助動筋
    • 短母指伸筋
    • 母指対立筋
    • 短母指屈筋
    • 長掌筋14)

長掌筋の停止腱の一部は,短母指外転筋と母指対立筋の起始腱になっています17)

内転(掌側内転)に作用する筋

  • 主動作筋
    • 母指内転筋
    • 短母指屈筋11)
  • 補助動筋
    • 長母指屈筋
    • 長母指伸筋
    • 第 1 背側骨間筋14)

短母指屈筋は主には外転に作用します。
内転に作用するのは,短母指屈筋の深頭だと思うのですが,そのことについて詳しく書いている文献は見つかりません。
短母指屈筋を主動作筋としているのは間違いなのかもしれません。

対立に作用する筋

  • 主動作筋
    • 母指対立筋
  • 補助動筋
    • 短母指外転筋14)
    • 短母指屈筋14)
    • 長母指屈筋9)
    • 長母指外転筋1)
    • 母指内転筋11)

復位に作用する筋

  • 主動作筋
    • 長母指外転筋9)
    • 短母指伸筋9)
    • 長母指伸筋1)
  • 補助動筋
    • なし

対立と復位に作用する筋については,文献による違いがかなりあります。
この記事では,対立と復位に作用する可能性のある筋は,とりあえず全て挙げています。
対立の運動経路は一つではありません。
また,運動範囲が広いために,モーメントアームの変化がありそうです。
そのような点をどう解釈するかで,作用する筋も変わってくると思います。

手根骨に付着する筋はこちら
中手骨に付着する筋はこちら
指骨に付着する筋はこちら

主な血液供給

母指の手根中手関節の関節包や靱帯に分布する動脈についての明確な記述は見つけられていません。

おそらくは,橈骨動脈の枝だと思います。

関節の感覚神経支配1)

  • 関節包背面:橈骨神経(C6)
  • 関節包掌面:正中神経(C6)

おわりに

母指の手根中手関節の解剖や運動に関しては,分かっていないことや,統一されていないことが多いようです。
また,手根中手関節は,舟状大菱関節と連動して動いているはずですが,舟状大菱関節の詳しい情報は得ることができていません。
今後の課題は山積みです。

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参考文献

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3)米本恭三, 石神重信, 他: 関節可動域表示ならびに測定法. リハビリテーション医学. 1995; 32: 207-217.
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5)秋田恵一(訳): グレイ解剖学(原著第4版). エルゼビア・ジャパン, 2019, pp644-663.
6)金子丑之助: 日本人体解剖学上巻(改訂19版). 南山堂, 2002, pp200.
7)長島聖司(訳): 分冊 解剖学アトラス I (第5版). 文光堂, 2002, pp134-135.
8)富雅男(訳): 四肢関節のマニュアルモビリゼーション. 医歯薬出版, 1995, pp71-82.
9)荻島秀男(監訳): カパンディ関節の生理学 I 上肢. 医歯薬出版, 1995, pp132-165.
10)中村隆一, 斎藤宏, 他:基礎運動学(第6版補訂). 医歯薬出版株式会社, 2013, pp230-245.
11)木村哲彦(監修): 関節可動域測定法 可動域測定の手引き. 共同医書出版, 1993, pp60-82.
12)板場英行: 関節の構造と運動, 標準理学療法学 専門分野 運動療法学 総論. 吉尾雅春(編), 医学書院, 2001, pp20-41.
13)大井淑雄, 博田節夫(編): 運動療法第2版(リハビリテーション医学全書7). 医歯薬出版, 1993, pp165-167.
14)津山直一, 中村耕三(訳): 新・徒手筋力検査法(原著第9版). 協同医書出版社, 2015, 167-203.
15)渡邊政男: 手指の基本的知識とセラピィ. 大阪作業療法ジャーナル. 2011; 24: 46-53.
16)片岡利行: 手指関節のバイオメカニクス. Jpn J Rehabil Med. 2016; 53: 765-769.
17)市江雅芳: 長掌筋の作用に関する機能解剖学的研究. 信州医誌. 1987; 35: 33-44.

2021年12月31日

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