尤度比の定義と使いかた

はじめに

尤度比(ゆうどひ)の定義と使い方について説明します。

感度と特異度についてまとめた記事の続きになります。
その記事を先に読んでいただくことをお勧めします。
特に「検査陽性 = 疾患あり」ではないということを先に理解しておく必要があります。

尤度比とは

感度と特異度から尤度比という数値を得ることができます。
尤度比も検査の能力(有効性)を表す数値です
尤度比によって検査結果を得た後の疾患がある確率を計算することができます。

尤度比を理解するためには,いくつかの用語や概念を知る必要があります。
定義が続き,長くなりますが,お付き合いください。

前の記事と同じ表を使います。

疾患あり疾患なし
検査陽性ab
検査陰性cd

事前確率

検査を行った人の中での疾患がある人の割合です。

事前確率 = (a + c) / (a + b + c + d)

「事前」とは検査をする前ということです。
検査をせずに「あなたは〇〇という病気にかかっています」と言った場合に,それがまぐれ当たりになる確率は,事前確率と同じです(〇〇は検査対象の疾患です)。

有病率と同じですが,全く同じではありません。
有病率とは特定の集団での一時点における疾患がある人の割合です。
例えば,日本にいる人全員を対象に検査をするとなれば,事前確率と日本での有病率は一致します。
しかし,何らかの症状や訴えがあって病院にやって来た人は,疾患を持っている可能性が高い人たちです。
その状況で検査をするときの事前確率は日本での有病率よりも高いはずです。
検査対象者における有病率であれば,事前確率と同じです。

ややこしい話ですが,あとの尤度比の使い方のところで,同じようなことを説明します。

事後確率

検査が陽性の人の中で本当に疾患がある人の割合です。

事後確率 = a / (a + b)

陽性的中率ともいいます。

検査が陰性の人の中で疾患がある人の割合も事後確率です。
これは陽性的中率ではありません。

(陰性のときの)事後確率 = c / (c + d)

陰性的中率というものもあります。
検査が陰性の人の中で本当に疾患がない人の割合です。
ややこしいのですが,陰性のときの事後確率とは異なります。
今回の尤度比の説明では,この陰性的中率は使いません。

オッズ odds

先に説明した事前確率や事後確率での確率(割合)はある事象を全事象で割ったものです。
それに対して,オッズはある事象をそれ以外の事象で割ったものです。
例えば,100 人中 8 人に疾患があるとすると,確率は 8 / 100 = 0.08 (8%) であり,オッズは 8 / 92 = 0.086・・・となります。
確率が小さい場合,確率 ≒ オッズとなります。

確率とオッズを変換する式は以下の通りです。

オッズ = 確率 / (1 – 確率)
確率 = オッズ / (1 + オッズ)

さて,確率を一般的な広い意味で捉えると,オッズも確率を表現するもののひとつですので,ややこしくなります。
ここでは,確率とオッズを先に書いた通りの意味で使っていると理解してください。

事前オッズ

事前確率をオッズにしたものです。
疾患がある人の数を疾患がない人の数で割ります。

事前オッズ = (a + c) / (b + d)

事後オッズ

事後確率をオッズにしたものです。
検査が陽性の人の中で,疾患がある人のオッズです。

事後オッズ = a / b

検査が陰性の人の中で,疾患がある人のオッズというものもあります。

事後オッズ = c / d

尤度比(likelihood ratio : LR)

陽性尤度比 positive likelihood ratio と陰性尤度比 negative likelihood ratio があります。

陽性尤度比 = (a / (a + c)) / (b / (b + d)) = 感度 / (1 – 特異度)

陰性尤度比 = (c / (a + c)) / (d / (b + d)) = (1 – 感度) / 特異度

陽性尤度比は,疾患がある人から陽性という結果が得られる確率が,疾患がない人から陽性という結果が得られる確率の何倍なのかを表しています。
ちょっと分かりにくい概念です。
でも,尤度比の意味が分からなくても,次に説明する尤度比の使い方が分かっていれば,充分に実用的だと思います。

尤度比の使い方:事前確率,尤度比,事後確率の関係

基本となる関係式

検査が陽性のときは

事前オッズ × 陽性尤度比 = 事後オッズ

という関係になります。

検査が陰性のときは

事前オッズ × 陰性尤度比 = 事後オッズ

という関係になります。

確率を使うと計算式が複雑になってしまうので,オッズを使います。

検査結果を得る前に考えていた疾患の可能性が,検査結果を得た後に高くなったり,低くなったりするのですが,その程度が計算できるということです。

関係式の使用例

関係式の使い方を改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を例にあげて説明します。

65 歳以上の高齢者に対してHDS-Rを行う場合を考えてみましょう。

検査を行わなくても,65歳以上というだけで認知症である可能性は少し高くなります。
その可能性が,陽性であればさらに高くなりますし,陰性であれば低くなります。
いたって自然な思考過程です。

陽性の時にどれくらい可能性が高くなるかを計算するのが,「事前オッズ × 陽性尤度比 = 事後オッズ」という式であり,陰性の時にどれくらい可能性が低くなるのかを計算するのが,「事前オッズ × 陰性尤度比 = 事後オッズ」という式になります。

それでは,HDS-R が陽性(20 点以下)であった場合をみていきましょう。

まずは事前オッズを求めます。
認知症を疑う症状の有無はまだ把握しておらず,65歳であることだけが分かっているとします(滅多にない状況ですが,,,)。
65 歳以上の高齢者における認知症の有病率は 15% くらい3)ですので事前確率を 15% とします。
オッズに直すと,

0.15 / (1 – 0.15) ≒ 0.18

となり,事前オッズは0.18です。

次に陽性尤度比を求めます。
HDS-R の感度は 0.90,特異度は 0.82 です4)

陽性尤度比 = 感度 / (1 – 特異度) = 0.90 / (1-0.82) = 5

となり,陽性尤度比は 5 です。

そして,事後オッズを求めます

事後オッズ= 事前オッズ × 陽性尤度比 = 0.18 × 5 = 0.90

です。

最後に,事後オッズ 0.90 を事後確率になおします。

0.90 / (1 + 0.90) ≒ 0.47

で,事後確率は47%です。

同じように計算して陰性尤度比は0.12,事後確率は約2%です。

つまり,65歳以上の高齢者において,長谷川式簡易知能評価スケールが陽性であれば,認知症である確率は 47% であるということです。
そして,陰性であれば,認知症である確率は 2% です。

陰性のときの確率は,まあそんなものかと思える数字ですが,陽性のときに 47% という数字にはちょっと驚いたのではないでしょうか?

事後確率が低くなってしまったのは,事前確率が低いためです。
65 歳以上の高齢者の有病率だけで計算しているということは,65 歳以上の高齢者を無作為に抽出して HDS-R を行った場合に相当します。
そういう状況では,認知症の人はそんなにいないということです。

実際の臨床では,例えば,大腿骨頸部骨折後に介護老人保健施設に入所した 65 歳以上の高齢者で HDS-R を行ったりします(理学療法士の臨床を例だと,実際には認知症という診断がついた状態から始まることがほとんどですので,色々と矛盾が生じるのですが,そこは無視してください)。
このような方が認知症である確率は高いはずです。
そのような方の半分くらいは認知症があると仮定しましょう。
半分ですから事前確率は 50% だとして陽性のときの事後確率を計算すると,約 83% になります。

事前確率によって事後確率が変化するということです。
そして,尤度比を使わずに直観的に事後確率を考えると,ときに大きな間違いにつながることがあります。

さて,先の臨床の例は事前確率が高い場合の例としてあげましたが,尤度比を複数かけあわせているようなイメージで解釈することもできます。
尤度比は狭い意味での検査だけでなく,様々な所見や病歴などにもあります。
65歳以上の高齢者において,大腿骨頸部骨折という病歴の尤度比があり,その尤度比から認知症についての事後確率をだします。
その事後確率を次の検査の行う前の事前確率とします。
そして,HDS-R が陽性のときの尤度比をかければ,65 歳以上の大腿骨頸部骨折後の人で HDS-R が陽性であったときの事後確率が分かります。

尤度比や事前確率(有病率)を知る方法

教科書や臨床研究論文などから,これらの数字を得ることができます。

尤度比は,研究から直接得られるものではなく,感度と特異度から計算するものです。
尤度比を知るために研究論文を検索するときには,「尤度比」で検索するのではなく,「感度,特異度」で検索する方が見つかりやすいでしょう。

有病率は公的な機関による統計から得られることもあります。
しかし,有病率が明らかになっていない疾患はたくさんあります。
施設内でのデータベースから分かることがあるかもしれません。
また,自分自身の経験による直観でもかまいません。
直観によって得た事前確率(有病率)であっても,それに尤度比をかけることは可能ですし,ある程度は実用的な数字を得ることができます。

おわりに

感度,特異度,尤度比の概念を理解していないと,検査結果の解釈が大きく変わる可能性があります。
理学療法士国家試験にも出題されるようになっています。

簡単には理解できない面もありますが,しっかり身につけておきたいところです。

参考文献

1)名郷直樹: 続EBM 実践ワークブック – 今,できる限りの医療を. 南江堂, 2002, pp79-106.
2)Fletcher RH, Fletcher SW, et al.: Clinical Epidemiology. 3rd ed, Lippincott Williams & Wilkins, 1996, pp43-74.
3)朝田隆, 他: 都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応.(参照 2020-7-6)
4)加藤伸司, 下垣光, 他: 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の作成. 老年精神医学雑誌. 1991; 2: 1339-1347
5)古川壽亮: エビデンス精神医療-EBPの基礎から臨床まで. 医学書院, 2000, pp109-146.
6)Sackett DL, Straus SE, et al.: Evidence-Based Medicine EBMの実践と教育. エルゼビア・サイエンス, 2003, 77-105.
7)日本疫学会: はじめて学ぶやさしい疫学 – 日本疫学会標準テキスト(改訂第 3 版). 南江堂, 2018, pp95-105.

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