EBM(Evidence Based Medicine)という言葉は知っていても,具体的にどんな手法であるのかはあまり知らないという方は多いように感じます。
EBMとは,研究結果からの最善のエビデンス,臨床的な専門技能(個人の経験),患者の価値観をうまく統合しようという手法です。
今回は,研究がなぜ必要なのかをまとめてみたいと思います。
理学療法士それぞれが,その人にしかできない経験を通して,様々な知識や技術を習得し,蓄積しています。
とても大切なことです。
でも,これだけでは「誤って」しまうことがあります。
偶然誤差とバイアス(系統誤差)があるからです。
偶然誤差とはランダムに生じる誤差のことです。
検査・測定では,技術を十分に習得し,理想的な条件で注意深く行っても,どうしても誤差が生じることことがあります。
それが偶然誤差です。
ばらつく数字は扱いにくいのですが,統計学はばらつきをうまく扱うことができます。
何度か測定して平均値を出すということはよく行われます。
バイアス(系統誤差)とは偏りのことです。
検査・測定で,測定者の癖によっていつも少なめの数字を出しているというような場合です。
また,片麻痺患者の理学療法を行なっている場合,その病院に重度の麻痺の患者が集まっているのであれば,その病院での経験は偏ったものになります。
バイアスはちゃんとした研究によって制御することができます。
研究デザインはバイアスを避けるための工夫であるといってもいいでしょう。
臨床研究のデータは,それぞれの臨床の場で行われている個人の経験を集めたものです。
でも研究では,バイアスをできるだけ避けるようにし,統計処理を加えることで偶然誤差を減らしています。
個人の経験から,バイアスと統計誤差を取り除くといってもいいかもしれません。
個人の経験だけでは得ることのできない知識を研究から得ることができます。
だから研究が必要になります。
ちょっと難しく書いてきましたが,他人の意見も聞いてみようという謙虚な姿勢があれば,自然と研究も見るようになるかもしれません。
最後に,バイアスについてもう少し書いておきます。
1. 選択バイアス
研究対象を選択するときに生じる偏りです。
日本人に対するある治療の効果を調べたいときに,関西だけで研究を行ったら,関西人に偏って選ぶことになります。
一施設だけで研究を行うと,先に書いたように,例えば重症の患者に偏ったりします。
「研究に参加したい人は手を挙げて」としてしまうと,手を挙げるのが平気な人に偏ります。
2. 情報バイアス
データなどの情報を得るときに生じるバイアスです。
研究者が治療効果を測定すると,例えば,どちらともとれる測定結果が出たときに,効果があるといえる方にしてしまう傾向があります。
「過去1年以内に腰痛はありましたか」というアンケート調査をしたとします。忘れてしまっている人がいるので,腰痛があった人の数は少なめにでる可能性があります。
3. 交絡バイアス
原因と結果の関係の背後に,別の要因が隠れている場合です。
糖尿病患者で,コーヒーをよく飲む人は合併症を起こしていることが多いことが分かったとします。
コーヒーによって合併症が起こると思いきや,コーヒーを飲む人はタバコを吸っていることが多く,タバコによって合併症が起こっているということがあります(本当にこんなことがあるのかは分かりません)。
コーヒーと合併症の関係を交絡といい,タバコを交絡因子といいます。
交絡はバイアスに含めない考え方もあります。
参考文献
名郷直樹: EBM 実践ワークブック-よりよい治療をめざして. 南江堂, 1999.
対馬栄輝: 研究デザインと統計解析の基礎. 理学療法学. 2017; 44: 463-469.
2017年12月31日