研究デザイン分類の基礎

はじめに

研究デザインの分類について,基本的なところを解説します。
研究論文を読んで臨床に活用しようとするときに,最低限必要となる知識をまとめています。
また,理学療法士国家試験にもある程度対応できる内容です。

研究デザイン分類の概要

研究デザインは,介入の有無と時間経過によって分類されます。

  • 観察研究
    • 症例報告・症例集積研究
    • 横断研究
    • ケースコントロール研究(症例対照研究)
    • コホート研究
  • 介入研究
    • シングルケースデザイン
    • RCT(ランダム化比較対照試験)

観察研究とは,データを集めて観察することを主体とする研究です。
いつも通りの治療を行なって観察するのが原則です。

介入研究は,積極的に介入する研究です。
いつも通りの治療ではなく,比較するために治療を変えるなどといった実験的な治療を行います。

それぞれについて解説していきます。

症例報告・症例集積研究

文字通り,症例を報告することです。
一症例の報告であれば症例報告と呼ばれ,複数症例の報告は症例集積研究(case series)と呼ばれます。
普通は,何か新しい発見につながりそうな症例について報告します。
目的は,仮説を検証することではなく,仮説を作ることです。

「時間を伴わない観察研究」です。
時間経過による分類は分かりにくいので注意が必要です。
例えば経過観察を行った症例報告であれば時間経過を伴うことになりますが,時間経過を伴わない症例報告もあります。
つまり,時間経過は症例報告や症例集積研究であるための必須条件ではありません。

症例報告をシングルケースレポートとシングルケーススタディに分ける場合があります2)

シングルケースレポートとは,卒前教育におけるいわゆる症例レポートや,ケースカンファレンスにおけるレポートのことです。

シングルケーススタディとは,シングルケースレポートに様々な考察を加えたものです。
オリジナリティのある事柄が含まれる場合は,学会や論文で報告されます。

横断研究 cross – sectional study

ある集団のある一時点での状態を調査する研究です。

有病率の調査は典型的です。
疾病の有無と要因の有無を同時に調査するのも横断研究です(後で述べるケースコントロール研究やコホート研究との違いに注意!)。

「ある一時点」であったり,「同時に調査」であったりするので,時間を伴わない観察研究です。

現状を調べるための研究であり,因果関係の立証などはできません。

ケースコントロール研究(症例対照研究)

疾病の要因を過去にさかのぼって探して,予後や因果関係を検討する研究です。

疾病がある人とない人を集め,ある要因の有無を過去にさかのぼって比較します。

例えば,「ACL 損傷があると変形性膝関節症になりやすい」という仮説を調べたければ,変形性膝関節症がある人とない人を選び,2 群間で過去に ACL 損傷がある割合を比較します。

時間を伴う観察研究です。
ある要因があり,その後にある疾病を発症するという時間経過があります。
過去にさかのぼることを後ろ向き研究,後方視研究,retrospective などと呼びます。

比較的実施しやすい研究です。
研究対象によっては,カルテを集計するだけです。

過去のデータに不備があってもどうすることもできないという欠点があります。

コホート研究

ある集団(cohort)を一定期間追跡する研究です。
要因を持つ集団と持たない集団を追跡し,要因の有無により,疾患の発生率や死亡率が異なるかどうかを観察します。
予後,因果関係を調べることができます。

ケースコントロール研究に似ていますが,過去にさかのぼるのではなく,追跡します。
例えば,先ほどと同じ「ACL 損傷があると変形性膝関節症になりやすい」という仮説を調べたければ,ACL 損傷のある人とない人を集め,追跡調査を行って,変形性膝関節症の発症率を比較します。

追跡するのですから,時間を伴う観察研究です。
未来に向かって追跡することを,前向き研究,前方視研究,prospective などと呼びます。

研究対象によってはかなり大がかりな研究になります。
何十万人を何十年も追跡するということもあり得ます。

シングルケースデザイン

1 人の患者に対して異なる治療を行い,効果を比較するものです。
基本的な考え方は,治療を行う時期と行わない時期を作り,治療を行う時期だけ状態が良くなれば,その治療は効果があると考える,というものです。

明らかに通常の治療ではなく,実験的な治療ですので,介入研究に分類されます。

様々なバリエーションがあり,例えば,N – o f – 1 デザインでは 1 人の患者に対してランダムに異なる治療を行います。

通常の臨床の現場において,比較的実施しやすい研究です。
治療を止めても効果が持続する場合には実施できません。

RCT randomized controlled trials(ランダム化比較対照試験)

無作為化比較試験とも呼ばれます。
治療効果(因果関係)を検証する上で最も信憑性の高い研究デザインとされています。

適応となる疾患や障害を持つ人を集め,効果を検証したい治療を行う群(治療群)と行わない群(対照群)に分けて,効果を比較します。

介入研究です。
シングルケースデザインは患者内比較ですが,RCT は患者間比較です。

とても重要な研究デザインですので,少し詳しく解説します。

比較対照の必要性

例えば「五十肩の患者 10 人に対して,運動療法を 3 ヶ月間行ったら,全員が治っていた。ゆえに運動療法は有効である」という研究があったとします(症例集積研究)。
この研究の結論はあまり信用できません。
なぜなら,自然経過で治ったのかもしれない(運動療法を行わなくても治っていたかもしれない)からです。
治療群(運動療法を行った群)と対照群(運動療法を行わなかった群)で比較し,治療群のほうが対照群よりも早く治るというような結果が得られれば,運動療法は有効であるということができます。

ランダム化(ランダム割り付け)

治療群と対照群に分けたとき,効果を検討する治療以外の要因が両群でそろっていなければなりません。
両群に差があると,それがバイアスとなります。
例えば,治療群の平均年齢が 30 歳,対照群の平均年齢が 50 歳であれば,治療でよくなったのか,若いからよくなったのかが分からなくなります。

年齢や性別などはそろえることができますが,未知の要因は意図的にそろえることができません。
このような未知の要因を両群で等しく割り付けるための方法がランダム化(ランダム割り付け)です。
ランダム化によって 2 群が同質の集団であることが保証されます。
ランダムとは,意図がなく規則性もないということであり,治療群あるいは対照群に入る確率が全員同じであるということです。
くじ引きなどを用いて治療群と対照群のどちらに入るかを決めます。

ランダムに分けていくと,たまたま治療群にある要因をもつ人が固まってしまうかもしれませんが,人数が多くなればなるほど,そのようなことは起こりにくくなります。
そして,ランダムに起こっていることは,統計学で処理することができます。

直観的には,十分にかき混ぜてから 2 つに分ければ,均等に分かれると思ってもいいでしょう。

Intention to treat analysis(ITT)

RCT による臨床試験を行っていると,諸事情により治療を受けられなくなる人も出てきます。
このような脱落した人を除いて解析をしてしまうと,せっかくのランダム化が無意味になってしまいます。
例えば,治療群で重症な人ほど脱落しやすいという傾向があれば,治療群はより軽症な人が集まった集団になってしまい,治療群での効果の平均点が上がってしまうということが起こります。

脱落した人なども含めて解析することを intention to treat analysis といいます。
例えば,途中で治療をやめてしまった人も効果判定を行い,その結果は最初に割り付けられた群の結果に含めます。
また,対照群から治療群に変わってしまった人がいても,その人の効果判定の結果は元の対照群に入れます。

日本語では治療企図分析などといいますが,あまり定着していません。

マスク化(盲検化)

どちらの群に入っているのかを,患者,治療者,さらに研究者にも分からないようにすることをマスク化と呼びます。

バイアスをコントロールするためのものです。

薬の臨床試験であれば対照群にはプラセボ(偽の薬)を投与することがあります。
そうすることで患者はどちらの群に入っているのかは分からなくなります。
どちらの群に入っているのかが分かっていると,心理的な効果によって治療群の患者がより改善したり,対照群の患者が改善しにくくなってしまうということがあり得るからです。

治療者が,対照群の患者に対してより手厚い治療をしてしまうかもしれません。

治療効果を評価するときに,特に研究者が評価する場合,自分の仮説に合うような測定結果を出してしまうかもしれません。

マスク化には限界があり,例えば運動療法のマスク化は難しいことがよくあります。
マスク化ができなくても RCT は成り立ちますが,研究結果の信頼性は下がります。

RCT を実施する大変さ

ランダム化やマスク化を実現するためには様々な手間がかかります。
統計処理を行ううえで必要な症例数を確保できないことがあります。
また,症例数を確保するために多施設共同で行う必要もでてきます。
場合によっては,治療費を研究者が負担することもあります。
そして,次に述べる倫理的な問題をクリアしなければなりません。

対照群があることによる倫理的な問題

対照群に割り付けられた患者に不利益が生じるという倫理的な問題があり得ます。
治療を受けられない患者が悪くなってしまうという問題です。
しかし,この問題は直観的に感じるほど大きな問題にはなりません。

対照群に対しては,効果を調べようとしている治療は行われませんが,その他の治療は行われます。
治療が全く行われないわけではありません。
新しい治療と従来の治療を比べる研究だと,対照群に対しては従来の治療が行われます。

そして,根本的なところなのですが,対照群の患者に不利益が生じるというのなら,それは,治療群で行う治療の方が効果があるということが分かっているということになります。
効果があると分かっているのなら,RCT は行われません。
RCT を行うのは,効果があるかどうかが分からないからです。
研究者は,自分が研究している治療に効果があると信じているでしょうから,効果のある治療を行えない患者がいることに後ろめたさを感じるでしょう。
しかし,他人から見れば,まだよく分かっていない謎の治療法だったりします。
つまり,治療群にも対照群にも不利益を被る可能性が同じ程度にあるということです。

それでも,人体実験という側面はなくならず,倫理的な問題は常につきまといます。

システマティック・レビュー(総説)

最後に,ここまで述べてきたものとは異なる分類の研究である,システマティック・レビューについて簡単に解説します。

システマティック・レビューとは,特定の臨床的な疑問について,関連する研究を系統的に集め,集めた研究のなかから質の高いもの
を選び,それらの結果を統合し,まとめたものです。
作業は全て一定の基準に基づいて系統的に行われます。

実際に研究を行うのではなく,研究結果をまとめるものです。

治療効果に関するシステマティック・レビューであれば,RCT を統合することになります。
単独の RCT よりもシステマティック・レビューの方がより信頼性が高いとされています。

複数の研究結果を統合するために用いる統計的な手法はメタアナリシスと呼ばれています。

システマティック・レビューのデータベースとして Cochrane Library が有名です。
リハビリテーションに特化したデータベースとしては PEDro があります。

おわりに

研究デザインを意識しながら文献を読めば,情報の確かさについてある程度は自分で判断できるようになります。
絶対に必要な知識だと思います。

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参考文献

1)折笠秀樹: 臨床研究デザイン-医学研究における統計入門.真興交易医書出版部, 1998.
2)内山靖(編): 標準理学療法学 専門分野 理学療法研究法第2版. 医学書院, 2006.

2021 年 2 月 9 日

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