はじめに
感度,特異度,尤度比は検査の能力(有効性)を表す数値です。
その感度,特異度の定義と使い方について説明します。
尤度比は別の記事で書いています。
目次
感度,特異度とは
定義を説明するための準備
まずは,感度,特異度を理解するために必要な予備知識を説明しておきます。
感度,特異度は,結果を陽性・陰性で表す検査に対して用います。
例えば,ある疾患をもった人を見つけるための検査では,その結果が決められた数値を越えれば,その疾患をもつ可能性が高いと考え,その結果を陽性と呼びます。
逆に,検査結果が決められた数値を越えなければ,その疾患をもつ可能性が低いと考え,その結果は陰性と呼びます。
決められた数値はカットオフ値といいます。
認知症を見つけるための改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)では,20 点がカットオフ値です。
検査の得点が 20 点以下であれば陽性で,認知症である可能性が高いと判断します(HDS-Rについては別の記事で解説しています)。
完璧な検査というものはなく,疾患があるのに陰性になったり,疾患がないのに陽性になったりします。
そこで,検査がどれくらい正確なものなのかを表す指標として,感度,特異度が使われます。
検査の感度,特異度を明らかにするためには,疾患の有無が確実に分かっている人に対して検査を行い,その結果を以下の表のように集計します。
疾患あり | 疾患なし | |
検査陽性 | a | b |
検査陰性 | c | d |
a は疾患があって検査が陽性となった人数,b は疾患がないのに検査が陽性となった人数,c は疾患があるのに検査が陰性となった人数,d は疾患がなくて検査も陰性となった人数です。
表に基づいて感度と特異度の定義を示します。
また,関連するものとして,陽性的中率と陰性的中率も示します。
感度 sensitivity
疾患がある人の中で検査が陽性となる人の割合です。
真陽性率あるいは敏感度ともいいます。
感度 = a / (a + c)
特異度 specificity
疾患がない人の中で検査が陰性となる人の割合です。
真陰性率ともいいます。
特異度 = d / (b + d)
陽性的中率
検査が陽性である人の中で疾患がある人の割合です。
陽性反応的中度ともいいます。
陽性的中率 = a / (a + b)
陰性的中率
検査が陰性である人の中で疾患がない人の割合です。
陰性反応的中度ともいいます。
陰性的中率 = d / (c + d)
感度,特異度がとりうる値
疾患がある人の全員が陽性となるのであれば,感度は1(100%)となりますが,実際には疾患があっても陰性になる人がいるため,感度は1未満になるのが普通です。
特異度も同じです。
感度,特異度の図による説明
より直観的に理解できるよう,図で説明します。
以下の記号を用います(図 1)
記号の組み合わせの意味は以下のようになります(図 2)
真陽性は疾患があって検査は陽性,偽陽性は疾患がないのに検査は陽性,真陰性は疾患がなくて検査は陰性,偽陰性は疾患があるのに検査は陰性ということです。
そして,100 人中 10 人が疾患を持っているという集団(図 3)に検査を行うとします。
検査結果を重ねます(図 4)。
感度と特異度のそれぞれに関係のある部分で分割し,感度と特異度の計算式を示します(図 5)
感度は一番下の行の 10 人,すなわち疾患がある人の結果だけで計算し,特異度は残りの疾患のない 90 人での結果だけで計算しています。
偽陽性や偽陰性の結果は考慮していません。
感度と特異度が検査のある一面しか表していないことが分かります。
感度,特異度をどのように使うのか
- 感度が高い検査は,それが陰性のとき,その疾患を除外できます。
- 特異度が高い検査は,それが陽性のときに,その疾患を確定できます。
これらのことを改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を例にあげて説明していきます。
HDS-R ではカットオフ値の 20 点以下であれば陽性ですが,このカットオフ値を変えることを考えてみましょう。
感度が高い検査は,それが陰性のとき,その疾患を除外できる
カットオフ値を 21 点,22 点と上げていくと,より高い点数をとらなければ陰性とならないのですから,陽性となる人は増えていきます。
陽性となる人が増えれば,疾患がある人の中で検査が陽性となる人の割合である感度は高くなります。
逆に,陰性になる人は減ってしまい,疾患がない人の中で検査が陰性となる人の割合である特異度は低くなります。
カットオフ値を高くした HDS-R は感度の高い検査ということになります。
高得点でも陽性と判定されるのですから,認知症がなくても,少しの減点で陽性と判定され,認知症の疑いがあると判定される人が多くなります。
そのような検査では,陽性であっても認知症の疑いがあるとは言いにくくなります。
一方で,かなりの高得点でなければ陰性にならない検査ですから,認知症があるにも関わらず高得点をとって陰性になる人は少ないはずです。
間違って陰性となったとは考えにくく,陰性であれば認知症ではない可能性が高くなります。
つまり,感度が高い検査は,それが陰性のとき,その疾患を除外できるということです。
図でも説明します(図 6)。
感度が高くなり,疾患がある人は全員陽性です。
でも,偽陽性の人は相変わらず存在します。
陽性であっても疾患があるとは言い切れません。
しかし,偽陰性の人はおらず,陰性の人は全て疾患がない人です。
ですので,陰性であれば疾患を除外できます。
特異度が高い検査は,それが陽性のときに,その疾患を確定できる
カットオフ値を下げていく場合も考えてみましょう。
カットオフ値を 19 点,18 点と下げていけば,低い点数でも陽性にはなりにくくなります。
陽性になる人は減り,陰性となる人は増えていきます。
陰性となる人が増えれば,疾患がない人の中で検査が陰性となる人の割合である特異度は高くなります。
逆に,陽性となる人は減ってしまい,疾患がある人の中で検査が陽性となる人の割合である感度は低くなります。
カットオフ値を低くした HDS-R は特異度の高い検査ということになります。
よほど低い点でなければ陽性とは判定されないのですから,認知症があっても陰性と判定され,認知症の疑いはないと判定される人が多くなります。
そのような検査では,陰性であっても認知症の疑いはないとは言いにくくなります。
一方で,かなりの低い点数でなければ陽性にならない検査ですから,認知症がないにも関わらずそのような低い点数をとって陽性になる人は少ないはずです。
間違って陽性になったとは考えにくく,陽性であれば認知症である可能性は高いといえます。
つまり,特異度が高い検査は,それが陽性のとき,その疾患を確定できます。
これも図でも説明します(図 7)。
陰性になる人が多くなり,疾患がない人は全員陰性です。
しかし,疾患があるのに陰性の人もいます。
陰性だからといって,疾患がないとは言い切れません。
しかし,偽陽性の人はおらず,陽性の人は全員が疾患がある人です。
ですので,陽性であれば,疾患を確定できます。
さて,感度と特異度を同時に高くすることは難しいことがほとんどです。
疾患があることを調べたい場合は特異度が高い検査,疾患がないことを調べたい場合は感度が高い検査と,検査を使い分ける必要があります。
また,偽陰性(見落とし)を避けたいときには感度が高い検査を,偽陽性を避けたいときには特異度が高い検査を使います。
異なる検査を使い分けるのではなく,説明の例のように,目的に合わせてカットオフ値を変えることもできます。
感度,特異度を知る方法
教科書や臨床研究の文献などで知ることができます。
しかし,全ての検査の感度と特異度が分かっているわけではありません。
感度と特異度は,いわゆる検査だけでなく,病歴や主訴などの所見にもあります。
例えば,「最近,物忘れがひどい」という訴えの感度,特異度があります。
しかし,このような所見の感度と特異度は,明らかになっていないことが多いようです。
そういうときには,経験による直観で感度と特異度を見積もります。
直観によるものであっても,感度,特異度という概念を明確に意識して使うのであれば,検査とそれに続く解釈の質はよくなるはずです。
あわせて読みたい
感度と特異度を合わせた指標が尤度比です。
尤度比については続きの記事に書いています。
参考文献
1)名郷直樹: 続EBM 実践ワークブック – 今,できる限りの医療を. 南江堂, 2002, pp79-106.
2)Fletcher RH, Fletcher SW, et al.: Clinical Epidemiology. 3rd ed, Lippincott Williams & Wilkins, 1996, pp43-74.
3)Loong TW: Understanding sensitivity and specificity with the right side of the brain. BMJ. 2003; 327: 716-7199. doi: 10.1136/bmj.327.7417.716.
4)日本疫学会: はじめて学ぶやさしい疫学 – 日本疫学会標準テキスト(改訂第 3 版). 南江堂, 2018, pp95-105.
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コメント
特異度の図の説明は、
80/90ではないでしょうか?
コメントありがとうございます。
特異度は疾患がない 90 人(白丸)の中で検査が陰性(緑)である人の割合です。緑は9*9で81人ですので,81/90でいいと思いますが,,,