はじめに
股関節 hip joint の解剖(構造)と運動について基本的なところをまとめます。
目次
- 股関節を構成する骨と関節面
- 関節の分類
- 股関節の靱帯
- 股関節の関節包
- 関節唇
- 股関節の滑液包
- 股関節の運動
- しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)
- 関節内圧
- 股関節に作用する筋
- 主な血液供給
- 股関節の感覚神経支配
股関節を構成する骨と関節面
- 大腿骨頭(凸面)
- 寛骨臼の月状面,関節唇,寛骨臼横靱帯(凹面)
両関節面の曲率がほぼ一致し,接触面積の広い適合性のよい関節です 4)。
大腿骨頭や寛骨臼には傾きがあります(後述)。
そのため,解剖学的肢位では,大腿骨頭の軟骨面は寛骨臼からはみ出し,前上面に露出します。
しかし,四つ這い位(屈曲90°,軽度外転,軽度外旋)だと,寛骨臼軸と大腿骨頸部軸が一直線上に並び,軟骨面ははみ出しません 9)。
大腿骨頭
大腿骨頭は球体の約 2 / 3(240°)を切り取ったような形です(図 1)。
大腿骨頭は関節軟骨におおわれていますが,骨頭窩部は靱帯が付着し,関節軟骨はありません。
関節軟骨が最も厚くなるところは,骨頭窩の上方の前方です(約 3.5 mm)1)。
頸体角
前額面上の大腿骨頸部軸と大腿骨骨幹部軸がなす角度です(図 2)。
大腿骨頭の向きを決める要素です。
標準値は 125° です。
異常値についての記載はありません。
頸体角が小さければ内反股,大きければ外反股といいます。
異常な角度は,大腿骨頭と寛骨臼の関係性を変え,脱臼や変性を起こしやすくします。
前捻角
大腿骨頸部軸と,大腿骨内側顆と外側顆を結ぶ軸がなす角度です(図 2)。
大腿骨頭の向きを決める要素です。
標準値は 15° ですが,文献により 8 ~ 30° の幅があります 1,2,4,9)。
異常値の明確な基準はありません 1)。
過度の前捻(過前捻)があると脱臼や変性が起こりやすくなります。
寛骨臼
寛骨臼は半球(180°)のくぼみです。
前額面で下方,水平面で前方を向きます。
くぼみの深さは,大腿骨頭の関節面を覆うほど深くないため,関節唇(後述)によって深さを補います。
関節軟骨がある面は月状面です。
馬蹄形です。
関節軟骨の厚みは,上前方部がとくに厚くなっています。
寛骨臼の縁は下方で欠けており,寛骨臼切痕とよびます。
欠けた部分は寛骨臼横靱帯(後述)によって補われます。
CE 角
寛骨臼の角度の指標の 1 つで,寛骨臼が大腿骨頭を覆う程度を角度で示しています。
大腿骨頭中心と寛骨臼の上外側縁を結んだ線と垂線がなす角度です(図 2)。
一般成人の平均値は 25 ~ 35° 1) です。
値が小さい場合は,寛骨臼が大腿骨頭を覆う程度が小さく,関節面同士の接触面積が小さくなります。
値が大きい場合は,寛骨臼が大腿骨頭を覆う程度が大きく,インピンジメントが起こりやすくなります。
臼蓋前捻角 acetabular anteversion angle
寛骨臼面の前方への傾きを表す指標です。
寛骨臼の前縁と後縁を結んだ線と矢状面がなす角度です(図 2)。
CT スキャンの骨盤水平面画像を用いて測定します。
標準値は 20° 1) です。
臼蓋前捻角が大きければ,大腿骨頭前面が寛骨臼から露出する範囲が大きくなり,不安定性が増します。
関節の分類
- 可動性による分類:滑膜性関節(可動結合)
- 関節面の形状と動きによる分類:球関節
- 運動軸による分類:3 軸性
- 骨数による分類:単関節
凹面が深い球関節ですので,臼状関節とも呼ばれます 2,4,9)。
股関節の靱帯
大腿骨頭靭帯 ligament of head of femur
円靱帯 ligamentum teres 2) とも呼ばれます。
- 近位付着部:寛骨臼窩,寛骨臼切痕縁,寛骨臼横靱帯 5)
- 遠位付着部:大腿骨頭窩
- 靱帯が緊張する動き:不明
新生児では,寛骨臼動脈を大腿骨頭にとおすための管ような役割をがあります。
成人では,血管としてはほとんど機能していません。
関節包内にある関節包内靱帯です。
ただし,滑膜に覆われていますので,関節腔内ではありません。
この靱帯の付着部については,文献での記述が曖昧で不確かです。
また,靱帯が緊張する動きについては,文献による違いが多く,曖昧な記述もあるため,不明としました。
腸骨大腿靭帯 iliofemoral ligament
- 近位付着部:下前腸骨棘と寛骨臼上縁
- 遠位付着部:転子間線
- 靱帯が緊張する動き:表 1
Y 靭帯,ビゲロウ bigelow の Y 靱帯 2,6),Bertin の靱帯 9) とも呼ばれます。
関節包靭帯です 1)。
外側束(横部)と内側束(下行部)に分かれます。
外側束(横部)は,上外側にあって,おおむね大腿骨頸軸と平行に走ります。
内側束(下行部)は,下内側にあって,おおむね大腿骨体軸と平行に走ります。
恥骨大腿靭帯 pubofemoral ligament
- 近位付着部:恥骨上枝,恥骨体,腸恥隆起,寛骨臼の前下縁,閉鎖膜
- 遠位付着部:転子窩,大腿骨頸内側下部,小転子,腸骨大腿靭帯,関節包の後下方,輪帯
- 靱帯が緊張する動き:表 1
関節包靭帯です 1)。
付着部については,文献による違いがあり,曖昧な記述もあります。
各文献にあったものをほぼ全て列挙しています。
坐骨大腿靭帯 ischiofemoral ligament
- 近位付着部:寛骨臼後下縁(おもに坐骨)
- 遠位付着部:大転子の内側面,腸骨大腿靭帯,輪帯
- 靱帯が緊張する動き:表 1
関節包靭帯です 1)。
股関節の運動と靱帯の緊張
屈曲 | 伸展 | 外転 | 内転 | 外旋 | 内旋 | |
腸骨大腿靭帯外側束 | – | + | – | ++ | + | – |
腸骨大腿靭帯内側束 | – | ++ | + | + | + | – |
恥骨大腿靭帯 | – | + | ++ | – | + | – |
坐骨大腿靭帯 | – | + | – | + | – | + |
腸骨大腿靭帯については,完全外旋では外側束がとくに伸長される 1) ともあります。
また,外側束は外旋と内転を抑制し,内側束は内旋を抑制する 7) という記述もあります。
坐骨大腿靭帯については,浅層線維の大部分は股関節完全伸展のみではいくらか緊張するだけだが,内旋や 10 ~ 20° の外転を合わせることでさらに緊張する 1) との記述もあります。
輪帯 orbicular zone
大腿骨頸部の最も細い部分を取り巻くように走る靭帯です。
関節包の内面で輪状に隆起 7) した関節包靭帯です。
骨への付着をもたない靭帯であるとする文献 1) がある一方で,寛骨臼の上縁から起こるとする文献 6,11) もあります。
おそらく,完全に輪状になって骨に付着しない線維と,そこから分離して寛骨臼に向かう線維があるということだと思います。
輪帯は関節包の過度の伸張を制限し 6),大腿骨頭と寛骨臼の接触を保持する働き 7) があります。
寛骨臼横靭帯
- 付着部:詳細は不明
- 靱帯が緊張する動き:非該当
寛骨臼切痕の上に張っている靭帯で,骨による関節面が途切れたところを補っています。
この寛骨臼横靱帯と関節唇の関係については,文献による違いがあります。
関節唇が寛骨臼切痕の上を通る部分は寛骨臼横靱帯と呼ぶとしている文献 4,5,6) と,寛骨臼横靱帯に関節唇が付着するとしている文献 7,9) があります。
付着部について明記している文献はなさそうです。
股関節の関節包
線維膜
寛骨側の付着:寛骨臼縁,寛骨臼横靱帯,閉鎖孔縁
大腿骨側の付着:前面は転子間線,後面は転子間稜より上で,大腿骨頸部の外側および中央1/3の境界線
滑膜
寛骨側の付着:寛骨臼の関節面の縁
大腿骨側の付着:大腿骨頭の関節面の縁
大腿骨頭関節面の縁からでた滑膜は,大腿骨頸を覆いながら遠位に伸び,転子間線よりも手前で反転して,寛骨臼に向かいます。
関節唇
寛骨臼縁に付着している線維軟骨性の輪です。
関節唇があることで,股関節の凹面の深さが増します。
断面は三角形で,寛骨臼縁に付着する面,大腿骨頭と関節を形成する面,基部に関節包が付着する面 9) があります。
三角形の頂点は関節腔に突出した状態です。
関節を形成する面では,寛骨臼の関節軟骨(月状面)と交じり合う部分があり,関節唇軟骨接続部とよばれます。
股関節周囲に密封状態を形成します。
そのことで,関節内を陰圧に保ったり,関節面の間に滑液を保つことができます。
関節唇は血管が乏しいため,損傷時には治癒しにくい組織です。
固有感覚や痛覚に関係する求心性神経は豊富です。
股関節の滑液包 6)
- 皮下転子包:大殿筋の停止腱上で大転子と皮膚の間
- 大殿筋の転子包:大転子と大殿筋の腱の間
- 殿筋の筋間包:大殿筋と殿筋粗面の間
- 大殿筋の坐骨包:大殿筋と坐骨結節の間
- 腸恥包:腸腰筋と腸恥隆起の間,股関節腔と交通することがある
- 腸骨筋の腱下包:腸腰筋の腱と小転子の間
- 前中殿筋転子包:中殿筋の腱と大転子の間
- 後中殿筋転子包:前中殿筋転子包の後方で,中殿筋の腱と梨状筋の腱の間
- 小殿筋の転子包:小殿筋の腱と大転子の間
- 梨状筋(の滑液)包:梨状筋の腱と大転子の間
- 大腿直筋包:大腿直筋の起始腱の下方,まれにある
- 恥骨筋の腱下包:恥骨筋の腱と小転子の間
- 大腿二頭筋の上滑液包:大腿二頭筋の長頭の起始腱と坐骨結節の間
- 内閉鎖筋の坐骨包:小坐骨切痕縁と内閉鎖筋の間
- 内閉鎖筋の腱下包:内閉鎖筋が転子窩につくところ
股関節の運動
股関節の運動を表す用語には,骨盤に対する大腿骨の骨運動を表すものと,大腿骨に対する骨盤の骨運動を表すものがありますが,どちらも同じ運動です。
骨盤に対する大腿骨の骨運動を表す用語が,垂直軸に対する大腿骨の骨運動を表している場合 20) がありますので,注意が必要です。
大腿骨の軸には運動軸と解剖軸があります。
運動軸は大腿骨頭の中心と膝関節の中心を結んだ直線です。
解剖軸は前額面で大腿骨体の中心を通る直線です。
股関節の運動は運動軸で考えます。
各運動における回転軸は大腿骨頭またはその近くを通ると仮定されます 1)。
大雑把な仮定ですが,臨床場面では十分に実用的です。
屈曲と伸展
骨盤の動きでは前傾と後傾です。
矢状面における内外側軸での動きです。
運動軸は大腿骨頭の中心と大転子の頂点を結ぶ線です 6) 。
骨盤の中間位は上前腸骨棘 ASIS と恥骨結合を結んだ線が垂直になるところです 2) 。
関節包内運動では,軸回旋に近い動きです。
大腿骨頸を通る軸で軸回旋のみが生じる場合,骨運動は屈曲・外転・外旋あるいは伸展・内転・内旋になります。
- 屈曲の可動域(他動):125° 3)
- 屈曲の制限因子:大腿前面の筋と下腹部との接触 13)
- 屈曲のエンドフィール:軟部組織性 13)
可動域は文献により 110 〜 145° の範囲で幅があります。
膝伸展位では,ハムストリングスの緊張によって,可動域は減少します。
- 伸展の可動域(他動):15° 3)
- 伸展の制限因子:関節包前部,腸骨大腿靭帯,坐骨大腿靭帯,恥骨大腿靭帯の緊張 13)
- 伸展のエンドフィール:結合組織性 13)
可動域は文献により 0 〜 30° の範囲で幅があります。
膝屈曲位では,大腿直筋の緊張によって,可動域は減少します。
伸展を制限する靭帯は,主には,腸骨大腿靭帯です 1,2) 。
股関節屈筋群の緊張が伸展の制限因子となることもあります。
外転と内転
前額面における前後軸での動きです。
骨盤の動きでは左または右(上または下)の側方傾斜です。
- 外転の可動域(他動):45° 3)
- 外転の制限因子:関節包下部,恥骨大腿靭帯,腸骨大腿靭帯(内側束),坐骨大腿靭帯,内転筋群の緊張 13)
- 外転のエンドフィール:結合組織性 13)
可動域は文献により 30 〜 55° の範囲で幅があります。
外転を制限する靭帯は主には恥骨大腿靭帯です 1,9) 。
坐骨大腿靭帯が外転で緊張するかどうかについては不明です(前述)。
靭帯や筋の伸張性が高い場合,寛骨臼縁と大腿骨頸部の接触によって制限されることがあります 9) 。
- 内転の可動域(他動):20° 3)
- 内転の制限因子:関節包上部,腸骨大腿靭帯(外側束),外転筋群の緊張 13)
- 内転のエンドフィール:結合組織性 13)
可動域は文献により 20 〜 40° の範囲で幅があります。
屈曲位での内転の制限因子は坐骨大腿靭帯の緊張です 11) 。
内旋と外旋
水平面における垂直軸での動きです。
解剖軸(大腿骨体の長軸)ではなく,運動軸(大腿骨頭と膝関節の中心を結んだ線)での回旋です。
骨盤の動きでは前方回旋(前方突出)と後方回旋(後退)です。
- 内旋の可動域(他動):45° 3)
- 内旋の制限因子:関節包後部,坐骨大腿靭帯の緊張,外旋筋群の緊張 13)
- 内旋のエンドフィール:結合組織性 13)
可動域は文献により 30 〜 45° の範囲で幅があります。
- 外旋の可動域(他動):45° 3)
- 外旋の制限因子:関節包前部,腸骨大腿靭帯,恥骨大腿靭帯,内旋筋群の緊張 13)
- 外旋のエンドフィール:結合組織性 13)
可動域は文献により 30 〜 60° の範囲で幅があります。
股関節屈曲位だと腸骨大腿靱帯や恥骨大腿靱帯が弛緩するために,回旋の可動域は大きくなります 9) 。
しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)
- CPP:最大伸展 + 最大内旋 + 最大外転 8)
- LPP:30° 屈曲 + 30° 外転 + やや外旋 8)
股関節はしまりの肢位と関節面の最大適合位が一致しません。
関節面がもっとも適合するのは,適度な外転と外旋,90°屈曲を組み合わせた肢位です 1) 。
関節内圧
健常な股関節の関節内圧は大気圧よりも低い陰圧です。
ゆるみの肢位において,股関節を離開するには 40.7kg を超える牽引力が必要です 2) 。
献体における股関節屈曲角度と関節内圧の関係を調べた研究 1) では,屈曲の最終域以外では関節内圧は低いままです。
関節内に液体を注入した場合,関節内圧は運動範囲の中央域で低く,それ以外では高くなります。
股関節内に炎症や腫脹があると,関節内圧が低くなる軽度屈曲位が楽に感じます。
股関節に作用する筋
解剖学的肢位で筋が求心性収縮をしたときの作用が主です。
主動作筋と補助動筋に分けていますが,その区別の基準は決まっていないようです。
ここでは主に基礎運動学 11) を参考にして分けています。
はっきりしないものは補助動筋にしました。
股関節の屈曲に作用する筋
- 主動作筋
- 腸腰筋
- 大腿直筋
- 恥骨筋
- 大腿筋膜張筋
- 補助動筋
- 縫工筋
- 中殿筋(前部線維)
- 小殿筋(前部線維)
- 薄筋
- 長内転筋
- 短内転筋
- 大内転筋(上部線維)
主要な股関節屈筋は,作用の強い順に,腸腰筋,大腿直筋,縫工筋,恥骨筋,大腿筋膜張筋であるとしている文献 2) がありますので,縫工筋は主動作筋とした方がいいのかもしれません。
股関節の伸展に作用する筋
- 主動作筋
- 大殿筋
- 大腿二頭筋(長頭)
- 半腱様筋
- 半膜様筋
- 補助動筋
- 中殿筋(中部、後部線維)
- 小殿筋
- 薄筋
- 大内転筋
大内転筋の坐骨結節から起こる線維(後頭)には比較的強い伸展作用があり,大内転筋後頭を伸展の主動作筋としている文献 1) があります。
また,より恥骨側から起こる線維で屈伸の軸よりも後方にある線維は伸展の補助動筋として作用します。
小殿筋の最も後方にある線維は伸展に作用する 9) ようですが,小殿筋の伸展作用についての記述がない文献もあります 1,16) 。
内転筋群の屈伸に関する作用の逆転についてはこちら。
股関節の外転に作用する筋
- 主動作筋
- 中殿筋
- 大腿筋膜張筋
- 補助動筋
- 小殿筋
- 大殿筋(上部線維)
- 縫工筋
- 大腿直筋
- 梨状筋
小殿筋は,主要な外転筋の総断面積の約 20 〜 30% を占めており,外転の主動作筋であるとしている文献 1,16) もあります。
股関節の内転に作用する筋
- 主動作筋
- 恥骨筋
- 薄筋
- 長内転筋
- 短内転筋
- 大内転筋
- 補助動筋
- 大腿二頭筋(長頭)
- 大殿筋(下部線維)
- 大腿方形筋
- 外閉鎖筋
半膜様筋,半腱様筋,内閉鎖筋も内転に作用するとしている文献 9) があります。
股関節の内旋に作用する筋
- 主動作筋
- 小殿筋(前部線維)
- 補助動筋
- 大腿筋膜張筋
- 中殿筋(前部線維)
- 半腱様筋
- 半膜様筋
- 長内転筋
- 短内転筋
- 恥骨筋
股関節を内旋するための十分なモーメントアームを持った筋はないため,内旋の主動作筋は存在しない 1) という考え方もあります。
大腿筋膜張筋が内旋に作用するのは外旋位から内旋するときのみであるという可能性があります1)。
内転筋群による回旋の作用はやや分かりにくいため,ここでは,長内転筋の内旋筋としての作用 1) を説明します。
長内転筋は粗線内側唇の中央 1 / 3 に停止します。
大腿骨骨幹部には前彎がありますので,停止部は運動軸よりも前方になります。
そして長内転筋の力線は運動軸の前を通るので,内旋する力が生じます。
恥骨筋が内旋と外旋のどちらに作用するかという点については,研究者のあいだで意見が分かれています 1) 。
股関節の外旋に作用する筋
- 主動作筋
- 大殿筋
- 梨状筋
- 内閉鎖筋
- 外閉鎖筋
- 上双子筋
- 下双子筋
- 大腿方形筋
- 補助動筋
- 腸腰筋
- 縫工筋
- 恥骨筋
- 大腿二頭筋(長頭)
- 中殿筋(後部線維)
- 小殿筋(後部線維)
- 長内転筋
- 短内転筋
外閉鎖筋のモーメントアームはとても短いため,補助動筋に分類すること 1) もあります。
腸腰筋には解剖学的肢位における外旋の作用はないとしている文献 1) があります。
長内転筋と恥骨筋は内旋に作用するという説もあります(前述)。
股関節の安定化に作用する筋
大腿骨頸とおおよそ平行に走る筋は,寛骨臼に対し大腿骨頭を圧迫する作用があり,股関節の安定させます。
梨状筋,外閉鎖筋,小殿筋,中殿筋などがあります 9) 。
その他の深層外旋 6 筋(内閉鎖筋,上双子筋,下双子筋,大腿方形筋)にも同じような作用があります 1,2) 。
Iliocapsularis muscle,小殿筋,大腿直筋の反転頭が関節包前部に付着し,股関節の安定化に作用します 1) 。
Iliocapsularis muscle は,腸骨筋の深部にある筋で,起始は股関節の関節包と下前腸骨棘,停止は小転子から約 1.5 cm 遠位(小転子の頂部より遠位部から粗線まで)です 18,19) 。
腸骨周囲筋 1) という訳語がありますが,あまり使われていないようです。
腸腰筋には,伸展の際に,大腿骨頭を前方から押さえる作用があります 10) 。
主な血液供給 5)
- 閉鎖動脈
- 内側大腿回旋動脈
- 外側大腿回旋動脈
- 上殿動脈
- 下殿動脈
- 大腿深動脈の第一貫通枝からの枝
これらの血管の関節枝は,関節周囲で血管網を形成します。
股関節の感覚神経支配 1,5,12)
- 関節包前外側部:大腿神経
- 関節包前内側部:閉鎖神経(L3 1) )
- 関節包後部:坐骨神経,上殿神経,大腿方形筋神経の関節枝
髄節レベルについては,教科書等には十分な記載がありません。
「一般的原則として,股関節の関節包や靭帯,関節唇部は,それらを覆う筋の支配神経とおなじ神経根から感覚神経を受ける 1) 」とありますが,この原則から股関節を支配する神経の髄節レベルと特定することは難しそうです。
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スポンサーリンク参考文献
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2022 年 3 月 4 日
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