仙腸関節の解剖と運動:基本情報のまとめ

はじめに

仙腸関節 sacroiliac joint の解剖(構造)と運動について基本的なところをまとめます。

英語の sacroiliac は,ハイフンを入れて sacro-iliac5) と表記することもあります。

目次

仙腸関節を構成する骨と関節面

  • 仙骨の耳状面
  • 腸骨の耳状面

関節面があるのは第 1 仙椎から第 3 仙椎までです20)

関節面の形は耳状面つまり耳のような形です。
後方に凹の三日月形9)ともいいます。
個人差があり,L字型だったり楕円型だったりします4)

関節面の凹凸の関係について述べます。
「仙骨は 2 つの凹となっている寛骨の間では,凸の関節面をもった関節のパートナーと考えられている8)」とあります。
確かに,骨盤全体の解剖図の関節裂隙のラインを見るとそのように見えます。
しかし,実際にはそんなに単純ではありません。
また,関節面の凹凸については文献による違いがあります。

「仙骨の関節面は全体的には凹の形状となるが,第 1 仙椎は凹面,第 2 仙椎が凸面,第 3 仙椎が凹面と複雑である4)」とある一方で,「第 1 仙椎は凸面,第 2 仙椎は凹面20)」とも書いてあります。
仙骨が凹で腸骨が凸としている文献21)は他にもあります。

関節面の長軸方向において,腸骨側に隆起,仙骨側に溝があります9)
関節面には多数の窪みや隆起があるが,思春期までは平らであるとの報告もあります20)

関節面は長軸に沿ってねじれています4,21)
仙骨の関節面でいうと,頭側の関節面はより後方を向きますが,尾側の関節面はより矢状面に近くなります。

関節面を覆う軟骨については,文献によって書かれていることが異なります。
仙骨側と腸骨側の両方とも線維軟骨であるという説6,7,11,17)と,仙骨側は硝子軟骨で腸骨側は線維軟骨であるとする説2,20,22)があります。
その他の説として,関節軟骨の深層は硝子軟骨であるが,その表層は線維軟骨である16),仙骨側と腸骨側のどちらも線維軟骨と硝子軟骨の混合である22),年齢とともに硝子軟骨から線維軟骨へと置き換わる20),腸骨側は特殊な形態の硝子軟骨である21),腸骨側が線維軟骨であるのは子供のときだけである21),などがあります。

関節の分類

  • 可動性による分類:可動関節
  • 骨間に介在する組織の種類による分類:滑膜関節1,16)
  • 関節面の形状と動きによる分類:平面関節4,6,17)
  • 運動軸による分類:多軸性関節?
  • 骨数による分類:単関節

思春期と成人期にかけて,関節面の変化により,可動性は低下していきます。
可動関節から不動関節に変わることがあります。
完全な骨化は 80 歳までに約 10% の人に生じます(男性の方が生じやすい)1)
骨化や強直が生じる割合については様々な数値が発表されていますが,以前に考えられていたほどは多くないようです21)

女性では,可動域が一過性に増加し,25 歳でピークになるとの報告21)もあります。

半関節に分類すること7,11,18)もあります。

また,「diarthro-amphiarthrosis22)」ということもあります。
Diarthro-amphiarthrosis の日本語訳は見つかりませんでしたが,「可動関節 – 半関節」といった感じでしょうか。
可動関節ではあるが徐々に可動性が低下していくことを表しているようです。

平面関節から鞍関節に近い形状に変化する4)という記述もあります。

仙腸関節の運動軸の数による分類について直接述べている文献はありませんでしたが,3 方向の回転が可能であるとしている文献2,8,21)はありました。

関節分類についての解説は こちら

関節面の形状と動きによる分類については こちら

仙腸関節の靱帯

前仙腸靭帯 anterior sacroiliac ligaments: ASL

Ventral sacroiliac ligaments6,17,20,22) ともいいます。

  • 仙骨への付着部:仙骨前面で耳状面の前縁と前仙骨孔(上位 3 つ)の間
  • 腸骨への付着部:腸骨内側面で耳状面前縁の近く
  • 靱帯が緊張する動き:nutation 9)

関節包の前部と下部が肥厚した靱帯(関節包靭帯)です1,5,20,22)

走行の方向は,腸骨から仙骨に向かって前下方内側です9)

前上方線維束と前下方線維束の 2 つに分けること9)があります。
3 つに分けること22)もあります。

腸骨には主に女性において関節傍溝 paraglenoid sulcus, preauricular sulcus ができることがあり,前仙腸靭帯の付着部になります6,18)

前仙腸靭帯は,後仙腸靭帯,仙棘靭帯,仙結節靭帯,腸腰靱帯とつながっています1,22)

骨間仙腸靱帯 interosseous sacroiliac ligament: ISL

別名として,骨間靭帯1),short axial ligament20),axial ligament22)があります。

  • 仙骨への付着部:仙骨粗面6,16,17)
  • 腸骨への付着部:腸骨粗面6,16,17,22)
  • 靱帯が緊張する動き:nutation1)

仙腸関節の後上方で,短後仙腸靭帯の深層にあります。
一部は短後仙腸靭帯と混ざります1,20)

仙骨への付着は外側仙骨稜にもあります22)
腸骨では腸骨稜と腸骨窩の内側縁にも付着します22)

仙腸関節の靭帯の中では最も強い靭帯1,5)であり,仙腸関節の過剰な動きを制限する主な靭帯です20)

仙腸関節が滑膜関節と靭帯結合の二つの部分で構成されるとする考え方があり,骨間仙腸靱帯による結合が靭帯結合に相当します22)

短後仙腸靭帯 short posterior sacroiliac ligament

Short dorsal sacroiliac ligament6,17,20) ともいいます。

Posterior sacroiliac ligament と short を省略する場合22)があります。
また,短後仙腸靭帯と長後仙腸靭帯の両方をまとめて 後仙腸靭帯 posterior sacroiliac ligament と呼ぶ場合11)もあります。

  • 仙骨への付着部:外側仙骨稜6,22)
  • 腸骨への付着部:上後腸骨棘6,22)
  • 靱帯が緊張する動き:counter-nutation2)

骨間仙腸靱帯の表層で長後仙腸靭帯の深層にあります。

主な線維は仙骨から腸骨に向かって外側上方に走ります。
より頭側の線維は,背外側方向に走ります22)

短後仙腸靭帯の線維は周囲の靭帯(骨間靭帯,長後仙腸靭帯,仙棘靭帯,仙結節靭帯,前仙腸靭帯)と混ざります1,22)

短後仙腸靭帯の付着部について書かれていることは,文献によって異なります。
仙骨の外側仙骨稜への付着は,第 2 後仙骨孔の高さが中心で,上は関節突起の基部まで,下は第 4 後仙骨孔までの範囲で,文献によるばらつきがあります22)
さらに,外側仙骨稜の外側部や仙骨粗面,仙骨翼の縁,正中仙骨稜へも付着するとしていることもあります16,21,22)
腸骨への付着は,上後腸骨棘であることは共通していますが,腸骨粗面や下後腸骨棘にも付着するという文献もあります17,22)

長後仙腸靭帯 long posterior sacroiliac ligament

Long dorsal sacroiliac ligament6,17) ともいいます。

  • 仙骨への付着部:第3・第4仙椎に相当する外側仙骨稜16,21,22)
  • 腸骨への付着部:上後腸骨棘1,6,17,22)
  • 靱帯が緊張する動き:counter-nutation1,21)

短後仙腸靭帯の表層にあります。

仙骨から腸骨に向かって外側上方に走行します。

仙骨への付着は外側縁であるとしている文献6,17)があります。

長後仙腸靭帯の外側の線維は仙結節靭帯と混ざります16,20,21)
内側は胸腰筋膜後葉と連続しています20)
短後仙腸靭帯とも混ざります22)
脊柱起立筋の腱膜,多裂筋の筋膜,大殿筋の腱膜とつながっています22)

上述の長後仙腸靭帯とは別に,長後仙腸靭帯頭側線維があるとの記述22)があります。
この線維は,仙骨の上関節突起と posterior sacral tubercles から,腸骨稜の内唇に向かって,背外側に走ります(posterior sacral tubercles は中間仙骨稜を指しているようですが,文献には明記されておらず,不確かです)。

仙結節靭帯 sacrotuberous ligaments: STL

  • 近位付着部:上後腸骨棘,仙骨下部の背側部と外側縁,尾骨上部の背外側面5,22)
  • 遠位付着部:坐骨結節の内側縁5)
  • 靱帯が緊張する動き:nutation1,9)

下後腸骨棘にも付着するとしている文献16)や,上後腸骨棘ではなく下後腸骨棘に付着するとしている文献17,22)があります。
文献による違いは,おそらく,長後仙腸靭帯との区別の仕方が異なるためだと思います。

第3・第4仙椎に相当する外側仙骨稜にも付着します22)

尾骨への付着は第 1・2 尾椎の高さです22)

仙結節靭帯は以下の筋や靭帯などの軟部組織とつながっています。

  • 胸腰筋膜21,22)(上後腸骨棘にて)
  • 長後仙腸靭帯の外側の線維16,20,21,22)
  • 大腿二頭筋の腱1,2,20,22)
  • 大殿筋21,22)
  • 脊柱起立筋21,22)
  • 梨状筋22)
  • 内閉鎖筋22)
  • 半膜様筋22)
  • 半腱様筋22)

線維はねじれながら走行する9,20)とありますが,そのねじれを描いた図は見つかりませんでした。

仙棘靭帯より浅層にあり,仙棘靭帯と交差します。

仙結節靭帯の一部が坐骨結節の内面で鎌状に曲がって前進し閉鎖膜に達します。その線維束を鎌状突起といいます16)

尾骨の側方や坐骨結節の上内側で触診できます2)

仙結節靭帯と仙棘靭帯
図 1: 仙結節靭帯と仙棘靭帯(文献 5 を参考にして作図)

仙棘靭帯 sacrospinous ligament: SSL

  • 近位付着部:第 4・5 仙椎と第 1 尾椎の前外側面22)
  • 遠位付着部:坐骨棘
  • 靱帯が緊張する動き:nutation1,2,9,20)

坐骨棘から仙椎と尾椎に向かって,内側・後・上方に走ります。
仙結節靭帯の深層にある靭帯で,仙結節靭帯と交差します。

仙椎と尾椎への付着は,たんに外側縁と書かれていることが多いのですが,実際にはより前面にも付着5,22)しているようです。

仙棘靭帯の上部は前仙腸靭帯22)(関節包の尾側縁21))と混ざります。
下部は仙結節靭帯と混ざります18,22)

腸腰靱帯 iliolumbar ligament

主に腰椎と腸骨をつなぐ靭帯です。
仙腸関節だけでなく,腰仙関節や腰椎椎間関節にも関与する靭帯です。

  • 近位付着部:第 5 腰椎肋骨突起(ときに第 4 腰椎25)
  • 遠位付着部:腸骨の前内側面および腸骨稜内唇16,17,19),仙骨1,25)
  • 靱帯が緊張する動き:第 5 腰椎の前方転位19,20)

第 5 腰椎のみに付着するとしている文献18,19,20)があります。
第 4 腰椎にも付着するとしている文献1,2,6,7,9,16,17,21)が多いのですが,第 4 腰椎にも付着する割合については十分な記載がありません。
また,第 5 腰椎と第 4 腰椎の両方かあるいはどちらか一方に付着するとしている文献8)もあります。

仙骨にも付着することから,lumbo-ilio-sacral ligament21) と呼ぶ場合もあります。

仙腸関節の関節包にも付着21)します。

多裂筋や胸腰筋膜20),脊柱起立筋22,25),腸骨筋25),腰方形筋25)にも付着します。
上部は腰椎の横突間靭帯と混ざります21)

新生児,小児では腸腰靱帯の代わりに筋肉の束があり,徐々に靭帯組織に起き変わり,30 歳代で完全に靭帯化する19,20)と書かれていますが,妊娠 11 ~ 15 週の胎児にも腸腰靱帯が存在する21)ことが分かっています。

腰仙関節においては,主に側屈2,9,20,21)を制限し,屈曲・伸展,回旋2)も制限します。

腸腰靱帯はいくつかの線維束に細分化されるのですが,文献による違いがあります。

グレイ18)は腸骨稜につく上部線維と仙骨につく下部線維に分けています。

カパンジー9)は腸腰靱帯を上方線維束(第 4 腰椎に付着),下方線維束(第 5 腰椎に付着),仙骨線維束の3つに分けています。

腰椎の臨床解剖19)では以下の 5 つの靭帯に分けています。
仙骨につく線維については述べていません。

  • 前方腸腰靱帯:第 5 腰椎肋骨突起前下縁で,椎体から肋骨突起先端までの範囲〜腸骨(腰方形筋が付着)
  • 上方腸腰靱帯:第 5 腰椎肋骨突起先端付近の前上縁〜腸骨(腰方形筋基部を取り囲む筋膜が前方および後方で肥厚したもの)
  • 後方腸腰靱帯:第 5 腰椎肋骨突起の先端および後縁〜腸骨の腰方形筋起始部の後方
  • 下方腸腰靱帯:第 5 腰椎の肋骨突起下縁および椎体〜腸骨窩の上後部
  • 垂直腸腰靱帯:第 5 腰椎肋骨突起の前下縁〜腸恥骨線の後方端

4 つに分ける場合25)を以下にまとめます。

dorsal band

  • 近位付着部:第 5 腰椎肋骨突起尖端
  • 遠位付着部:腰方形筋付着部の内側部の下方にある腸骨粗面の頭側部,腸骨稜の内側部

胸腰筋膜か腰方形筋のどちらかにも付着します。
主に L4 と L5 からくる腰方形筋の最も内側の線維が,dorsal band の最も外側の部分に付着します。

ventral band

  • 近位付着部:第 5 腰椎肋骨突起の腹尾側部,ときに第 5 腰椎尾側側の終板
  • 遠位付着部:腸骨粗面の腹頭側部

腸骨筋の最も内側の線維が,ventral band の尾側部に付着します。

lumbosacral band(lumbosacral ligament21,26)

  • 近位付着部:第 5 腰椎椎体の腹外側部と第 5 腰椎肋骨突起の腹内側部
  • 遠位付着部:仙腸関節の近くで仙骨底の腹外側部

前仙腸靭帯と混ざります。

椎弓根に付着するとしている文献26)があります。

sacroiliac part of the iliolumbar ligament (SIPIL)

  • 近位付着部:仙骨翼の頭側面(第 5 腰椎肋骨突起のすぐ尾側にある)
  • 遠位付着部:腸骨粗面の腹内側部(ventral band とともに付着)

L5 – S1 間の横突起間靭帯や骨間仙腸靱帯と混ざります。
sacroiliac part の頭外側部と骨間仙腸靱帯の間には脂肪組織があります。

その他の靱帯22)

標準的な解剖学のテキストには載っていない靭帯がいくつかあります。
十分な情報が得られなかったため,名称のみ列記します。

  • polar anteroinferior ligament
  • horizontal ligament on S3
  • Illi’s ligament
  • sacro-sciatic (Zaglas) ligaments
  • round ligament

仙腸関節の関節包

関節腔は狭く6,16),関節包は関節面の縁のすぐ近くにつきます16,21)
関節包にはたるみのような余裕はありません16)

関節包の一部は関節傍溝(耳状面傍溝)paraglenoid sulcus につきます。
関節傍溝は,腸骨の耳状面の腹尾側にある溝で,男性にはたいていはありません21)
日本人体解剖学6)には,「関節包は両骨の関節傍溝間に張る」とありますが,仙骨に関節傍溝があるという記述は見つかりません。

仙腸関節の後方部には滑膜組織は存在しないという報告があります23)

仙腸関節の滑液包

今回調査した文献には仙腸関節の滑液包に関する記述はありませんでした。

仙腸関節の運動

以下に述べる仙腸関節の運動は,左右の仙腸関節が同時に動く運動です。
恥骨結合の運動とうまく連動すれば,片側の仙腸関節だけが動くことが可能であるはずですが,この点についての記述はありませんでした。

文献2,8,21)には,3 方向の回転が可能であると書かれています。
すなわち,矢状面における回転(nutation・counter-nutation),前額面における回転(外転・内転2),側屈8)),水平面における回転(内旋・外旋2),回旋8))の 3 方向です。

また,並進運動が可能で,腸骨に対して仙骨が上下方向および前後方向にすべる2)とあります。
その他の方向へのすべりがあるのかどうかは不明です。

可動範囲については,様々な数値がありますが,例えば,回転は 1 〜 4°,並進は 1 〜 2mm1) となっています。
妊娠・出産時には可動範囲は大きくなります。

仙腸関節は可動域の小さい関節であり,その運動は十分には解明されておらず,様々な説があるようですが,矢状面上で回転することと,すべりの動き(並進運動)が生じることに関しては意見が一致しているようです。

ここでは,仙骨の矢状面上での回転である nutation と counter-nutation のみをとりあげます。

nutation と counter-nutation

仙骨の矢状面における回転です。
Nutation では,腸骨に対して仙骨の上部(岬角)が前下方に動きます。
Counter-nutation では,腸骨に対して仙骨の上部(岬角)が後上方に動きます。

日本語訳は統一されていません。
Nutation は,前屈1,2,4),うなずき運動2,8,9,17)と訳されています。
Counter-nutation は,後屈1,2,4),起き上がり運動2,9),反うなずき運動8),逆うなずき運動17)と訳されています。

英語では,nutation を sacral flexion,counter-nutation を sacral extension ということもあります20)

運動軸がどこにあるかについては様々な説9,20)がありますが,古典的には骨間仙腸靱帯1,9,16)(第 2 仙椎21))を通るとされています。

仙骨の nutation と counter-nutation に対する腸骨の動きは,逆の動きが起こるだけではありません。
仙骨の nutation に対して,左右の腸骨稜が近づき,坐骨結節は離れます。
そして,counter-nutation に対しては逆の動きが起こります2,9)

仙骨と腸骨の動き
図 2: 仙骨と腸骨の動き(文献 9 を参考にして作図)
  • nutation の可動域(他動):記載なし
  • nutation の制限因子:前仙腸靭帯,骨間仙腸靱帯,仙結節靭帯,仙棘靭帯の緊張
  • nutation のエンドフィール:記載なし
  • counter-nutation の可動域(他動):記載なし
  • counter-nutation の制限因子:短後仙腸靭帯,長後仙腸靭帯の緊張
  • counter-nutation のエンドフィール:記載なし

中間位からの nutation と counter-nutation の可動域について書いている文献はありませんでした。

「骨間仙腸靱帯は仙腸関節の過剰な動きを制限する主な靭帯20)」,「仙骨底は仙腸靭帯が緊張するまで両側の腸骨の間で腹側に動く8)」といった記述があることから,制限因子は靭帯で,エンドフィールは結合組織性になると思うのですが,これらのことについて明記している文献はありませんでした。

関節包内運動

「前屈運動と後屈運動中の関節包内運動には,腹側および背側方向への滑り運動と尾側および頭側方向への滑り運動がある4)」との記述があるのみで,詳しいことは分かりません。

しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)

  • CPP:不明
  • LPP:記載なし

CPP は,nutation1) と counter-nutation4) で意見が分かれています。

関節内圧

今回調査した文献には仙腸関節の関節内圧に関する記述はありませんでした。

仙腸関節に作用する筋

仙腸関節は脊柱や股関節と連動して受動的に動く関節であり,仙腸関節だけを意識的に動かすことはできません4,17)
また,仙骨と腸骨をつなぐ単関節筋はありません。
仙腸関節の主動作筋はない4,23)とするのが妥当だと思います。

nutation に作用する筋

今回調査した文献において,nutation に作用すると明記されていた筋は以下の通りです。
おそらくこれが全てではないと思います。

  • 多裂筋1,21)
  • 脊柱起立筋1,21)
  • 腹直筋1)
  • 外腹斜筋1)
  • 大腿二頭筋1)

脊柱起立筋と多裂筋は,仙骨を nutation の方向に引くだけでなく,腸骨の後側を互いに引き寄せることによっても nutation を引き起こす21)ことができます。

counter-nutation に作用する筋

今回調査した文献で counter-nutation に作用する筋について明記しているものはありませんでした。

脊柱起立筋は nutation を起こすと同時に,付着している仙結節靭帯を緊張させることで nutation を制限します21)
つまり,脊柱起立筋は counter-nutation の作用もあるということになります。
脊柱起立筋は次に述べる仙腸関節の安定化に作用するとしたほうがいいのかもしれません。

仙腸関節の安定化に作用する筋

筋骨格系のキネシオロジー1)は,以下の筋が安定化に作用するとしています。

  • 脊柱起立筋と多裂筋
  • 横隔膜と骨盤底筋群
  • 腹直筋
  • 内服斜筋と外腹斜筋
  • 腹横筋
  • 大腿二頭筋や大殿筋
  • 広背筋
  • 腸骨筋と梨状筋

仙骨に付着する筋はこちら

寛骨に付着する筋はこちら

主な血液供給22)

  • 正中仙骨動脈 median sacral artery
  • 外側仙骨動脈 lateral sacral arteries
  • 腸腰動脈 iliolumbar artery
  • 下殿動脈 inferior gluteal artery
  • 上殿動脈 superior gluteal artery

外側仙骨動脈については,もとの文献22)には,lateral sacral branches of the internal iliac artery と書かれています。
手持ちの解剖学のテキストに lateral sacral branches of the internal iliac artery は載っておらず,おそらく外側仙骨動脈のことだと思います。

仙腸関節の感覚神経支配

仙腸関節の感覚神経支配に関する記述は,文献1,20,21,22)によって異なります。
脊髄の髄節レベルでは,関節の前面は L3 〜 S4,後面は L5 〜 S4 の範囲でばらつきがあります。
末梢神経では,脊髄神経根前枝の枝,脊髄神経後枝の枝,前面と後面の仙骨神経叢,上殿神経(前面)による支配の記述があり,文献による違いがあります。

ここでは,日本での研究23)の結果を一例として紹介します。

仙腸関節前面上部

第 5 腰神経前枝の枝による支配が主です。
個体差や左右差があり,第 5 腰神経前枝のみによって支配される場合,第 5 腰神経前枝だけでなく仙骨神経叢の枝と第 4 腰神経前枝のいずれかあるいは両方が加わる場合,第 3 腰神経前枝のみによってに支配される場合,仙骨神経叢のみによって支配される場合,第 3・4 腰神経前枝によって支配される場合があります。

仙腸関節の前方にある仙骨神経叢は,第 3 または第 4 腰神経前枝の枝,第 5 腰神経前枝の枝,第 1 〜 3 仙骨神経前枝で形成されます。
第 4 仙骨神経前枝が仙骨神経叢に加わることもあります。

仙腸関節前面下部

第 2 仙骨神経前枝と仙骨神経叢による支配が主です。
個体差や左右差があり,第 2 仙骨神経前枝の枝と仙骨神経叢の枝の両方あるいはどちらかによる支配であることが多く,それに第 1 仙骨神経前枝の枝や第 3 仙骨神経前枝の枝が加わったり,第 1 仙骨神経前枝の枝のみによって支配されたりします。

仙腸関節後面上部

第 5 腰神経後枝の外側枝による支配です。
個体差や左右差があり,第 1 仙骨神経後枝の外側枝からの枝が加わる場合があります。

仙腸関節後面下部

第 5 腰神経後枝と第 1 ~ 第 4 仙骨神経後枝の外側枝で形成される仙骨神経叢による支配です。
個体差や左右差があり,第 3 仙骨神経後枝の外側枝が加わる場合があります。

ただし,文献では,仙骨神経叢は第 5 腰神経後枝と第 1 ~ 第 4 仙骨神経後枝の外側枝で形成されるとしながら,仙腸関節後面下部は仙骨神経後枝の外側枝によって形成される神経叢によって支配されるとしており,第 5 腰神経後枝による支配が不明確になっています。

仙腸関節を支配しない神経

仙腸関節周囲を走行する末梢神経として,坐骨神経,閉鎖神経,上殿神経,下殿神経がありますが,いずれも仙腸関節に向かう枝は出していません。

Accessory sacroiliac joint(ASIJs)21,22)

耳状面によって構成される関節以外にも仙骨と腸骨を結合する部分があり,Accessory sacroiliac joint と呼ばれています。
axial part of the SIJs とも呼ばれます。
この関節について記載のある文献は限られます。
Accessory sacroiliac joint の正式な訳語はないようです(直訳すると副仙腸関節です)。

Axial SIJ22) という名称もありますが,これは Accessory sacroiliac joint の別タイプを指していたいり,骨間仙腸靱帯の別名であったりします。

必ず存在するものではなく,出現頻度は 8% 〜 40% との報告があります。

関節面は硝子軟骨あるいは線維軟骨で覆われ,独自の関節包と滑膜があります。

関節面の直径は 2 mm 〜 1cm です。
関節面が 2 つ,あるいは 3 つあることがあります。

仙骨側の関節面があるのは,第 1 仙骨孔または第 2 仙骨孔の高さの外側仙骨稜の領域です。
腸骨側の関節面は,上後腸骨棘の内側面と腸骨粗面の領域にあります。

関節面は骨間仙腸靱帯に囲まれています

この関節は nutation と counternutation の運動軸であると考えられています。

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関節運動学(関節包内運動)における関節面の動き

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参考文献

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2025 年 7 月 13 日

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