初期接地の定義が文献によって異なることについて

はじめに

ランチョ・ロス・アミーゴ(RLANRC)方式の歩行周期を解説している日本語の成書として「ペリー 歩行分析 正常歩行と異常歩行1)」と「観察による歩行分析2)」の 2 冊があります。

その 2 冊で初期接地(イニシャルコンタクト)の定義が異なります。
その点について書いてみたいと思います。

それぞれの定義

ペリー 歩行分析 正常歩行と異常歩行

「足部がちょうど床に触れる瞬間と体重の移動開始直後に反応する瞬間を含む」としていて,歩行周期の 0 〜 2% となっています。

観察による歩行分析

「脚が地面に接触する瞬間である」としていて,歩行周期の 0% となっています。

「0 〜 2%」とするか,「0%」とするかで異なっています。
期間と点の違いです。

メリット・デメリット

歩行周期始めの 1 〜 2% で,床反力の垂直成分にスパイク波形が発生します。
そのスパイク波形は接地時の衝撃を表しています。
そして,前脛骨筋の活動強度は,歩行周期の 1% で最大となります。
2% という短い時間(およそ 0.02 秒)ですが,このようなことが生じる相として独立させるのは,意味のあることです。

それに,8 つの相のうち,初期接地だけが瞬間の点を表すとなると,定義の基準がそろっていないようで,不自然な感じがします。

一方で,初期接地とそれに続く荷重応答期は,肉眼での観察では区別できません。
ヒールロッカーが生じているという点では同じです。
そう考えると,初期接地を点(歩行周期の 0%)とし,歩行周期の 0 〜 2% は次の荷重応答期に入れてしまうというのは理にかなっているのかもしれません。

困ることはあるか

定義が違っても,治療を実施するうえで,特に困ることはなさそうです。

セラピスト同士での会話で,多少困ることはあるかもしれません。

科学においては,定義は重要です。
特に,精密な機器を用いる研究では,歩行周期の 2% という短い時間でも検出できますので,定義が変われば結果も変わります。

学生だと,試験に関わります。
定義が統一されていなければ,試験を作りにくくなります。
例題を作ってみました。

正常歩行において,前脛骨筋の活動のピークがあるのは,歩行周期のどの相か。2 つ選べ。

1.初期接地
2.立脚中期
3.前遊脚期
4.遊脚初期
5.遊脚中期

一つは遊脚初期です。
そして,もう一つは歩行周期始めの 1 〜 2% です。
「ペリー 歩行分析」で覚えた人は,1 の初期接地を選びますが,「観察による歩行分析」で覚えた人は,荷重応答期がないので,解なしになってしまいます。

おわりに

試験を作る人は,定義に敏感でなければなりませんね。

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参考文献

1)武田功(統括監訳): ペリー 歩行分析 原著第2版 -正常歩行と異常歩行- .医歯薬出版, 2017.
2)月城慶一, 山本澄子, 他(訳): 観察による歩行分析. 医学書院, 2006.

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2020 年 10 月 5 日

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