歩行周期の要点〜遊脚初期(イニシャルスイング)

はじめに

歩行周期における遊脚初期(イニシャルスイング,initial swing,ISw)の定義,働き,関節の角度,筋の活動などについて,大事なところをまとめます。

歩行周期(ランチョ・ロス・アミーゴ方式)の全体についてはこちらの記事をご覧ください。

定義

始まり(62% GC):観察肢のつま先が床から離れた瞬間
終わり(75% GC):両側の足関節が矢状面で交差した瞬間

GC は gait cycle(歩行周期)の略

遊脚初期の終わりの定義について,文献1,2)では不確かなことがあります。
文章では,「足関節が交差した瞬間」とあるのですが,「下腿が交差した瞬間1)」と書かれているところがあります。
そして,文献2)にある図では,足関節ではなく下腿が交差した状態が描かれています。
また,各関節の角度の詳細なデータから遊脚初期の状態を作図すると,下腿は交差しますが足関節は交差しません(図 1)。
正確な定義は分かりません。

遊脚初期の終わりは膝関節の伸展が始まるころとほぼ一致します(後述)。

遊脚初期
図 1: 遊脚初期

主な機能

主な機能は

  • 床から足を挙げる
  • 下肢を前に運ぶ

です。

肢位と運動範囲

概要

足が挙がり遊脚期が始まります。
大腿が前進し,膝が大きく屈曲します。
足部が体幹の下まで進みます。

距腿関節

底屈 17.4°(62% GC)→ 底屈 2.4°(75% GC)

背屈していきますが,まだ底屈位です。

距骨下関節

中間位です。

中足趾節関節

底屈していきますが,背屈位は維持されます。

膝関節

屈曲 44.3°(62% GC)→ 屈曲 58.7°(71% GC)→ 屈曲 56.0°(75% GC)

膝関節の屈曲角度が最大となります。
距腿関節はまだ底屈位であるため,トウクリアランスのためには膝関節の屈曲が重要です。

大腿

股関節ではなく大腿の角度(静止立位を基準とした大腿の位置)です。

伸展 6.6°(62% GC)→ 屈曲 16.9°(75% GC)

大腿は体幹よりも前に出ます。

骨盤

文献 1 では,5° 後方回旋のままとなっています。
文献 2 では,遊脚初期および遊脚中期に水平面で骨盤は中間位に戻り,前方への回旋が再び始まると書かれていて,いつ回旋が始まるのかがはっきりしません。

遊脚期全体では,脛骨,大腿骨,骨盤はそれぞれ内旋していきます。

筋の働き

足が床から離れるための力源は,前遊脚期での下腿三頭筋の弾性反跳(プッシュオフ)です。

距腿関節

前遊脚期では底屈していましたが,遊脚初期では背屈に転じます。

脛骨前面筋群の活動は急速に上昇します。
前脛骨筋は遊脚初期の終わりに遊脚期での活動のピークを迎えます。
長趾伸筋が最大に活動するのは 70% GC です。
長母趾伸筋が最大に活動するのは 74% GC です。

膝関節

股関節屈筋群による能動的な大腿の前方への動きと下腿がその場に留まろうとする慣性力が相まって,膝関節には屈曲モーメントが生じます。

さらに,膝関節屈筋として,大腿二頭筋短頭,縫工筋,薄筋が活動します。
活動が最大になるのは,大腿二頭筋短頭で 71% GC,縫工筋で 65% GC,薄筋で 69% GC で,3つとも遊脚初期に最大となっています。

ハムストリングスのうちの二関節筋は股関節の伸展にも関与するので活動しません。

過度の屈曲を制御するためには大腿直筋が活動します。

股関節

股関節には,下腿の慣性力によって伸展モーメントが働きますので,股関節屈筋群が活動する必要があります。

長内転筋,腸骨筋,薄筋,縫工筋が活動します。
薄筋と縫工筋は2関節筋であり,股関節と膝関節を同時に屈曲します。

腸骨筋は 69% GC で最大に活動します。
薄筋,縫工筋は膝関節のところで述べたとおりです。

薄筋には内転,内旋の作用があり,縫工筋には外転,外旋の作用があって,互いに拮抗しています。
大腿を振り出す方向を薄筋と縫工筋が調節しています。

おわりに

トウクリアランスのため膝が大きく屈曲する相です。

遊脚初期は,前遊脚期とともに加速期と呼ばれています。
大腿の急速な前進は,身体全体が前へ進むための推進力となります。

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参考文献

1)月城慶一, 山本澄子, 他(訳): 観察による歩行分析. 医学書院, 2006.
2)武田功(統括監訳): ペリー 歩行分析 原著第2版 -正常歩行と異常歩行- .医歯薬出版, 2017.

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2020 年 10 月 27 日
2021 年 9 月 18 日

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