股関節屈筋群の筋力低下によって生じる異常歩行

はじめに

股関節屈筋群の筋力低下によって生じる異常歩行について解説します。

股関節の角度は,垂直線に対する大腿の角度で表します。
GC は gait cycle(歩行周期)の略です。

股関節が屈曲するのは前遊脚期が始まる 50% GC から遊脚中期が終わる直前の84% GC までで,23.9° まで屈曲します。
その後はわずかな伸展と屈曲がありますが,肉眼では屈曲 20° を保っているように見えます。

股関節屈筋群の筋力低下による異常歩行は主に遊脚期に生じます。

前遊脚期

股関節を代償的に屈曲させるため,前遊脚期から遊脚初期の移行期に急激な膝関節屈曲が生じることがあります。
膝を屈曲することで足部と下腿の重心が後方に移動します。
その重心が股関節の真下に落下する力で股関節が屈曲します(図 1)。

膝関節の過度の屈曲による股関節の屈曲
図 1: 膝関節の過度の屈曲による股関節の屈曲

他にも,後述する遊脚初期で生じる現象と同じような現象が生じるのかもしれませんが,文献1,2)には記載がありません。
股関節を屈曲させる力はトウロッカーで生じるため,股関節屈筋群の筋力低下の影響は目立たないのかもしれません。

遊脚初期

股関節を屈曲するスピードが遅いと,大腿の前方への動きと下腿がその場に留まろうとする力によって生じる膝関節を屈曲する力が弱くなり,トウドラッグが生じます。
歩行速度が遅くなると,膝関節はさらに屈曲しにくくなり,股関節屈筋群の活動を高める必要がありますが,筋力低下があれば対応できません。

大腿部を前に出すために骨盤の後傾や前方回旋が生じることがあります。
骨盤後傾に伴い,体幹も大きく後傾する場合もあります。
トウドラッグに対する代償運動は,同側の骨盤の挙上,反対側への体幹の側屈,同側の股関節の外転(ぶん回し),反対側の伸び上がりがあります。
これらの代償動作により,エネルギー消費は増えます。

遊脚中期

正常であれば,遊脚中期の股関節屈曲は,遊脚初期から続く屈曲の勢いによる受動的な力で行われます。
遊脚初期での屈曲が不十分だと,遊脚中期での屈曲も不十分になります。

骨盤の過度の前方回旋による代償が行われます。
骨盤の前方回旋に伴い,股関節は外旋します。
それによって,股関節屈筋群をあまり使わずに,わずかですが下肢を前に出すことができます。

遊脚中期は膝関節が伸展するため,股関節の屈曲が不十分であれば,トウドラッグが生じます。
遊脚初期のところで書いたのと同じ代償が行われます。

遊脚期全体

股関節屈筋として長内転筋,短内転筋,薄筋が強く働くと,過度の股関節内転が生じます。

また,大腿筋膜張筋と中殿筋前部線維が股関節屈曲として働くと,過度の股関節内旋が生じます。

初期接地〜荷重応答期

遊脚終期で股関節が十分に屈曲していなければ,初期接地も股関節屈曲が不十分なままです。
すると,荷重応答期での膝関節屈曲も少なくなります。
このことについては,股関節屈曲可動域制限によって生じる異常歩行についての記事でまとめています。

おわりに

ペリー歩行分析1)には,「グレード 2+ の筋力でも通常の歩行は十分可能である」と書いてあります。
歩行では股関節屈筋群の筋力はあまり使われないということのようですが,他の筋群もそれほど強い収縮は求められません。

ちなみに,最近の MMT では + や – をほとんど使いません。
第 9 版3)では,2+ というグレードは足関節底屈筋群だけで使っていましたが,第 10 版4)ではそれも使われなくなりました。

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参考文献

1)武田功(統括監訳): ペリー 歩行分析 原著第2版 -正常歩行と異常歩行- .医歯薬出版, 2017, pp111-185.
2)月城慶一, 山本澄子, 他(訳): 観察による歩行分析. 医学書院, 2006, pp111-157.
3)津山直一, 中村耕三(訳): 新・徒手筋力検査法(原著第9版). 協同医書出版社, 2015.
4)津山直一, 中村耕三(訳): 新・徒手筋力検査法(原著第10版). 協同医書出版社, 2022.

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2020 年 12 月 29 日
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