足関節背屈可動域制限によって生じる異常歩行

はじめに

足関節背屈の可動域制限によって生じる異常歩行について解説します。

正常な角度よりも底屈している状態を「過度の底屈」と呼びます。

初期接地〜荷重応答期

初期接地から荷重応答期にかけて求められる足関節の背屈は中間位まです。
中間位まで背屈できなければ異常が生じます。
接地の異常として 3 つのパターンがあります。

1)底屈位での踵接地(ローヒール)

踵から接地するのですが,足関節は正常よりも底屈位で,前足部が床に近い状態で接地します。
そのため,荷重応答期のヒールロッカーはすぐに終わってしまいます。

背屈制限が -15°(15° の底屈拘縮)までなら,踵接地は可能です。

2)足底接地(フットフラットコンタクト)

足底全体での接地です。
ヒールロッカーは行えません。

3)前足部接地(フォアフットコンタクト)

前足部が先に接地します。
膝は屈曲位です。
前足部接地の後の荷重応答期では,踵が浮いたままの場合と,踵が接地して膝が過伸展位になる場合とがあります。
ヒールロッカーは行えません。

背屈制限が -30°(30° の底屈拘縮)ぐらいになると,踵はまず接地しません。

立脚中期

正常では,足関節の背屈が続き,7.7° まで背屈します。
それだけの可動性がなければ,アンクルロッカーが十分に機能しません。
歩幅が減少し,歩行速度が減少します。

アンクルロッカーができない状態で身体を前に進めるための主な代償運動は以下の 3 つです。

1)早すぎるヒールオフ

足関節背屈の可動域制限以外の機能障害がなく,十分な筋力があれば,ヒールロッカーとアンクルロッカーをとばして,フォアフットロッカーで身体を前に運ぶことができます。
踵の挙上は立脚終期ではなく立脚中期に起こります。

身体機能が高くなければ次の 2 つが起こります。

2)膝関節の過伸展

足関節が背屈せず,下腿が後傾位で固定されますが,大腿は前に進みます。
その結果,膝は過伸展します。

3)体幹の前傾

足関節底屈位で接地すれば,身体が後ろに傾き,重心も支持基底面の後ろにいってしまいます。
体幹を前傾させることで,重心を支持基底面の上にのせることができます。

膝関節の過伸展と体幹の前傾に加えて,骨盤の後方回旋が生じることもあります。

その他の代償として,距骨下関節の過度の外がえしによる下腿を前傾があります。
外がえしには背屈が含まれていますし,外がえしによって横足根関節での背屈も行いやすくなります。

また,荷重応答期から立脚中期にかけて,股関節の過度の外旋が生じることがあります。
トウアウトにすることで下腿を前に出しやすくなりますが,フォアフットロッカーは使えなくなりますし,膝関節内側への負荷が増えます。

立脚終期

正常では,踵が上がりながら足関節は背屈し,立脚終期の途中で最大背屈位(10.7°)となり,その後は底屈します。
立脚中期で踵が上がり始めた場合,立脚終期でさらに踵が上がることがあります。
正常な場合よりも踵がより高く上がり,エネルギー消費が大きくなります。
踵が上がりすぎるのに伴い,体幹の後方回旋が大きくなることがあります。

踵を上げるだけの力や勢いがなければ,踵は接地したままです。
立脚中期と立脚終期の区別もなくなってしまいます。

立脚中期と同じように,距骨下関節の過度の外がえしが生じることがあります。

前遊脚期

立脚終期で踵が接地したままの場合,前遊脚期でも反対側に荷重が十分に移るまでは,踵は上がりません。
それに伴い,股関節の屈曲も遅れます。

遊脚初期

足関節は最大底屈位(17.5°)から底屈 2.4° まで背屈します。
背屈角度と少ないほどトウクリアランスは難しくなるのですが,遊脚初期でのトウクリアランスは膝関節屈曲によって行われます。
足関節が十分に背屈しなくても,影響はあまりありません。

遊脚中期

トウクリアランスのために足関節の背屈(最大 2.3°)が行われます。
背屈が不十分であれば,つま先が床をこすることになります(トウドラッグ)。
代償として,股関節の過度の屈曲,ぶん回し,体幹側屈と骨盤の挙上,反対側足関節の底屈による伸び上がりがあります。
膝関節は伸展する相ですので,つま先を高くあげる動きは行えません。

遊脚終期

足を前上方に振り上げる相ですから,足関節が底屈位であっても影響はありません。

足関節の過度の底屈に加えて,膝関節の伸展が不十分だと,足趾が床をこすることになります。

可動性のある 15° の底屈拘縮

自動での背屈は -15° で止まってしまうけれど(15° の底屈拘縮),荷重をかければまだ背屈できるという状態があります。

立脚中期と立脚終期では,ある程度まで背屈すれば,異常は目立ちません。
また,立脚期に荷重によって他動的に伸ばされることで生じる張力は,底屈筋群が能動的に活動するのと同じように作用します。
初期接地,荷重応答期,遊脚中期では,荷重による背屈がないために異常が生じます。

足関節底屈筋群の筋緊張亢進

筋緊張亢進による可動域制限であっても,足関節が背屈しないのは同じですので,同じ異常が生じます。
背屈制限が生じるタイミングは異なります。
よくあるパターンは,遊脚終期に膝関節伸展と足関節中間位保持を分離することができず,底屈筋群の筋緊張が上がり,立脚相全体にわたって底屈が続き,遊脚期には屈筋共同運動によって背屈するというものです。

おわりに

膝関節の過伸展は大腿四頭筋の筋力低下によっても生じます。
こちらで,大腿四頭筋の筋力低下によって生じる異常歩行を解説しています。

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参考文献

1)武田功(統括監訳): ペリー 歩行分析 原著第2版 -正常歩行と異常歩行- .医歯薬出版, 2017, pp111-185.
2)月城慶一, 山本澄子, 他(訳): 観察による歩行分析. 医学書院, 2006, pp111-157.

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2020 年 12 月 19 日

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