大腿四頭筋の筋力低下によって生じる異常歩行

はじめに

大腿四頭筋の筋力低下によって生じる異常歩行について解説します。

歩行における大腿四頭筋の働きは,広筋群と大腿直筋で異なります。
広筋群は,遊脚終期で膝関節を伸展し,荷重応答期で衝撃を吸収し,立脚中期の前半で膝関節を伸展します。
大腿直筋は前遊脚期の後半から遊脚初期の前半にかけて,膝関節が屈曲しすぎないよう制御しつつ,股関節を屈曲します。

大腿直筋の筋力低下による異常歩行については文献1,2)には書かれていませんでした。
以下に説明する異常歩行は,広筋群の筋力低下によるものです。

ヒールロッカーが抑制される

ヒールロッカーによって下腿が前進し膝関節は急速に屈曲します(詳しくはこちら)。
この膝関節屈曲を制御できるだけの筋力がない場合に,ヒールロッカーを抑制するようになります。

初期接地で足関節を過度に底屈して接地すればヒールロッカーを抑制できます。
以下の3つのパターンがあります。

底屈位での踵接地(ローヒール)

踵から接地するのですが,足関節は正常よりも底屈位で,前足部が床に近い状態で接地します。
そのためヒールロッカーはすぐに終わってしまいます。

足底接地(フットフラットコンタクト)

足底全体での接地です。
ヒールロッカーは行えません。

前足部接地(フォアフットコンタクト)

前足部が先に接地します。
ヒールロッカーは行えません。

足関節の過度の底屈は遊脚終期から起こります。
早期にヒラメ筋が働いて底屈位となります。
腓腹筋は膝関節屈曲の作用もあるため働きません。

ヒールロッカーを抑えてしまうと,前方移動も抑えられることになります。

膝関節過伸展位と体幹の前傾位

立脚期で膝関節を過伸展位にして,さらに体幹を前傾位にすると,床反力作用線は膝関節の前を通ることになり,伸展モーメントが生じます(図1)。
そうすることで,大腿四頭筋の筋力が低下していても,体を支えることができます。
骨盤の前方回旋の減少や過度の後方回旋が生じることもあります。

膝関節過伸展と体幹前傾による大腿四頭筋筋力低下の代償
図 1

この代償動作にはいくつかデメリットがあります。
過伸展位での荷重を続けることで,膝関節後方の組織を傷める可能性があります。
また,立脚終期での踵離地の欠如や遅れにつながります。
体幹前傾位では,股関節と体幹の伸筋群に対する筋力要求が増えてエネルギー効率が悪くなりますし,腰背部の痛みが生じる可能性もあります。

膝関節を過伸展位にするための動きとしては,前述したヒールロッカー抑制の動きがあります。
また,大殿筋や大内転筋による股関節伸展と,足関節底屈筋群によって下腿の前進を抑えることによって,膝関節は伸展します。

遊脚終期で膝関節伸展が不足する

遊脚終期の膝関節伸展は重力に抗した伸展ですので,ある程度の筋力が要求されます。
伸展が足りないと歩幅は小さくなります。
また,足趾の引きづりが生じることもあります。

代償動作として,股関節を過度に屈曲してから伸展することで,下腿の慣性力を利用して膝関節を伸展することがあります(パーストレトラクト)。

前述のヒールロッカーの抑制では,膝関節屈曲位で接地することになります。
膝関節を伸展できないのではなく,ヒールロッカーを抑えるために意図的に伸展しないという面もあります。

股関節内旋位

内旋位にすると,膝関節外側側副靭帯や腸脛靱帯の緊張によって膝関節の矢状面上の安定性を高めることができます。

股関節と足関節による代償について

大腿四頭筋の筋力低下は,股関節伸筋と足関節底屈筋で代償することができます。
荷重下では,股関節伸筋が大腿を後ろに引き,足関節底屈筋が下腿を後ろに引くことで膝関節が伸展します(前述の過伸展にするための動きと同じです)。
大腿四頭筋の筋力がゼロであっても,練習をすれば,膝を過伸展位にしなくても歩けるようになりますし,階段昇降も可能になります3)

おわりに

大腿四頭筋の筋力低下のみの場合と,他の障害もある場合とでは,歩き方は異なりますが,基本的な考え方は同じです。

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参考文献

1)武田功(統括監訳): ペリー 歩行分析 原著第2版 -正常歩行と異常歩行- .医歯薬出版, 2017, pp111-185.
2)月城慶一, 山本澄子, 他(訳): 観察による歩行分析. 医学書院, 2006, pp111-157.
3)河村廣幸, 淵岡聡, 他: 膝関節周辺からのアプローチ – 悪性腫瘍に対する患肢温存手術後の下肢支持機能. 理学療法. 1995; 12: 31-38.


2020年12月17日

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