はじめに
呼吸筋の一覧です。
呼吸(呼吸筋)は理学療法の対象です。
全ての呼吸筋に対して個別にアプローチできるわけではありませんが,全ての呼吸筋を知っているということは,様々な状況に対処できるようになるためには必要なことだと思います。
まずは,安静時の吸気で働く筋です。
安静吸気の筋
横隔膜
安静吸気の 1 回換気量(約 500 ml)の 70 〜 80% は横隔膜によるものです4)。
横隔膜が収縮すると,腱中心が下がることで胸郭が上下方向に広がります。
さらに,下がっていった腱中心が腹部臓器による抵抗で固定されると,下位肋骨および上位肋骨の挙上にも作用します7)。
斜角筋群(前斜角筋,中斜角筋,後斜角筋)
肋骨を持ち上げることで吸気に働きます。
古典的には努力吸気で働くとされていますが,安静吸気でも働くことが確認されているようです1,2,6)。
内肋間筋前部
内肋間筋は主に呼気に働くのですが,前部(胸骨側)の線維は吸気に働きます1)。
呼び方がいろいろあり,内肋間筋傍胸骨部1),傍胸骨内肋間筋線維2),傍胸骨肋間筋3),第4〜6肋間腔にある肋軟骨間筋5)などとなっています。
外肋間筋
外肋間筋は安静吸気で働くとされていますが,本当に働いているのかどうかはよく分かっていないようです1,2)。
また,外肋間筋は努力吸気にのみ働くとしている文献もあります6)。
外肋間筋と内肋間筋が同時に収縮すると,肋骨の挙上と下制が同時に起こって胸郭の固定に働くと考えられています1,2)。
吸気は胸腔内圧が陰圧になることで起こるのですが,胸郭が固定されていなければ,陰圧によって胸郭がへこんでしまい,吸気ができません。
肋間筋群の働きは,肋骨の運動よりも固定の方が主であるのかもしれません。
安静呼気
安静呼気では呼吸筋は働きません。
ただし,腹横筋については「立位の安静換気でも活動9)」するとの記述があります。
努力吸気の筋
胸鎖乳突筋1,2,4)
胸骨を引き上げます。
僧帽筋
上肢帯の挙上によって間接的に胸郭を拡大します4)。
肩甲挙筋
上肢帯の挙上によって間接的に胸郭を拡大します4)。
前鋸筋
肋骨を挙上するとあります2)。
カパンディ7)は,上肢が外転位のとき前鋸筋の下部線維が作用すると述べています。
鎖骨下筋1)
よく分かっていないようです。
鎖骨が固定されていれば,肋骨の挙上に作用するのかもしれません。
大胸筋2,4)
上肢を挙上して固定すると,胸郭の引き上げに働きます。
広背筋2)
上肢が固定されていれば,肋骨を挙上することができます。
呼気筋としている文献1)があります。
小胸筋2,4)
肩甲骨が固定されていれば,肋骨を引き上げます。
脊柱の伸展筋群2,4)
体幹を伸展すれば胸腔は拡大します。
頸腸肋筋の走行は肋骨挙筋に似ており,肋骨を挙上することができます7)。
長肋骨挙筋,短肋骨挙筋2,4)
肋骨を挙上します。
上後鋸筋2,4)
肋骨を挙上します。
下後鋸筋
横隔膜の収縮に対して下位肋骨を固定する働きがありますので,努力吸気の筋です2)。
しかし,肋骨を下制する作用がありますので,呼気筋としている文献4,7,8)もあります。
腰方形筋
第 12 肋骨の下制に作用するので,呼気筋になりそうですが,文献1,8)では吸気筋となっています。
腰方形筋は,横隔膜が収縮するときに,横隔膜の起始部である第 12 肋骨を固定しますので,吸気で働く筋に分類されています。
努力呼気
腹筋群(腹直筋,内腹斜筋,外腹斜筋,腹横筋)1,2,4)
肋骨と胸骨を引き下げることで,呼気に作用します。
また,腹腔内圧を上げ,横隔膜を強く押し上げることで,間接的に呼気に作用します。
横隔膜が押し上げられて伸張されると,吸気の時により強く収縮することができます。
内肋間筋横・後部と最内肋間筋1,2,4)
肋骨の下制に働きます。
胸横筋(胸骨三角筋)1,2,4)
肋骨の下制に働きます。
肋下筋4)
肋骨の下制に働きます。
大胸筋鎖骨部
脊髄損傷では,咳のときに呼気筋として働きます1)。
腰腸肋筋7,8)
肋骨の下制に働きます。
胸最長筋7,8)
肋骨の下制に働きます。
下後鋸筋4,7,8)
肋骨の下制に働きます。
努力吸気でも働きます2)(前述)。
腰方形筋
腰方形筋は吸気筋であるとする文献1,8)がある一方で,カパンディ7)は呼気筋であると述べています。
その他
教科書等に載っている筋の作用は,ちゃんと確認されたものだとは限りません。
文献 1)には,筋電図解析によって呼吸性の活動が確認されているが,作用が確認されていないものとして,吸気筋には僧帽筋,前鋸筋,上後鋸筋,鎖骨下筋,肋骨挙筋,脊柱起立筋があり,呼気筋として広背筋,下後鋸筋,肋下筋があるとなっています。
僧帽筋と肩甲挙筋が上肢帯の挙上によって吸気に作用するのであれば,菱形筋も吸気に作用しそうですが,菱形筋が呼吸筋であるとする文献は見つかっていません。
呼吸筋を主動筋と補助筋に分けている文献1)もありますが,その分け方の定義は明確にはなっていないようです。
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スポンサーリンク参考文献
1)宮川哲夫: 呼吸筋の運動学・生理学とその臨床応用. 理学療法学. 1994; 21: 553-558.
2)P. D. Andrew, 有馬慶美, 他(監訳):筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版. 医歯薬出版, 2020, pp495-506.
3)岡田泰伸(監修): ギャノング生理学 原著25版. 丸善出版, 2017, pp740-741.
4)中村隆一, 齋藤宏, 他: 基礎運動学(第6版補訂). 医歯薬出版, 2013, pp285-289.
5)越智淳三(訳):解剖学アトラス(第3版). 文光堂, 2001,pp43.
6)長島聖司(訳): 分冊 解剖学アトラス I (第5版). 文光堂, 2002, pp82.
7)荻島秀男(監訳): カパンディ関節の生理学 III 体幹・脊柱. 医歯薬出版, 1995, pp140-143.
8)津山直一, 中村耕三(訳): 新・徒手筋力検査法(原著第10版). 協同医書出版社, 2022, pp457-517.
9)山嵜勉(編): 整形外科理学療法の理論と技術. メジカルビュー社, 1997, pp148-150.
2020 年 4 月 25 日
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