運動学

足部の運動(回内 / 回外と外がえし / 内がえし)の定義が統一されていないことについて

投稿日:2019年11月3日 更新日:

足部の運動を表す用語で,定義が統一されていないものがあります。
「回内 pronation / 回外 supination」と「外がえし eversion / 内がえし inversion」です。

そのことについて簡単にまとめました。

足部の運動

まずは対象となる足部の運動を確認します。

足部の運動で,足底が内側や外側を向く動きには以下の2つがあります。
後の説明で使いますのでよく覚えておいてください。

前額面運動

前額面のみでの動きで,運動軸は矢状面と水平面に対して平行です。

図1

三平面運動 triplane motion

前額面,矢状面,水平面の全ての面での動きで,運動軸は3つの面に対して斜めです。
複合運動ということもあります。

図2

運動を表す用語の使い方(定義)

先に挙げた2つの運動を表す用語が統一されていません。

日本では以下のような使い方が主流です。

  • 前額面運動で足底が外側を向く(図1左):回内 pronation
  • 前額面運動で足底が内側を向く(図1右):回外 supination
  • 三平面運動で足底が外側を向く(図2左):外がえし eversion
  • 三平面運動で足底が内側を向く(図2右):内がえし inversion

外がえしは,回内,外転,背屈の複合運動です。
内がえしは,回外,内転,底屈の複合運動です。

この使い方をしているのは,基礎運動学1),日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会制定の関節可動域測定2),カパンディ関節の生理学3)です。

英語圏では逆になることが多いようです4)

  • 前額面運動で足底が外側を向く(図1左):外がえし eversion
  • 前額面運動で足底が内側を向く(図1右):内がえし inversion
  • 三平面運動で足底が外側を向く(図2左):回内 pronation
  • 三平面運動で足底が内側を向く(図2右):回外 supination

この使い方をしているのは,筋骨格系のキネシオロジー5)やブルンストローム臨床運動学9)です。

同じ言葉を逆の意味で使っていますので,かなり面倒ですね。

理学療法の教科書での注意点

理学療法の主要な教科書等において,足部の運動表示に関して,あやふやなところや,先にあげた定義とは異なる使い方がなされているところがあります。

基礎運動学

基礎運動学には外がえし / 内がえしの説明は載っています1)が,足部の回内・回外の説明は載っていないようです。

関節可動域表示ならびに測定法2)

足部の外がえし・内がえしという項目があります。
そこで測定する動きは足部の前額面での動きですから,回内・回外と呼ぶべきなのですが,「実際は,単独の回旋運動は生じ得ないので複合した運動として外がえし,内がえしとした」となっています。
かなり分かりづらくなっています。
関節可動域測定での外がえし・内がえしは,運動を表す用語ではなく,測定を表す用語であると解釈するといいのかもしれません。

徒手筋力検査法6)

3つの測定項目で外がえし / 内がえしが出てきますが,2つが本来の外がえし / 内がえしとは異なるものです。

外がえし / 内がえしは三平面運動(複合運動)であるという定義で説明します。

「足関節の背屈ならびに内がえし(前脛骨筋)」

内がえしは回外,内転,底屈の複合運動ですが,この検査では底屈ではなく背屈を行います。
この検査の動作を内がえしと呼ぶのは,厳密には誤りかもしれません。
足部の回外,内転,背屈を行うとする方がより正確だと思います。

「足の内がえし(後脛骨筋)」

これは定義通りの内がえしの検査です。

「足の底屈を伴う外がえし(長,短腓骨筋)」

外がえしは回内,外転,背屈の複合運動ですが,この検査では背屈ではなく底屈を行います。
足部の回内,外転,底屈を行うとする方がそさそうです。

Clinical Kinesiology

第5版7)では,「eversion-inversion と pronation-supination はほとんど同じ意味で使い,eversion-inversion は open-chain motion で使うことが多く,pronation-supination は closed-chain motion で使うことが多い」としています。
主流ではない使い方ですが,こういうニュアンスが含まれた表現がなされることがありますので,知っておいて損はないでしょう。

統一の試み

日本足の外科学会が「足関節・足部・趾の運動に関する用語案8)」を作っています。

前額面運動を外がえし eversion / 内がえし inversion,三平面運動を回内 pronation / 回外 supination と定義しています。

また,それに伴い,関節可動域測定法の改定案も提示しています。

日本での主流ではなく,英語圏での主流にあわせていますので,定着しにくいのかもしれません。
これからどうなっていくのか?注目していく必要がありそうです。

参考文献

1)中村隆一, 齋藤宏, 他: 基礎運動学(第6版補訂). 医歯薬出版, 2013, pp262.
2)米本恭三, 石神重信, 他: 関節可動域表示ならびに測定法. リハビリテーション医学. 1995; 32: 207-217.
3)荻島秀男(監訳): カパンディ関節の生理学 II 下肢 原著第5版. 医歯薬出版, 1995, pp170-171.
4)銅冶英雄, 村田淳, 他: 足部運動表示における内がえし(inversion)/ 外がえし(eversion)の定義 – triplane motion か,coronal plane motion か?- . Jpn J Rehabil Med. 2007; 44: 286-292.
5)嶋田智明, 平田総一郎(監訳):筋骨格系のキネシオロジー. 医歯薬出版, 2005, pp507.
6)津山直一, 中村耕三(訳): 新・徒手筋力検査法(原著第9版). 協同医書出版社, 2015, pp260-269.
7)Smith LK, Weiss EL, et al.: Brunnstrom’s Clinical Kinesiology(5th edition). F.A.Davis, 1996, pp341.
8)日本足の外科学会用語委員会 足関節・足部・趾の運動に関する用語案. https://www.jssf.jp/pdf/term_proposal.pdf(2019年11月13日引用).
9)武田功(統括監訳): ブルンストローム臨床運動学原著第6版. 医歯薬出版, 2013, pp435.

2019年12月5日 加筆修正
2019年11月3日

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