一見弛緩様とは

はじめに

筋緊張の状態を表す用語の一つである,一見弛緩様 quasiflaccid1)についてまとめてみました。

概要

一見弛緩様とは,ゆっくりとした他動運動に対する抵抗は低下しており,視診,触診でも筋緊張低下の所見を示すが注1),腱反射は正常,もしくは亢進している状態のことです。

脳卒中片麻痺の回復過程において,弛緩性麻痺から痙性麻痺へ移行するときに現れます(図1)。

弛緩性麻痺から痙性麻痺へ移行
図1(文献1より,一部改変)

文献1の著者による造語であり,広く用いられている用語ではありません。
同じ著者によるリハビリテーション医学大辞典2)には載っていません。
しかし,筋緊張に関する論文で用いられることがあり(文献3など),知っておいた方がよさそうな用語です。
そして,この一見弛緩様という用語に注目すると,筋緊張ついてよりよく理解することができます。

詳細

図1を詳しくみていきましょう。

図1の左端に筋緊張とあります。
筋緊張という用語は,当然のことながら,筋緊張という概念全体を表す用語です。
しかし,この図1の筋緊張は固縮を表していて,「固縮は筋緊張の亢進」と定義しています。
固縮ですので,ゆっくり動かした時の抵抗感を筋緊張と表現していることになります。
本来,筋緊張の亢進には痙性も含まれるので,図だけをみると混乱するのかもしれません。
ゆっくり動かした時の抵抗感が弱ければ筋緊張低下,普通なら筋緊張正常,強ければ筋緊張亢進となります。

痙性は腱反射の亢進で,それが強くなったものがクローヌスであると定義しています。
これは神経内科の分野で用いられている一般的な定義です。

図1に表現されている筋緊張の変化注2)を説明します。

腱反射の3段階と筋緊張の3段階を組み合わせた9ブロックが描かれています。
説明のため,ブロックを示す番号を振っています。

ブロック1から始まります。
発症してすぐは,他動運動に対する抵抗感は低下していて,腱反射も低下しており,弛緩(弛緩性麻痺)の状態にあります。
さて,腱反射が低下という表現はあやふやで,腱反射消失を表しているのは確かですが,腱反射減弱が含まれるのかどうかは不明です。

次に,ゆっくりとした他動運動に対する抵抗感は低下したままで,視診,触診でも筋緊張低下の所見を示したままなのですが,腱反射が出るようになり,その応答は強くなっていきます(ブロック2→ブロック3)。
この状態が一見弛緩様です。

文献1には書かれていませんが,腱反射が亢進していくということは,速い他動運動に対する抵抗感が強くなっていくことになるはずです。

弛緩(筋緊張低下)の所見がある中で,腱反射だけが亢進していく所見を示していて,筋緊張低下の所見と亢進の所見が同時に存在することになります。
つまり,低下や亢進という従来の用語だけでは表現できない状態ですので,一見弛緩様という新しい用語が作られたことになります。

ブロック3は,ゆっくりとした他動運動に対する抵抗感は弱いが腱反射は亢進し,クローヌスやジャックナイフ現象も出現するという状態になります。
これはまさしく痙性です。
一見弛緩様と痙性の境界線があるのかどうかが不確かです。
文献1の著者は「一見弛緩様 quasiflaccid と名づけたが,これを痙性・固縮などとどう関係づけるかが問題である」と述べています。

ブロック4は,腱反射は亢進しているけど固縮はないのですから,痙縮の状態になります。
ここから,腱反射の亢進がおさまれば,正常(ブロック6)になります。
しかし,ゆっくりとした他動運動に対する抵抗感がだんだんと強くなっているのですから,固縮が始まっているという解釈もできるのではないかと,私は思っています。

ブロック5は固縮と痙性が混在した状態です。
速く動かした時だけ強い抵抗感があったのが,ゆっくり動かしても強い抵抗感が出るようになった状態です。
痙固縮と呼ぶこともあります。
この状態をなんとなく痙性と呼んでしまっていることが多いような気がします。
気をつけたいところです。

ちょっと余談

固縮は筋緊張の亢進と定義していることに関して思ったことを書きます。

他動運動での抵抗感は被動性と呼ばれています。
ですので,図1の一番左には筋緊張ではなく被動性と書いたほうが実際に見ていることに近いのかもしれません。
しかし,被動性には速く動かす場合とゆっくり動かす場合がありますので,被動性だけでは,ゆっくり動かした時の抵抗感であることは伝わりません。
一見弛緩様という新しい用語が提示されたことで,速く動かす場合とゆっくり動かす場合のそれぞれに対して名前がついていた方がいいのではないかという,新たな課題が見つかったことになります。
課題が次々に出てくることは,学問的には楽しいことだと,私は思っています。

注釈

1)文献1には「一見筋緊張は非常に低く」と書かれているのですが,それを「視診,触診でも筋緊張低下の所見を示す」ということだと解釈しました。
2)この筋緊張は固縮のことではなく広い意味での筋緊張です。また,文献1での図のタイトルは「片麻痺回復過程における腱反射と筋緊張の時間的変化」とあるのですが,固縮痙性が完成していく過程ですので,回復過程というのは違和感があるので使いませんでした。

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参考文献

1)上田敏, 千野直一, 他(編): リハビリテーション基礎医学(第2版). 医学書院, 1994, pp130-131.
2)上田敏, 大川弥生他(編). リハビリテーション医学大辞典. 医歯薬出版, 2002.
3)菅原憲一: 脳卒中後の筋力低下と理学療法. PTジャーナル. 2018; 52: 15-19.

2019年11月12日

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