神経学的検査

脳卒中片麻痺における病的共同運動

投稿日:2018年8月1日 更新日:

はじめに

脳卒中片麻痺における病的共同運動について解説します。

教科書的で基本的な解説だけでなく,少し踏み込んだ考察も書いています。

共同運動(synergy)とは

まずは,正常な働きとしての共同運動を説明します。

共同運動とは,複数の筋が同時に,あるいは順序立てて働くことによって生じる,パターン化された運動です。
各筋の運動の組み合わせが共同運動です。
そして,共同運動を組み合わせることで,歩行などの様々な動作が行われます。
動作を構成する要素が共同運動である2)とも言えます。

例えば,手を伸ばして何かを持つということを考えてみます。
肩関節や肘関節を動かす順番や程度には無限の組み合わせがあります。
無限の組み合わせの中から,手を伸ばす度に選択するのは大変です。
共同運動というパターンがあれば,脳から脊髄に対して,「手を伸ばすパターンを始めて」というような指令を出すだけですみます。
共同運動があれば,効率よく運動や動作を制御できそうです。

片麻痺における病的共同運動(定型的共同運動)

次に,脳卒中片麻痺における共同運動について説明します。

正常な働きとしての共同運動と区別するために,病的共同運動とか定型的共同運動などと呼ばれますが,共同運動と省略することが多いと思います。

脳卒中片麻痺は上位運動ニューロン障害であり,その症状として病的な共同運動が生じます。
病的な共同運動のパターンでしか動けなくなります。
単関節での運動ができず,複数の関節が同時に動いてしまいます。

病的な共同運動が生じる機序は開放現象であると考えられています。
共同運動の中枢は脊髄にあり,正常ではより上位の中枢に抑制されることが多いのですが,上位運動ニューロンの障害により,抑制から解放されて出現します。

病的共同運動は随意運動で起こりますが,反射や連合反応などの不随意な運動でも起こります。

上下肢それぞれに屈筋共同運動と伸筋共同運動のパターンがあります。
屈曲共同運動,伸展共同運動と呼ぶこともあります。

まずは教科書3)の内容を確認してみましょう。

上肢の屈筋共同運動

肩甲帯:挙上,伸展
肩関節:屈曲,外転,外旋
肘関節:屈曲
前腕:回外
手関節:掌屈,尺屈
手指:屈曲

上肢の伸筋共同運動

肩甲帯:屈曲
肩関節:伸展,内転,内旋
肘関節:伸展
前腕:回内
手関節:背屈,橈屈
手指:伸展

下肢の屈筋共同運動

骨盤帯:挙上
股関節:屈曲,外転,外旋
膝関節:屈曲
足関節:背屈,内反
足趾:伸展(背屈)

下肢の伸筋共同運動

股関節:伸展,内転,内旋
膝関節:伸展
足関節:底屈,内反
足趾:屈曲(底屈)

解説

上肢の共同運動は,手を反対側の大腿の上から同側の耳の間で往復する運動です。

上肢の屈筋共同運動が完全に行われた場合,肘関節屈曲は鋭角となり,前腕回外は最終域まで行われ,肩関節外転は90°となります。
上肢の屈筋共同運動の要素の中で最も強く出現するのは肘関節の屈曲です。

上肢の伸筋共同運動が完全に行われた場合,肘関節伸展と前腕回内は最終域まで行われます。
上肢の伸筋共同運動の要素の中で最も強いのは大胸筋です。

肩関節の屈曲・伸展に関しては注意が必要です。
屈筋共同運動で,手を反対側の大腿の上から同側の耳まで移動する場合で考えてみましょう。
手を大腿の上に置いた姿勢では,肩関節は軽度屈曲位です。
そこから耳まで手を上げて行く時,肘は後ろに下がっていきます。
最終的に手が耳に届いたところでは,肩関節は外転,外旋位であり,屈曲・伸展に関しては中間位となります。
軽度屈曲位から中間位になるということは,肩関節は伸展しています。
多くの教科書で,屈筋共同運動では肩関節は屈曲,伸筋共同運動では肩関節は伸展となっていますが,逆が正しいのかもしれません。
あるいは,上肢の共同運動の要素に,肩関節の屈曲・伸展は含まれないのかもしれません。
ブルンストローム4)による共同運動の説明やFugl-Meyer評価表5)には,上肢の共同運動の要素に,肩関節の屈曲・伸展は含まれていません。
そして,屈筋共同運動,伸筋共同運動をそれぞれ,屈曲共同運動,伸展共同運動と呼ぶことがありますが,肩関節屈曲・伸展の問題を考えると,いい呼び方ではないのかもしれません。

手指ではテノデーシス作用のため,逆の動きになる場合があります。
例えば,上肢の屈筋共同運動で手関節の掌屈によって手指の伸展が起こることがあります。
手関節掌屈筋と手指屈筋の回復に差があり,手指を屈曲する力よりも,テノデーシス作用による手指を伸展する力の方が強い状態です。
手指は個人差が大きく,特に手指の伸展は起こらないことが多いようです。
ブルンストロームは上肢の共同運動の要素に手指を入れていません。

肘関節が強く,肩関節が弱い状態では,上肢の屈筋共同運動で肩関節過伸展が生じることがあります。

上肢の屈筋共同運動での回外が起こらないこともよくあります。
回内筋群の筋緊張亢進のためです。

下肢の屈筋共同運動では,骨盤帯が挙上するとなっていますが,ブルンストロームは骨盤帯を含めていません。
下肢の屈筋共同運動が完全に行われた場合の膝関節屈曲は90°くらいです。
下肢の屈筋共同運動では,股関節の収縮が最も強くでます。
足関節背屈も強くでます。

下肢の伸筋共同運動において,足趾は底屈しますが,母指は背屈することがあります。
下肢の伸筋共同運動では,膝伸展,股関節内転,足部内反が強い要素として出現します。

足部の内反はどちらのパターンでも起こります。
外反が共同運動として起こることはありません。

上に記したように,各要素の相対的な強さの違いなどによって,共同運動には様々なバリエーションがあります。

表現について注意点があります。
足関節とは普通は距腿関節のことです。
距腿関節での運動は背屈と底屈だけで,内反は距骨下関節で起こります。
教科書等によくある,足関節内反という表現は本来は誤りですが,距腿関節と距骨下関節を合わせて足関節と呼ぶ場合もありますので,完全な誤りというわけではありません。

分離運動

病的な共同運動のパターンとは異なる運動を分離運動と呼びます。
例えば,肘伸展位のままで肩関節を外転することができれば,その運動を分離運動と呼びます。
共同運動しかできない状態であれば,肩関節を外転しようとすると肘関節も屈曲してしまいます。

脳卒中片麻痺の回復過程を説明する文脈でよく使われる言葉です。
例えば「病的な共同運動しかできない状態から回復して分離運動ができるようになる」というような言い方です。

おわりに

共同運動についての古典的な解釈を中心に解説しました。
共同運動という概念が本当に正しいのかどうかについては,教科書レベルでの勉強ではよく分かりませんでした。
これからも勉強を続けていく必要がありそうです。

参考文献

1)星文彦: 理学療法用語-正しい意味がわかりますか?-シナジー(共同運動). PTジャーナル. 2002; 36: 284-285.
2)内山靖: 標準理学療法学専門分野理学療法評価学(第2版). 医学書院, 2006, pp140-141.
3)上田敏, 千野直一, 他(編集): リハビリテーション基礎医学(第2版). 医学書院, 1994, pp126-130.
4)佐久間穣爾, 松村秩(訳): 片麻痺の運動療法. 医歯薬出版, 1984,pp7-37.
5)吉尾雅春: 中枢神経疾患・障害に対する評価の進め方(総論)脳血管障害を例として, 理学療法ハンドブック改訂第4版第1巻. 細田多穂, 柳澤健(編), 協同医書出版社, 2010, pp787-852.

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