上田の 12 段階片麻痺機能テストの実際(1)実施手順など

はじめに

上田の 12 段階片麻痺機能テストについて解説します。

片麻痺の運動麻痺の検査としてはわりに普及しており,学校でも習うことが多い検査です。
しかし,多くの教科書では,検査方法があまり詳しくは書かれていません。
教科書だけの情報で実際に行おうとすると,「これってどうするんだろう」などど困ることがあるのではないでしょうか?
今回は,できるだけ具体的に詳しく書いてみようと思います(サクッと終わらしたい人には向かない記事です)。

現在使われている表が出る前の,12 段階片麻痺機能テストの開発についてを発表した論文3)があります。
これ以降,その文献を「最初の論文」と呼びます。
この最初の論文の方が詳しく書かれているところがありますので,その情報を紹介します。
また,教科書等には書かれていないことも多いのですが,それらに対して私なりの解釈を述べます。

教科書等に載っている表は別に持っていることを前提として書きます。
授業を想像してもらうといいのですが,教科書に載っている検査方法の表を見ながら説明することをこの記事で書きます。
私はリハビリテーション医学全書1)を見ながら書いています。

量が多いので,4 つの記事に分けます。
この記事では,全体的な実施手順について解説します。
各サブテストについては,以下の 3 つの記事に分けて解説します。
上田の 12 段階片麻痺機能テストの実際(2)サブテスト – 全体
上田の 12 段階片麻痺機能テストの実際(3)サブテスト – 上肢
上田の 12 段階片麻痺機能テストの実際(4)サブテスト – 下肢

前置きが長くなりました。
本題に入ります。

実施手順の概要

実施手順はざっと以下のようになります。

1)オリエンテーション
2)全身状態,理解力,疼痛,関節可動域,座位保持能力を確認する
3)ステージ(グレード)を予測したうえで,サブテストを選択し,順番を決める
4)サブテストを行い,不可能,不十分,十分の判定を行う
5)サブテストの判定結果を総合判定の表にあてはめてグレードを決める
*同時進行のところもあります。

それぞれについて説明します。

1)オリエンテーション

便宜的に一番最初にあげましたが,実際にはオリエンテーションは随時行います。

サブテストの説明は口頭指示,検者による見本,非麻痺肢や麻痺肢での他動運動などで行います。
麻痺肢での他動運動を繰り返すと促通になってしまい,ステージが変化する可能性があります。
どの程度の影響がでるのかは分かりませんが,念のため,麻痺肢の他動運動での説明は避けるようにしています。

運動方法を理解したかを確認したいときには,非麻痺肢で行ってもらうと分かりやすいと思います。

2)全身状態,理解力,疼痛,関節可動域,座位保持能力を確認する

学校ではよく事前に確認しておくと習いますが,現実の臨床場面では,これらの異常が,12 段階片麻痺機能テストを行う中で見つかることもあります。

3)サブテストを選択し,順番を決める

サブテストを行う順番について,教科書や最初の論文には書かれていません。
私は,被検者の負担を軽くするため,肢位変換とサブテストの数は最小限となるよう,様々な順番で行なっています。
テスト No. 1 から順番にするということはありません。
ただし,上肢では伸筋共同運動パターンを先に検査することになっています3)
屈筋共同運動パターンを先にテストすると,伸筋共同運動パターンの発現が妨げられることがあるからです。

動作観察,スクリーニング(上肢の挙上,下肢の屈伸など)でステージを予測します。
例えば,ステージ IV と予測して,テスト No. 5,6,7 を行い,そのうち 1 つだけが十分であれば,IV – 1と判定します。
ステージが決まりましたので,ステージ III や V の判定を行うサブテストは行いません。
少ないサブテストで済みますが,問題があります。
跳びこしとよばれる問題です。
先の IV – 1 と判定された例では,ステージ V を決めるサブテスト No.8,9,10 はより難しいテストであるため,不十分や不可能となるはずなのですが,稀に 1 つだけ十分となったりします。
もし,ステージ Vのサブテストから始めていれば,V – 1と判定されることになります。

この跳びこしの問題に関しての明確な記述はないようです。
サブテストを行う順番やサブテストの省略については書かれていません。
そうなると,各自で統一して行うしかないでしょう。
私は,稀な例を見落とすことには目をつぶり,サブテストの数は最小限になるよう,順番を入れ替えたり省略したりしています。

サブテストの選択と順番についての具体的な例をもう少し考えてみましょう。
下肢の検査で,被検者が背臥位であるところから始めるのであれば,下肢のテスト No. 5(SLR)と No. 8(背臥位での足関節背屈)を先に行うと,ステージを予測することができ,効率がよくなります。
テスト No. 5(SLR)をまず行い,十分であったとします。
このテストはステージ IV のテストですので,残り No. 6 と No. 7 のテストを先にしたくなりますが,No. 8を行います。
No. 6,7 のテストを先に行おうとすると座位になってもらうことになります。
もし,No. 6,7 が十分であれば,ステージVのテスト No. 8,9,10 に進みますが,No. 8 は背臥位でのテストですので,また背臥位になってもらわなければなりません。
No. 8 を先に行う方が効率的です。
この後,No. 8 が十分であれば,No. 9,10 に進み,それが十分であればNo. 6,7 は省略できます。

テストの具体的な順番の説明はキリがないのでこれだけにしておきます。
各自で試して考える方が早そうです。
上肢と下肢を同時進行で行うことを忘れないでください。

拘縮によってサブテストが実施できない場合は予備テストを行います。

4)サブテストを行い,不可能,不十分,十分の判定を行う

角度の測定は目測で行います。
5° 刻みで測定します。
この検査に限ったことではありませんが,角度をみるときには,角度が分かりやすいところへ視線を移動することが大切です。
ただし,離れすぎると転倒に対応できなくなります。

テスト動作では測定する関節以外の関節の角度が決められています。
その関節が徐々に動き出した場合は,規定の角度を超える直前の角度をとります。
例えば,上肢のテスト No. 6(肩関節屈曲)では肘は 20° 以上曲がらないようにとなっています。
肩関節を屈曲するのに伴って肘関節が屈曲してくれば,肘関節屈曲角度が 20° になる直前の肩関節の角度をとります。

5)サブテストの判定結果を総合判定の表にあてはめてステージ(グレード)を決める

0 から 12 までのグレードが決まるのですが,グレードを Brunnstrom stage に対応させたステージを使うことが多いと思います。

0 から 12 ですから 13 段階だと思うのですが,12 間隔なので12 段階と呼んでいるようです。
ちなみに,最初の論文には,Brunnstrom stage について「I から VI までの 6 段階(間隔をとれば 5 段階)に分類」という表現がでてきます。

低いステージのサブテストが不可能あるいは不十分で,高いステージのサブテストが十分であった場合にどう判定するかについては,どの文献にも記載がありません。
総合的に判断するしかないでしょう。
私は,例えばステージ IV のサブテストが全て不十分で,ステージ V のサブテストの一つが十分になれば,ステージ IV 〜 V とします。
総合判定不可としてもいいのかもしれません。

総合判定の表で,ステージ I(グレード0)の判定のところに「不十分(2,3,4 も不十分)」と書いてありますが,「2 が不十分で 3,4 が不可能」とする方が正確だと思います。
サブテスト 3,4 が不十分と判定されたのなら,ステージは III – 2 となりますから。

次の記事に続きます。

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参考文献

1)上田敏: 片麻痺機能テスト, リハビリテーション医学全書14 脳卒中・その他の片麻痺(第2版). 福井圀彦(編), 医歯薬出版, 東京, 1994, pp75-90.
2)吉尾雅春: 中枢神経疾患・障害に対する評価の進め方(総論)- 脳血管障害を例として, 理学療法ハンドブック改訂第4版第1巻. 細田多穂, 柳澤健(編), 協同医書出版社, 2010, pp787-852.
3)上田敏, 福屋靖子, 他: 片麻痺機能テストの標準化-12 段階「片麻痺回復グレード」法. 総合リハ. 1977; 5: 45-62.
4)大畑光司, 佐久間香: 中枢神経系検査測定法(1)- 片麻痺(錐体路徴候), 15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 理学療法評価学II. 石川朗(編), 中山書店, 2013, pp27-38.
5)佐久間昭, 上田敏, 他: 片麻痺機能テストの標準化に関する研究(1)- 研究方法. 臨床薬理. 1976; 7: 271-280.
6)佐久間昭, 上田敏, 他: 片麻痺機能テストの標準化に関する研究(2)- 基礎的吟味. 臨床薬理. 1976; 7: 281-292.
7)佐久間昭, 上田敏, 他: 片麻痺機能テストの標準化に関する研究(3)- 定量的吟味と検証. 臨床薬理. 1976; 7: 293-308.

2021 年 1 月 26 日
2018 年 10 月 14 日

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