はじめに
咽頭反射 pharyngeal reflex のやり方と結果の解釈について詳しく解説します。
目次
咽頭反射とは
咽頭反射とは,舌圧子で咽頭後壁,口蓋扁桃,舌根部などに触れると咽頭筋が収縮し吐き気を起こすという反射です。
表在反射です。
求心路は舌咽神経,中枢は延髄,遠心路は迷走神経です。
別名について
絞扼反射とも呼ばれます。
催吐反射も同じ意味で使われますが,実際に嘔吐してしまう場合に催吐反射と呼び,咽頭反射とは分けることもあるようです。
嘔吐反射とも呼ばれますが,この呼び方は,歯科,耳鼻咽喉科,看護などで治療やケアのために口の中に器具などを入れた際に,咽頭反射が強く出ることで治療やケアが阻害されるという場面で使われることが多いようです5,6)。
咽頭反射の機能
咽頭反射には,異物が入るのを防ぐ働きがあります6,8)。
また一方で,嚥下の際の嚥下反射の一部でもあります4)。
嘔吐と嚥下という相反する動きを担っていることになります。
この点について詳しく解説している文献は見つけられていません。
反応の詳細
咽頭反射の反応において,どの筋がどのタイミングで働き,どこがどのように動くのかについては,教科書等では書かれておらず,よく分かりません。
比較的詳しく書かれた文献4)から引用します。
嚥下とともに食塊は食道に送り込まれるが,このとき軟口蓋の挙上に伴い咽頭後壁に存在し咽頭神経叢支配を受ける上咽頭筋が収縮し,Passavant 隆起として軟口蓋挙上とともに後鼻孔の閉鎖に寄与する。同時に舌口蓋筋と咽頭口蓋筋の収縮によって口峡が閉鎖し,舌根の挙上とともに食物の食道からの逆流を防ぐ。
反射弓の詳細
求心路
咽頭の知覚は舌咽神経と迷走神経に支配されています。
また,咽頭反射は,口腔のより前方部の刺激でも起こることがあるとされており,神経支配は三叉神経です。
求心路は舌咽神経となっていることが多いのですが,三叉神経や迷走神経も含まれる9)ようです。
中枢
中枢はよく分かっていないようです。
嚥下中枢として想定されているのは,延髄の疑核背側と孤束核腹側の間にある介在ニューロン(小細胞網様体核)です4)。
遠心路
遠心路は迷走神経となっていることが多いのですが,咽頭の筋は咽頭神経叢に支配されており,咽頭神経叢には迷走神経,舌咽神経,副神経が含まれます。
ですので,遠心路は迷走神経だけでなく,舌咽神経や副神経も含まれる可能性があります。
検査方法の補足
刺激部位
刺激部位を図 1 に示します。
刺激方法
舌圧子または綿棒で軽く擦るように触れます。
刺激が強ければ,反応もより強くなるため,触れる強さは一定にする必要があります。
しかし,触れる強さに関する決まりはないようです。
左右にわけて行います。
検査結果の解釈
反応の強さは健常者でも個人差が大きく,消失することもあります。
亢進,減弱,消失があっても,反応の強さが両側で同じであれば,病的な状態であるのかどうかは分かりません。
左右差があれば病的である可能性が高くなります。
一側の減弱や消失があれば咽頭筋麻痺や咽頭の感覚障害を確認することができますが,求心路,中枢,遠心路のいずれの障害であるのかを鑑別する方法は文献にはありません。
また,咽頭の筋は複数の脳神経に支配されるため,脳神経を特定することもできないようです。
嘔吐してしまうこともあるため,診断学的意義は高くないようです2)。
偽性球麻痺では,咽頭反射は亢進します2)。
嚥下機能の評価にも使われます。
しかし,嚥下機能の評価として咽頭反射を用いることについては意見が分かれるようです7)。
おわりに
咽頭反射を理学療法士が行う機会はあまりないと思いますが,嚥下に対するアプローチを行うのであれば,おさえておきたいところです。
関連する脳神経については以下の記事でまとめています。
スポンサーリンク参考文献
1)田崎義昭, 斎藤佳雄: ベッドサイドの神経の診かた(改訂18版). 南山堂, 2020, pp116-118.
2)岩田誠: 神経症候学を学ぶ人のために. 医学書院, 2004, pp33-34.
3)鈴木則宏(編): 神経診療クローズアップ. メジカルビュー社, 2011, pp30-37.
4)高橋愼一: 嚥下のメ力ニズム:口腔,咽頭,喉頭の構造と神経筋の機能. 診断と治療. 2018; 106: 1190-1194.
5)柿沼八重子, 亀田行雄: 嘔吐反射で義歯を嫌がる患者さん. デンタルハイジーン. 2018; 38: 1029-1035.
6)辻岡良輔: 嘔吐反射が強い患者さん. BRAIN NURSING. 2017; 33: 70-73.
7)徳田佳生, 木佐俊郎, 他: 咽頭反射の嚥下評価における臨床的意義. リハビリテーション医学. 2003; 40: 593-599.
8)平山惠造: 臨床神経内科学(第4版). 南山堂, 2006, pp164.
9)上田敏, 大川弥生他(編). リハビリテーション医学大辞典. 医歯薬出版, 2002, pp187.
10)秋田恵一(訳): グレイ解剖学(原著第4版). エルゼビア・ジャパン.
11)金子丑之助: 日本人体解剖学上巻(改訂19版). 南山堂, 2002.
2021 年 7 月 25 日
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