迷走神経の走行と働き

はじめに

迷走神経(第 X 脳神経 vagus nerve)の働きや走行について解説します。
適度に詳しくなるよう心がけました。

目次

迷走神経の概要

迷走神経は,頸部,胸部,腹部の内臓に分布する混合性神経で,その主成分は副交感性です。

迷走神経の走行

延髄上部(オリーブ後溝で舌咽神経より尾側)から 13 〜 20 本の神経束として出てきます。
頸静脈孔に入るところで 1 本の迷走神経としてまとまり,舌咽神経,副神経とともに頸静脈孔を通って外頭蓋底に出ます。

頸静脈孔内で上神経節をつくり,頸静脈孔を出たあとに下神経節をつくります。

頸部では内頸動脈や総頸動脈の近くを下行します。

右迷走神経は鎖骨下動脈の前,左迷走神経は大動脈弓の前を通って胸腔に入ります。

気管支および心臓の後ろを通り,食道の外側に出ます。

食道の下端にいくに従って,左迷走神経は食道の前面,右迷走神経は食道の後面に沿って走り,食道とともに横隔膜の食道裂孔を通って腹腔に入ります。

迷走神経の起始(起始核,終止核)

迷走神経背側核(内側部)

内臓の平滑筋や分泌腺を支配する線維(副交感性節前線維)の起始核です。

疑核(迷走神経腹側核)

主に咽頭と喉頭の横紋筋を支配する線維の起始核です。

上神経節

一般体性感覚線維の起始核です。

三叉神経脊髄路核

上神経節からの一般体性感覚線維の終止核です。

下神経節

内臓を支配する感覚線維の起始核です。

孤束核

下神経節からの内臓の感覚線維の終止核です。
味覚線維も孤束核に終わります。

迷走神経の枝とその働き

上神経節からの枝

  • 硬膜枝:脳硬膜(横静脈洞および後頭静脈洞の領域)に分布する一般体性感覚線維
  • 耳介枝:耳介の一部と外耳道の後下壁の皮膚,鼓膜の外面に分布する一般体性感覚線維

硬膜枝は頭痛の発生に関係があるとされています。

耳介枝の耳介への分布は,後面1),上部内側3),外耳道開口部の周囲4)など,文献によって異なります。

舌咽神経との交通枝

この枝の詳細については記載がありません。

下神経節からの枝

下神経節から咽頭枝が出て,舌咽神経咽頭枝と交感神経咽頭枝とともに咽頭神経叢を作ります。
下神経節の下方からは上喉頭神経が出て,舌骨の高さで外枝と内枝に分かれます。

  • 咽頭枝:咽頭および軟口蓋の筋を支配する運動線維,喉頭蓋での味覚の線維,咽頭喉頭部の粘膜の感覚線維
  • 上喉頭神経
    • 外枝:下咽頭収縮筋への運動線維,心臓神経叢への枝,輪状甲状筋への運動線維,甲状腺への副交感性線維
    • 内枝:声門裂より上方の粘膜,咽頭喉頭部の粘膜,舌根粘膜の感覚線維,下喉頭神経との交通枝

咽頭枝と咽頭神経叢,上喉頭神経による筋の支配について,文献による違いがあり,表現が曖昧なこともあります。
以下のリストは私がいくつかの文献から,比較的はっきりと書かれているところをピックアップしたものです。
最新の解剖学の論文にはあたっていません。

咽頭枝に支配される筋

  • 口蓋帆挙筋
  • 口蓋垂筋
  • 口蓋舌筋
  • 口蓋咽頭筋
  • 上咽頭収縮筋
  • 中咽頭収縮筋
  • 耳管咽頭筋

上喉頭神経に支配される筋

  • 輪状甲状筋
  • 下咽頭収縮筋

上頸心臓枝

上喉頭神経と反回神経の間から出る枝で,心臓にいく副交感神経線維です。
下頸心臓枝と交感神経枝とともに心臓神経叢をつくります。

内臓の感覚線維が含まれていて,抑制(減圧)神経として分岐します。
大動脈小体の化学受容器(酸素濃度),大動脈弓の圧受容器(血圧)からの感覚線維です。

反回神経

胸腔内に入ると反回神経を分岐します。
枝を出しながら上行し,下咽頭収縮筋の下縁で下喉頭神経となり,さらに前枝と後枝に分かれます。
そして,下喉頭神経は上喉頭神経の内枝と吻合します。

反回神経からの枝は以下の通りです。

  • 下頸心臓枝(胸心臓枝):心臓にいく副交感神経線維,心臓神経叢に加わる
  • 気管枝:頸部の気管に分布,平滑筋と分泌腺へ行く副交感神経線維,粘膜の感覚線維
  • 食道枝:食道壁と咽頭壁に分布,平滑筋と分泌腺へ行く副交感神経線維,粘膜の感覚線維
  • 下喉頭神経
    • 前枝:喉頭(声門裂より下方)粘膜の感覚線維,甲状披裂筋と外側輪状披裂筋を支配する運動線維
    • 後枝:後輪状披裂筋,横披裂筋,斜披裂筋を支配する運動線維

喉頭筋は,輪状甲状筋だけが上喉頭神経支配で,他の喉頭筋は下喉頭神経支配です。

下喉頭神経に支配される筋

  • 甲状披裂筋(声帯筋,室筋):前枝
  • 外側輪状披裂筋:前枝
  • 斜甲状披裂筋:前・後枝のどちらかは記載がないが,筋は喉頭の前方にある
  • 後輪状披裂筋:後枝
  • 横披裂筋:後枝
  • 斜披裂筋:後枝
  • 披裂喉頭蓋筋:前・後枝のどちらかは記載がないが,筋は喉頭の後方にある

気管支枝

胸部で反回神経よりも下で分岐します。
交感神経の枝とともに肺神経叢をつくります。
気管下部に分布します。
平滑筋と分泌腺へ行く副交感神経線維と粘膜の感覚線維があります。

食道枝

胸部で気管支枝よりも下で分岐します。
食道下部に分布します。
反回神経からおこる食道枝とともに食道神経叢をつくります。
平滑筋と分泌腺へ行く副交感神経線維と粘膜の感覚線維があります。

前・後胃枝

腹部での分岐で,食道神経叢から分岐します。
それぞれ前胃神経叢と後胃神経叢をつくります。
胃に分布し,平滑筋と分泌腺へ行く副交感神経線維と粘膜の感覚線維があります。

肝枝

前胃神経叢から分岐します。
肝臓に分布する副交感神経線維と感覚線維があります。

腹壁枝

後胃神経叢の枝が腹腔神経叢(交感性)と合わさり,胃以外の内臓に分布するものです。
平滑筋と分泌腺へ行く副交感神経線維と感覚線維があります。
以下の枝があります。

  • 脾枝:脾臓に分布
  • 腎枝:腎臓に分布
  • 腸枝:腸管に分布

おわりに

今回の記事で参考にした一般的な教科書では,あまり詳しいことは書かれていません。
特に末梢の枝についてほど,表現が曖昧になっていきます。

ですが,特に理学療法士にとっては,とりあえずは上記の内容を理解していれば十分すぎるくらいだと思います。

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参考文献

1)金子丑之助: 日本人体解剖学上巻(改訂19版). 南山堂, 2002, pp546-554.
2)金子丑之助: 日本人体解剖学下巻(改訂19版). 南山堂, 2008.
3)越智淳三(訳): 解剖学アトラス(第3版). 文光堂, 2001, 437-450.
4)秋田恵一(訳): グレイ解剖学(原著第4版). エルゼビア・ジャパン, 2019, 677-920.
5)岡田泰伸(監修): ギャノング生理学 原著25版. 丸善出版, 2017.
6)本間研一(監修): 標準生理学 第9版. 医学書院, 2019.
7)津山直一, 中村耕三(訳): 新・徒手筋力検査法(原著第9版). 協同医書出版社, 2015.
8)堀田晴美, 飯村佳織, 他: 自律神経反射による甲状腺機能の調節. 自律神経. 2019; 56: 132-137.

2021年6月6日

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