唾液腺に対する自律神経の作用

はじめに

唾液腺の自律神経支配は交感神経と副交感神経の二重支配です。
副交感神経の作用は唾液分泌の促進なのですが,交感神経の作用がはっきりしません。
唾液腺に対する自律神経の作用について調べてみました。

教科書等ではどうなっているのか

ギャノング生理学

自律神経に関する章1)では,副交感神経の作用は多量で漿液性の唾液の分泌,交感神経の作用は濃厚で粘稠な唾液の分泌とアミラーゼ分泌となっています。

しかし,唾液分泌に関する章2)では,「唾液分泌の調節は,神経を介したものにほぼ限られていて,中でも自律神経系の副交感神経が最も主要な役割を果たしている。これに対し交感神経は唾液の組成をわずかに修正(特にタンパク質成分の増加)する作用を有するが,唾液の量を増やす作用はもたない」としています。

「唾液の量を増やす作用はもたない」という表現を,唾液を分泌する作用はないと解釈すると,最初の記述と矛盾することになります。

また,ギャノング生理学にある記述はイヌやラットでの研究に基づくもののようです4)

標準生理学3)

交感神経の刺激では唾液の粘度が増加し,副交感神経の刺激では漿液性の唾液を大量に分泌するとあります。

この記述からは,交感神経の刺激で唾液が分泌されるのかどうかははっきりしません。

真島の生理学4)

「唾液腺に関しては,交感神経も副交感神経も共に分泌促進神経であって拮抗支配はみられない」とあります。

古い教科書ですが,交感神経で促進されるとはっきりと書かれています。

唾液腺の自律神経支配5)

唾液腺の自律神経支配に関するレビューの論文です。

交感神経には唾液分泌作用があるとする研究が紹介されていますが,動物実験によるものです。

そして,「唾液腺の自律神経支配は交感神経と副交感神経の複雑な協調支配であり,両者の作用がどのように統合されているかはほとんど未解明である」と述べています。

この論文からは,交感神経の唾液腺への作用はよく分かっていないようだということが読み取れます。

国家試験問題

理学療法士国家試験で,関連する問題が出題されています。

第 56 回理学療法士国家試験 午後 問題 62

交感神経および副交感神経の両方の刺激で促進されるのはどれか。

1.発汗
2.心拍
3.胃の蠕動
4.唾液腺分泌
5.立毛筋収縮

正解 4

問題文がやや分かりづらいです。
「両方の刺激で促進される」という表現は,交感神経と副交感神経の両方の刺激が同時に行われることで促進されるという意味でしょうか?
それとも,交感神経の刺激と副交感神経の刺激のどちらであっても促進されるという意味でしょうか?

交感神経と副交感神経の同時刺激で促進されるという意味だと,唾液腺分泌が正解でよさそうです。
しかし,「唾液腺の自律神経支配は交感神経と副交感神経の複雑な協調支配であり,両者の作用がどのように統合されているかはほとんど未解明である5)」のですから,そんなことを国家試験に出題してもいいのだろうかという疑問が残ります。

交感神経と副交感神経のどちらの刺激であっても促進されるという意味であったらどうなるでしょう?
交感神経による刺激で唾液分泌が促進されるとしている文献はありますので,唾液腺分泌が正解になりそうです。
しかし,唾液腺に対する交感神経の作用についての意見は一致していないようです。
そうなると,国家試験問題としては不適切であるような気もします。

おわりに

教科書に書いてあることの不確かさがよく分かりました。
新しい論文を追いかける必要がありそうです。

参考文献

1)岡田泰伸(監修): ギャノング生理学 原著25版. 丸善出版, 2017, pp310.
2)岡田泰伸(監修): ギャノング生理学 原著25版. 丸善出版, 2017, pp543-544.
3)本間研一(監修): 標準生理学 第9版. 医学書院, 2019, pp851-853.
4)真島英信: 生理学 改訂第18版. 文光堂, 1993, pp435-436.
5)田村直俊, 中里良彦: 唾液腺の自律神経支配-歴史的展望. 自律神経. 2019; 56: 155-161.

2021年7月27日

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