受動運動覚の検査

はじめに

受動運動覚の検査とは,四肢が動かされた方向が判るかどうかを調べる検査です。

その検査方法について,教科書には書かれていない内容も含めて詳しく解説します。

開始肢位

筋緊張が高いと,動かされた方向が分かりやすくなり,検査結果がばらついてしまいます。
開始肢位は,検査する関節に作用する筋群の筋緊張が低くなるようなものにします。

抗重力位にならないようにし,被検者にも力を入れないよう指示します。

また,検査する関節をまたいでいる皮膚や筋に生じる張力が均等になるようにします。
例えば,屈筋は短縮し伸筋は伸長しているということがないようにします。
最終域に近くて皮膚や筋に大きな張力が生じていると,動きは分かりやすくなります。
ようするに,筋緊張が低い時に自然ととる肢位です。

検査手技

開始肢位から他動で動かし,動いた方向が分かればすぐに答えてもらうようにします。

動いた方向は「上」か「下」で答えてもらいます。

「すぐに」というのが大切です。
分かるまでの時間(動かした角度)も判定要素になるからです。
また,最終域で止まったところで答えてしまうと,受動運動覚ではなく,位置覚の要素が多くなってしまいます。

もちろん,目は閉じてもらいます。

動かす方向の側面を持って動かします。
母指の屈伸で検査するのであれば,母指の橈側と尺側からつまみます。
これは極めて重要で,例えば,上から押されれば下に動いたことは簡単に分かってしまいます。
初心者にありがちな失敗として,初めは側面を持っているのに,動かしているうちにずれてくるというものがあります。
検者と被検者の指の角度が変わっていく状態で,最初は側面を持っていても,例えば下に動かしていくうちに,被検者の指の上側にずれていったりします。
検者が主に手関節を使って動かすとそうなってしまいます。
被検者の指が下がっていくと同時に,検者の体全体が下がっていくようにする必要があります。
このような動かし方は運動療法全体に共通する基本的な手技ですので,十分に練習しておくことをお勧めします。

動かす時に他の部位に触れてしまわないようにします。
触れることで被検者に伝わる情報量が変化し,検査結果にも影響します。

返答があれば動かすのをやめ,開始肢位に戻します。
母指だと,そっと手を放せば自然と開始肢位に戻ります。

動かすスピードはゆっくりが基本です。
正常であれば,筋緊張が低い状態で,ゆっくり動かされても,すぐに,高い正答率で答えることができます。
ただし,ゆっくりすぎると正常でも分からなくなります(熟練したセラピストは分からないように動かすことができます)。

検査のオリエンテーション(説明)は大切です。
開眼での説明と練習,健側での練習などをうまく組み合わせる必要があります。
当然ですが,上下を説明するときは,検査部位を見てもらう必要があります。
学生にありがちな失敗は,足の母趾で検査するとき,被検者に足をみてくださいと言うのだが,背臥位なので見えないというものです。
時々,動かさないで答えてもらうことにより,検査方法の理解や詐病をみることができます。

末梢循環不全によって受動運動覚の障害が生じることがあります。
温めてから検査する場合もあります。

判定と記録

判定と記録は正答率で行います。
5 回あるいは 10 回中の正答率で判定し,5 / 5 や 3 / 10 などのように正答率を記録します。

この 5 回という数字には根拠があります。
どちらに動かされたかが全く分からない状態であっても,当てずっぽうで上か下かのどちらかを答えれば,50% の確率でまぐれ当たりになります。
でも,まぐれで 5 回連続正答になる確率は3.125%です。
5 回連続で正答であれば,まぐれ当たりではないと判断できます。
これは統計学の危険率の考え方です。

「正答」の判定にも注意が必要です。
すぐに答えることはできないが正答ではある場合,「5 / 5(すぐに答えることはできない)」などと記録することになります。
しかし,すぐに答えない時点で不正解とすることもできます。
統一はされていません。

他動で動かしたときにどうしても筋緊張が高くなるということもあります。
同じように,「5 / 5(筋緊張が高い)」などと記録します。
あるいは,筋緊張が高ければ不正解とする場合もあります。
統一されていません。

正答率と重症度の関係は,まだ明らかになっていないようです。
正答率 4 / 5より,2 / 5の方が受動運動覚の障害の程度は重いと言えそうですが,本当にそうであるのかは分からないということです。

重度鈍麻と消失の鑑別が必要です。
おそらく重度鈍麻でも消失でも正答率は 0 / 5となるでしょう。
この場合,速く動かすことで鑑別できることがあります。
同じ 0 / 5でも,速く動かせば正答が出る場合は重度鈍麻で,速く動かしても全く分からなければ消失です。

以上のことから,記録は正答率が基本ですが,返答までの時間,動かす速さ,筋緊張などの記録もあった方がよさそうです。

慣例的に,上下肢とも母指で行うことが多いようです。
受動運動覚は末梢部ほど障害されやすいため,末梢部が正常であれば,中枢部も正常であることが多く,中枢部の検査は省略されることがあります。
もっとも侵されやすいのは,足の母趾だとする文献1)と,第 5 趾だとする文献2)があります。

SIAS3)では,0点:全可動域にわたって動かしても動きが分からない,1点:動いていることだけは分かるが,全可動域の動きでも方向は分からない,2点:中等度の動きで方向が分かる,3点:わずかな動きでも方向が分かる,の 4 段階で判定しています。

おわりに

簡単にできそうで意外に難しい検査ですので,特に学生の皆さんには,しっかり練習することをお勧めします。
冬に,いわゆる冷え性の人と練習すると,末梢循環不全による受動運動覚の障害を経験することができ,いい練習になります。

検査の目的は別の記事にまとめています。

参考文献

1)田崎義昭, 斎藤佳雄: ベッドサイドの神経の診かた(改訂17版). 南山堂, 2014, pp99-100.
2)Haerer AF: DeJong’s The Neurologic Examination(5th edition). LIPPINCOTT, 1992, pp69.
3)千野直一, 椿原彰夫, 他(編著): 脳卒中の機能評価-SIASとFIM[基礎編]. 金原出版, 2018, pp55-56.

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