神経学的検査

受動運動覚の検査

投稿日:2017年12月25日 更新日:

受動運動覚の検査とは,四肢が動かされた方向が判るかどうかを調べる検査です。
教科書には検査方法が詳しく書かれていないことが多いように思いますので,ここでまとめてみたいと思います。
ある程度分かっている方を想定して書きます。

まずは開始肢位です。
検査する関節に作用する筋群の筋緊張が低くなるようにします。
筋緊張が高いと動きは分かりやすくなります。
抗重力位にならないようにし,被検者にも力を入れないよう指示します。
また,検査する関節をまたいでいる皮膚や筋に生じる張力が均等になるようにします。
最終域に近くて皮膚や筋に大きな張力が生じていると,動きは分かりやすくなります。
張力が均等な肢位が中間位になっていればいいでしょう。
動きが分かりやすい状態で検査をしてしまうと,軽度の障害を検出できなくなります。

開始肢位から他動で動かし,動いた方向が分かればすぐに答えてもらうようにします。
動いた方向は「上」か「下」で答えてもらうといいでしょう。
「すぐに」というのが大切です。分かるまでの時間(動かした角度)も判定要素になるからです。
また,最終域で止まったところで答えてしまうと,受動運動覚ではなく,位置覚の要素が多くなってしまいます。
もちろん,目は閉じてもらいます。

動かす方向の側面を持って動かします。
母指の屈伸で検査するのであれば,母指の橈側と尺側からつまみます。
これは極めて重要で,例えば,上から押されれば下に動いたことは簡単に分かってしまいます。
初心者にありがちな失敗として,初めは側面を持っているのに,動かしているうちにずれてくるというものがあります。
検者と被検者の指の角度が変わっていく状態で,最初は側面を持っていても,例えば下に動かしていくうちに,被検者の指の上側にずれていったりします。
検者が主に手関節を使って動かすとそうなってしまいます。
被検者の指が下がっていくと同時に,検者の体全体が下がっていくようにする必要があります。
このような動かし方は運動療法全体に共通する基本的な手技ですので,十分に練習しておくことをお勧めします。

動かす時に他の部位に触れてしまわないようにします。
触れることで被検者に伝わる情報量が変化し,検査結果にも影響します。

返答があれば動かすのをやめ,開始肢位に戻します。
母指だと,そっと手を放せば自然と開始肢位に戻ります。

動かすスピードが大切です。
正常であれば,筋緊張が低い状態で,ゆっくり動かされても,すぐに,高い正答率で答えることができます。
ゆっくり動かすのが基本です。
ただし,ゆっくりすぎると正常でも分からなくなります(熟練したセラピストは分からないように動かすことができます)。

判定と記録は正答率で行います。
5 回あるいは10 回中の正答率で判定し,5/5や3/5などのように正答率を記録します。
この5回という数字には根拠があります。
動かされたことは分かるけれど,どちらに動かされたかは全く分からない状態だとしても,当てずっぽうで上か下かのどちらかを答えれば,50%の確率でまぐれ当たりになります。
でも,まぐれで5回連続正答になる確率は3.125%です。
5回連続で正答であれば,まぐれ当たりではないと判断できます。
これは統計学の危険率の考え方です。

「正答」の判定にも注意が必要です。
すぐに答えることはできないが正答ではある場合,「5/5(すぐに答えることはできない)」などと記録することになると思います。
しかし,すぐに答えない時点で不正解とすることもできます。
統一はされていないようです。
他動で動かしたときにどうしても筋緊張が高くなるということもあります。
筋緊張が高い状態での正答をどう解釈し記録するかは統一されていないようです。

正答率と重症度の関係は,まだ明らかになっていないようです。
正答率4/5より,2/5の方が受動運動覚の障害の程度は重いと言えそうですが,本当にそうであるのかは分からないということです。

SIAS(脳卒中の評価)では,0点:全可動域にわたって動かしても動きが分からない,1点:動いていることだけは分かるが,方向は分からない,2点:中等度の動きで方向が分かる,3点:わずかな動きでも方向が分かる,の4 段階で判定しています。

重度鈍麻と消失の鑑別も,明らかになっていないようです。
おそらく重度鈍麻でも消失でも正答率は0/5となるでしょう。
この場合,私見ですが,同じ0/5でも,速く動かせば正答が出る場合は重度鈍麻で,速く動かしても全く分からなければ消失とすればいいのではと思います。

記録は正答率が基本ですが,返答までの時間,動かす速さ,筋緊張などの記録もあった方がよさそうです。

検査のオリエンテーション(説明)は大切です。
当然ですが,上下を説明するときは,検査部位を見てもらう必要があります。
開眼での説明と練習,健側での練習などをうまく組み合わせる必要があります。
時々,動かさないで答えてもらうことにより,検査方法の理解や詐病をみることができます。

特に学生の皆さんは,簡単にできるだろうとあまり練習していないような気がします。
臨床実習に行ってはじめてできないことに気づいたりします。
そうやって気づくのが臨床実習ですが,できないことが多すぎると心が折れてしまいます。
事前に準備しておけば済むことですので,分かっている人に見てもらいながら,しっかり練習してください。
それから,冬に,いわゆる冷え性の人と練習するのをお勧めします。
末梢循環不全による受動運動覚の障害を経験することができます。

検査の目的は別の記事にまとめています。

2017年12月25日

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