上田の 12 段階片麻痺機能テストの実際(2)サブテスト – 全体

はじめに

上田の 12 段階片麻痺機能テストに関するシリーズの 2 番目です。
最初から順番に読むことをお勧めします。

上田の 12 段階片麻痺機能テストの実際(1)実施手順など
上田の 12 段階片麻痺機能テストの実際(2)サブテスト – 全体
上田の 12 段階片麻痺機能テストの実際(3)サブテスト – 上肢
上田の 12 段階片麻痺機能テストの実際(4)サブテスト – 下肢

また,手元に教科書等にある検査の表をご用意いただいていることを前提としています。

この記事では,各サブテストで共通することを解説していきます。

座位姿勢

座位については,下肢のテストで股関節を 60° ~ 90° の屈曲位とすることと大腿部を水平にするという条件がありますが,他には具体的な記載がありません。
上肢のテストでは,骨盤が極端に後傾位だと,上肢の動きに影響が出るかもしれませんので,下肢のテストに合せて股関節屈曲 60° ~ 90° とすることが多いと思います。
しかし,股関節屈曲 60° ~ 90° でなくても上肢の判定には関係ありません。

椅子について

肘掛けはない方が検査はしやすいでしょう。

座位での背もたれの有無については明記されていませんが,No. 5 のテスト(手を背中の後へ回す)や図から判断して背もたれなしの座位を基本としていいでしょう。
背もたれなしの座位を保持できなければ,背もたれありの座位で行うしかありません。
すると,No. 5 のテストができなくなり,総合判定ができなくなる場合がでてきます。
例えば,No. 3 と 4 が十分で,No. 6 と 7 が不十分だったとすると,No. 5が十分ならステージ IV-1 で,不十分ならステージ III-4 になりますが,それが鑑別できなくなります。
この場合,私は No. 5 が実施できないことを明記したうえで,ステージ III-4 〜 IV-1 とします。
背もたれありの座位で行ったサブテストが有効であるのかどうかは分かりません。
私は,結果を記録するときに背もたれありの座位で行ったことを明記するようにしています。
各自でルールを決めるしかありません。

健側上肢による支持

座位で,健側上肢による支持をしてもいいのかどうかについての記載がありません。
上肢支持の有無で動きが変わる可能性があります。
教科書等の図では健側の上肢が描かれていないのですが,上肢の N0. 5 のテストの図にだけ描かれています。
後方の図ですので上肢は体幹に隠れていますが,膝の上に乗せているようです。
このことから,上肢支持は許されていないと判断し,健側の上肢は膝の上に置いてもらうようにしています。
上肢支持ありでは十分で,上肢支持なしでは不十分になるということがあるかもしれません。
これは,12 段階片麻痺機能テストの範囲を超えた,別の評価をしたことになります。

坐位が全くとれない場合

坐位が全くとれない場合についても書かれていません。
坐位がとれなければ検査はできないという解釈で問題ないでしょう。
しかし,背臥位のままで麻痺の程度を知りたいという場面もありえます。
その時は背臥位でできるサブテストを行って,ステージをおおまかに予測すればいいでしょう。

非対称性緊張性頚反射に関して

非対称性緊張性頚反射(以下ATNR)に関して,文献のみでははっきりしないことがあります。
最初の論文3)でのサブテストの説明では,ATNR を併用するかどうかの指定があります。
例えば,上肢の連合反応をみる場合に,ATNR を併用してはじめて連合反応が生じる場合でも十分と判定することになっています。
下肢の連合反応では ATNR は併用しないこととなっています。
しかし,その後の教科書等での説明では,ATNR には触れていません。
おそらく,ATNR は使わないことになったのだろうと思いますが,はっきりしません。
私は,とりあえず,ATNR は使わないことにしています。
ですので,検査中は頭頸部が回旋位にならないよう注意する必要があります。

声かけについて

分離運動をみるテストですので,指示どうり正確な動作を行ってもらうようにします。
「頑張ってあげてください」などと指示すると,筋緊張が上がってしまい分離運動が難しくなることがあります。
全体的にリラックスしてもらえるようにするといいでしょう。

次の記事に続きます。

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参考文献

1)上田敏: 片麻痺機能テスト, リハビリテーション医学全書14 脳卒中・その他の片麻痺(第2版). 福井圀彦(編), 医歯薬出版, 東京, 1994, pp75-90.
2)吉尾雅春: 中枢神経疾患・障害に対する評価の進め方(総論)- 脳血管障害を例として, 理学療法ハンドブック改訂第4版第1巻. 細田多穂, 柳澤健(編), 協同医書出版社, 2010, pp787-852.
3)上田敏, 福屋靖子, 他: 片麻痺機能テストの標準化-12 段階「片麻痺回復グレード」法. 総合リハ. 1977; 5: 45-62.
4)大畑光司, 佐久間香: 中枢神経系検査測定法(1)- 片麻痺(錐体路徴候), 15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 理学療法評価学II. 石川朗(編), 中山書店, 2013, pp27-38.
5)佐久間昭, 上田敏, 他: 片麻痺機能テストの標準化に関する研究(1)- 研究方法. 臨床薬理. 1976; 7: 271-280.
6)佐久間昭, 上田敏, 他: 片麻痺機能テストの標準化に関する研究(2)- 基礎的吟味. 臨床薬理. 1976; 7: 281-292.
7)佐久間昭, 上田敏, 他: 片麻痺機能テストの標準化に関する研究(3)- 定量的吟味と検証. 臨床薬理. 1976; 7: 293-308.

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2021 年 1 月 26 日
2018 年 10 月 14 日

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