神経学的検査

(上田の)12 段階片麻痺機能テストの実際(3)サブテスト – 上肢

投稿日:2018年10月14日 更新日:

(上田の)12 段階片麻痺機能テストに関しての連続した4つの記事の3番目です。
最初から順番に読むことをお勧めします。

(上田の)12 段階片麻痺機能テストの実際(1)実施手順など
(上田の)12 段階片麻痺機能テストの実際(2)サブテスト – 全体
(上田の)12 段階片麻痺機能テストの実際(3)サブテスト – 上肢
(上田の)12 段階片麻痺機能テストの実際(4)サブテスト – 下肢

この記事では上肢のサブテストについて解説していきます。

上肢のサブテスト全体において,手指の肢位をどうするかが明記されていません。
図には手指が描かれており,とりあえず図の通りの肢位をとってもらうようにしています。
図の通りの肢位をとれない場合にどう判定するかについても記載がありません。
基本的には,手指が図の通りでなくても判定には関係はないと考えていますが,サブテストによって異なるところは,この後に説明していきます。
最初の論文では,手指の肢位は描かれていません。
このことからも,手指は関係ないのかもしれません。

上肢No.1,2,3

3つとも出発肢位が同じで,テスト動作も基本的には同じです。
3つセットで行います。
例えば,共同運動での随意運動(No.3)が起こらなければ,大胸筋の収縮を触知し(No.2),収縮がなければ連合反応をみる(No.1)という流れにすることが多いでしょう。

図の通りの出発肢位は肩関節を痛める可能性があります。
手先が耳に届いていなくても構わないでしょう。
説明にも「手先を耳に近い位置に置く」とあります。
麻痺側の肩関節を動かすときには,肩甲胸郭関節の上方回旋を確認する必要があります。

No.1のテストを行う必要のある被検者は麻痺が強く,出発肢位を保持できないことがよくあります。
肩関節の過度の水平外転や外旋が起こってしまわないよう,上腕や前腕をクッション等で支える必要があります。
ちなみに学生同士で練習をすると,支えが悪くても上肢が落ちたりしません。
被検者役の人は意識して力を抜くといいでしょう。
次のNo.2,3も同じく支えが必要ですが,No.1のように徒手抵抗をかけなくてもいいぶん,検者の手が余りますので,検者が支えるのであれば,クッション等は必要ありません。

No.1の健側に対する徒手抵抗ですが,等尺性収縮,求心性収縮,遠心性収縮のどれにすればいいのかが明記されていません。
抵抗をかけつつ,反対側の大胸筋を触診するためには,等尺性収縮にする方がやりやすいように思います。
私が学生の時に教えてくれた先生は等尺性収縮で行なっていました。
等尺性収縮で行なっている人が多い印象ですが,多いからといって正しいとは限りません。

抵抗の強さについては,最初の論文には「連合反応誘発のための徒手抵抗は最大抵抗となるようにする」とあります。
ただし,特に等尺性収縮で行った場合に,抵抗が強すぎると血圧が上昇する可能性があります。
できるだけ短時間で行うといいでしょう。

上肢No. 4

坐位で行います。
ギャッチアップすらできない状況で,このテストを背臥位で行うということはあり得ます。
No.1から4までは背臥位でも実施でき,判定ができそうですが,No.4を背臥位で行ったのであれば,正式な判定はできません。
臨床的には有意義な情報を得ることができますので,私は背臥位でこのテストを行ったことがあります。
その場合は,背臥位で行ったことを明記し,例えば,「ステージIII-1相当」などとします。

No.3とNo.4の判定は,手先がどこまで動くかでみるのですが,手先が何なのかは書かれていません。
とりあえず,私は中指でみるようにしています。

上肢No. 5

出発肢位が明記されていませんが,図の右手から想像して,膝を上から始めることにしています。
「手が背中の中心線の近くの脊柱から,5cm以内に達するかどうかをみる」となっています。
読点の位置が間違っているのかもしれません。
最初の論文では「手が背中の中心線の近く,脊柱より5cm以内に達する」という表現です。
こちらの方が,より正確な文だと思います。
でも,「手が脊柱より5cm以内に達する」だけでいいのではないでしょうか?
手のどこが5cm以内に達すればいいのかは書かれていません。
私は手の最も内側でみることにしています。

指を伸展しているか屈曲しているかで結果は大きく変わります。
図が軽度屈曲位ですので,それで測定することにしています。
指が伸展位の場合,軽度屈曲位にすれば最も内側になるであろうPIP関節あたりで測ればいいのではないでしょうか。

上肢No.6

出発肢位である肩関節屈曲0°では,上肢の長さによっては手が座面にあたり,肘伸展位を保持できない場合があります。
肘掛のない座面の狭い椅子であれば肘伸展位とすることができます。
しかし,検査全体としては背臥位になる必要があるため,治療用ベッドやプラットフォームに座って検査するのが普通です。
ベッドの端にいけばいいのですが,安全性の問題や移動する手間の問題があります。
私は,手を体の横に自然に下ろし,座面に手を置いたところからスタートするようにしています。
そして,肩を屈曲するにつれて肘が伸展していけばよしとしています。
出発肢位は描かれておらず,説明もありませんので,ここでも各自の判断で行うことになってしまいます。

上肢No.7

手指は図をみると完全屈曲位になっています。
手指屈曲位をとってもらったときに,強く握りしめてしまうと,回内は行いにくくなるかもしれません。

出発肢位を自力でとれることが求められています。
「肘を体側にぴったりとつけ,離さないこと」となっていますが,体脂肪や筋などの軟部組織のつき方により,肘が体側につきにくいことがあると思います。
「ぴったり」がどの程度なのかがはっきりしないことが問題なのかと思います。

ちなみに私は体脂肪率がかなり低く,肘がぴったりつくという感じがしません。
自分が被検者で,「肘を体にぴったりとつけて,指はグーにして」などと指示されたら,内側上顆を肋骨に強く押しつけ,その流れで指を強く握りしめてしまいそうです。

上肢No.8

肩関節水平内転は20°までとなっています。
外転をみるために前方からみていると水平内転があっても分かりにくいので気をつける必要があります。
学生はよく見落とします。

出発肢位で肘が屈曲位となってしまう場合があります(No.6での説明を参照)。

上肢No.9

「上肢は横に30°以上開かないように」となっています。
No.8と同じように,肩関節の屈曲を側方からみていると,水平外転を見落としがちになります。

出発肢位で肘が屈曲位となってしまう場合があります(No.6での説明を参照)。

図から判断して,前腕は回内位,手指は伸展位で挙上してもらいます。
「バンザイをする」となっていますが,バンザイは前腕中間位とするのが正式です。
このテストの前腕回内位での挙上は,バンザイではなく降参です。
それに,バンザイは両手でするものです。
バンザイをしてという口頭指示はうまく入らない可能性があります。

上肢No.10

出発肢位を自力でとれることが求められています。

肩関節の水平内外転が生じることがありますが,その規定はありません。
No.6にあわせて,水平内外転は10°以内を目安にします。
水平内外転が10°を超えてしまっても,判定には関係ありません。

上肢No.11

「手先を肩につけ真上に挙上する」と説明がありますが,図では手先が肩についていません。
最初の論文では,「手を肩から」となっており,手を肩につけるとは書いていません。
被検者にとっては「手がつくところまで下げる」という目標があったほうが行いやすいだろうと考え,手先をつけるよう指示しています。
手先が肩につかなくても,図と同じような肢位になっていればよしとしています。

出発肢位の説明がありませんが,図より,肩関節は屈曲0度から始めるということのようです。
被検者には「肘をしっかり下げましょう」などと指示します。
速く動かそうとすると,肘の位置がだんだん高くなっていくことがありますので,注意が必要です。
ちなみに,最初の論文の図では出発肢位は肩関節屈曲90°となっています。
変更になったということでしょうが,どちらかの文献が間違っているのではと疑ってしまいます。

最初の論文には,「体幹は出来るだけ動かさない」とあります。

最大の速さで測定します。
「できるだけ早く」という表現になっていますが,漢字は「早く」ではなく「速く」でしょう。

十分と判定する基準は「健側の1.5倍以下」となっています。
「以下」ですから,1.5倍であれば十分と判定します。
しかし,不十分のところに「健側の1.5〜2倍」という表現が出てきます。
この表現だと1.5倍は不十分でもあるということになります。
どちらが正しいのかは分かりませんが,文献内での以上や以下という言葉の使われ方を総合的に判断して,私は1.5倍であれば十分と判定しています。

測定値の有効桁数が書いてありません。
臨床では時計の秒針で測ることもあるかと思いますので,1の位までを有効とすればいいのではないでしょうか。

検者が反復回数を声に出して数えてしまうと,被検者がその声のテンポに合わせてしまい本来の速さではなくなってしまうことがあります。

手を挙げるのを10回繰り返すのか,手を挙げて下ろすのを10回繰り返すのかがはっきりしません。
つまり,10回目の手が挙がりきったところで終わりなのか,おろしたところで終わりなのかが分かりません。
上肢予備テストや下肢No.11では往復運動という言葉が使われていますので,私は挙げて下ろすのを10回と解釈しています。
ただ,図の矢印を見ると,上肢No.11では挙上方向のみの矢印で,上肢予備テストと下肢No.11では往復の矢印になっています。
あえてその矢印にしているのであれば,解釈も変わるのですが,おそらく上肢の図が間違っているのではと考えています。

若い健常者は気づかないことが多いのですが,スピードテストは結構疲れますので,配慮が必要です。

上肢予備テスト

No.8のテストの動きを反復します。

最初の論文には「肩外転60〜90°を保つこと」とあります。
外転しすぎてもいけないということです。

No.6で説明したように,出発肢位で肘が屈曲するしてしまう場合があります。
出発肢位では肘屈曲位で,外転を始めたら肘を伸展し,戻すときには肘を屈曲するという動きは,速く反復しようとするときには難しいと思います。
ベッドの端など,肘伸展位で上肢を下垂できるところに移動すべきかと思います。
出発肢位を軽度外転位としてもいいのかもしれません。

次の記事に続きます。

参考文献
1)上田敏: 片麻痺機能テスト, リハビリテーション医学全書14 脳卒中・その他の片麻痺(第2版). 福井圀彦(編), 医歯薬出版, 東京, 1994, pp75-90.
2)吉尾雅春: 中枢神経疾患・障害に対する評価の進め方(総論)- 脳血管障害を例として, 理学療法ハンドブック改訂第4版第1巻. 細田多穂, 柳澤健(編), 協同医書出版社, 2010, pp787-852.
3)上田敏, 福屋靖子, 他: 片麻痺機能テストの標準化-12 段階「片麻痺回復グレード」法. 総合リハ. 1977; 5: 45-62.
4)大畑光司, 佐久間香: 中枢神経系検査測定法(1)- 片麻痺(錐体路徴候), 15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 理学療法評価学II. 石川朗(編), 中山書店, 2013, pp27-38.
5)佐久間昭, 上田敏, 他: 片麻痺機能テストの標準化に関する研究(1)- 研究方法. 臨床薬理. 1976; 7: 271-280.
6)佐久間昭, 上田敏, 他: 片麻痺機能テストの標準化に関する研究(2)- 基礎的吟味. 臨床薬理. 1976; 7: 281-292.
7)佐久間昭, 上田敏, 他: 片麻痺機能テストの標準化に関する研究(3)- 定量的吟味と検証. 臨床薬理. 1976; 7: 293-308.

2018年11月6日 加筆修正
2018年10月14日

-神経学的検査

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