はじめに
この記事では,協調運動障害(運動失調)の患者における,運動課題の難易度を決める要素について説明します。
課題の難易度を決める要素
以下の 8 つです。
- フィードバック
- 肢位
- 可動範囲
- 運動目標の大きさ
- 行程の複雑さ
- 関節数
- リズム
- 速度
これらの要素を考慮することで,課題の難易度を制御することができます。
次に,各要素を簡単に説明していきます。
1.フィードバック
適度なフィードバックがあったほうが,運動は容易になります。
フィードバックには 2 種類があります。
視覚,固有受容器,表在感覚などの身体内部からのフィードバックと,第三者による外部からのフィードバック(結果の知識)です。
2.肢位
重心が低く,支持基底面が広ければ,バランスを保持しやすく,運動は容易になります。
3.可動範囲
全ての可動範囲を使う運動の方が容易で,可動範囲の一部を使う運動は難しくなります。
可動範囲の全てを使う方が自由度が低いからです。
例えば,鼻指鼻試験のようなリーチ動作で,ちょうど手を伸ばしきったところに目標があれば,運動の選択肢としては手を伸ばしきるしかない,すなわち自由度が低いので,その動作は容易になります。
4.運動目標の大きさ
目標が大きければ容易で,小さければ難しくなります。
当たり前のことです。
5.行程の複雑さ
一方向で単行程の運動がもっとも容易です。
運動方向の変換や外部からの力を受けるような運動は難しくなります。
6.関節数
運動に参加する関節数とその自由度が少ないほうが容易です。
中間関節の固定や体幹の固定により運動は容易になります。
7.リズム
マイペースの運動は比較的容易ですが,外部からのリズムに合わせる運動は難しくなります。
8.速度
速い運動の方が容易です。
勢いをつけることで制御する要素を減らせるからです。
また,フィードバック制御機能が低下している場合,フィードバックが間に合わないような速さの運動であれば,フィードバック制御機能を使わない(使えない)ので,そのような運動は容易になります。
ただし極端に速い運動は難しくなります。
運動課題の難易度を制御する意義
協調運動障害をもつ患者の評価や治療を行う際,運動課題の難易度を制御する必要があります。
軽度の協調運動障害を検出しようとするとき,難易度の低い運動課題を行わせてしまうと,簡単にできてしまい障害を検出できません。
運動課題を徐々に難しくしていき,どれくらいならできるかを評価していけば,協調運動障害の程度を推測することができます。
運動療法では,簡単にできてしまう課題や難しすぎる課題では効果が出にくくなります。
ADL 指導においても,患者が行おうとしている動作が安全であるかどうかを判断する際に,難易度を考えます。
おわりに
教科書等によっては,運動課題の難易度について書かれていないこともあります。
しかし,協調運動障害の場合に限らず,理学療法を行う際には,課題の難易度を考える機会はとても多いと思います。
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参考文献
1)内山靖: 協調運動障害, 理学療法ハンドブック改訂第4版第1巻. 細田多穂, 柳澤健(編), 協同医書出版社, 2010, pp605-635.
2021 年 3 月 19 日
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