鼻指鼻試験の詳細(理学療法士が行う場合)

はじめに

鼻指鼻試験のやり方について,理学療法士の視点で詳しく解説します。

鼻指鼻試験の基本

鼻指鼻試験は協調運動障害(失調症)の検査です。
被検者の示指で,検者の示指と被検者の鼻先を交互に触らせます(図 1)。
運動の軌跡を観察し,測定異常や振戦があれば,協調運動障害(失調症)があることが分かります。

鼻指鼻試験
図 1: 鼻指鼻試験

検査方法の詳細

リスク管理

鼻を触ろうとしたときに,目を突いてしまうかもしれません。
最初に鼻ではなく指を触ってもらい,障害の程度を大まかに判断し,目を突くおそれがあれば,手を添えて保護します。
ただし,目を突きそうになったら止めるというのは,けっこう難しいことですので,検査をしないという選択肢もありえます。

鼻ではなく,顎を触ってもらえば,目を突くリスクは減りますが,唇や歯を突くリスクは増えます。

上肢の動きに伴って転倒する可能性があります。
最初は,背もたれのある椅子に座って行うのが無難です。

検者の示指が検者の顔に近すぎると,検者の顔に被検者の指があたってしまいますので,注意が必要です。

理学療法士ならではの考え方

理学療法士が鼻指鼻試験を行う目的は,失調症の診断ではなく,運動療法などの治療プログラムを立てるためです。
そのためには,障害構造の分析を行う必要があります。
測定異常や振戦があるのかどうかをみるだけでなく,難易度を変えながら試験を行い,動作分析を行います。
鼻指鼻試験は簡単に行うことができますが,そこから意味のある結果を得られるかどうかは,検者の分析能力にかかっています。

観察するポイント

指の軌跡

被検者の指が目標にうまく到達するのかを観察します。

指で目標に触れる動作には,二つの要素があります。
一つは,目標に向かって手を近づける動作で,もう一つは目標物にぴたりと触れるための微調整です。
正常であれば,指先は目標に向かってまっすぐ進み,手を近づけることと微調整の二つは同時に継ぎ目なく行われますので,区別することはできません。
協調運動障害があると,例えば,手は目標に向かって進んでいくけど,ぴたりと触れることはできないというように,二つの要素を別々に観察できることがあります。

次に,軌跡の異常を説明していきます。

初めから目標とは違う方向に進むことがあります。
これは,肩と肘が協調していないということであり,運動分解とも呼ばれます。
まっすぐ進まず,揺れながら進むこともあります。
目標に近づくほどに指が揺れてしまうのは振戦です。
最終的に指が目標に到達しないこともあり,測定異常と呼ばれています。
測定過大は目標を行き過ぎることで,測定過少は目標の手前で止まることです。

運動方向の変換

指を触る動きと鼻を触る動きの切り替えが,スムーズであるのかも観察します。
切り替えがうまくできないと,反復するリズムが一定ではなくなります。
拮抗する反復動作が困難になることを反復拮抗運動不能と呼びます。

各関節の動き

指の軌跡だけでなく,各関節の動きも観察します。
また,上肢の動きを観察するだけでなく,眼,頸,体幹が上肢の動きに協調して動いているかも観察します。

協調運動障害があると,動作に関わる関節数を減らした方が,その動作は簡単になります。
鼻指鼻試験の動作を繰り返していると,初めは肩関節と肘関節が両方とも動いていますが,徐々に肘関節だけが動くようになることがあります。

肢位

通常は座位で行います。
転倒を防ぐために背もたれのある椅子にもたれて行うのですが,これには,体幹がある程度固定された状態で行うという意味もあります。
背もたれにもたれずに行ってもらえば,体幹が不安定となり,動作の難易度はあがります。
さらに,立位で行えば,より難しくなります。

背臥位で行うこともできます。
坐位よりも背臥位の方が難しくなります3)
重力に抗する動きと従う動きの切り替えや,重力による加速の制御が難しいところです。

検者の指の位置

検者の指の位置を変えず,一定の位置で反復させれば,慣れることで動作が良くなるのかどうかをみることができます。
指の位置を変えれば,変化に対応できるかどうかをみることができます。
そして,様々な条件下での動作の変化から,障害構造を分析することができます。

被検者の上肢がちょうど伸びきる距離で反復させるのは比較的簡単です。
伸びきらない距離にすると,難易度があがります。

動きが不規則になると難しくなります。
正中位での反復から,指の位置をランダムに移動させての反復に変えると難しくなります。

検者の指を止めずに動かしたままにするとさらに難しくなります。

手が伸びる方向が水平なのか,それとも上下に傾くのかによっても難易度が変わります。
下に向かって伸ばすときには,重力による加速が加わるため,測定過大が起こりやすくなります。

検者の指を極端に近づけると,前腕の回内外で指と鼻の間を往復することになります。
動きが変わることを分かったうえで行うのであれば問題はありませんが,もしかしたら鼻指鼻試験とは呼べないのかもしれません。
顔の近くに指がくることはときに不快です。
先端恐怖症(限局性恐怖症,先鋭恐怖)で,指先も尖ったものとして恐怖を感じるかもしれませんし,老眼だと極端に近づいてくるもは見えづらくて不快です。

やや特殊な例ですが,検者の方から無意識に指を近づけてしまうことがあります。
心優しい人やせっかちな人は気をつけた方がいいのかもしれません。

速さ

被検者のペースで反復するのは比較的簡単です。
ゆっくりだと難しくなります。
また,極端に速くしても難しくなります。

速くしたり遅くしたり,不規則に速さを変えても,難易度は上がります。

指同士の合わせ方

指を触るとき,指腹同士を合わせるような感じになりますが,指尖を合わせるように触ってもらうと難しくなります。
つまり,検者の指を立てるか寝かせるかの違いになります。

記録と判定

協調運動障害の有無を判定するのであれば,なんらかの協調運動障害が出現したのなら「陽性」,出現しなければ「陰性」とします。
「拙劣・正常」とすることもあります。

動作分析の一つとして検査を行ったのであれば,観察した動作をそのまま記録していくことになります。

振戦の振幅の大きさによって障害の程度を大まかに表現することができます。
運動失調の包括的な検査スケールである SARA(scale for the assessment and rating of ataxia)2)に鼻指鼻試験が含まれており,以下のように段階付けを行います。

0:振戦なし
1:振戦がある。振幅は 2 cm 未満
2:振戦がある。振幅は 5 cm 未満
3:振戦がある。振幅は 5 cm より大きい注1)
4:5 回行えない。

測定過大の回数,すなわち目標を通り過ぎてしまう回数を数えるという方法もあります。

指耳指試験

鼻指鼻試験の変法です。
鼻ではなく,耳朶(じだ,みみたぶ)を触ってもらい,示指と耳朶の間を往復してもらいます。
耳朶を触るときには指は見えなくなりますので,鼻指鼻試験よりは難しくなります。
また,鼻であれば,測定過大があっても止まりますが,耳朶は柔らかいため,行き過ぎてしまいやすくなります。
この点も,鼻指鼻試験よりも難しいところです。

名称のバリエーション

指鼻指試験とも呼ばれます。

英語でも,Finger-Nose-Finger Test と,Nose-Finger-Nose Test があります。
SARA では,Nose-Finger Test と呼んでいます。

指鼻試験というのもありますが,これは別の試験です。
指鼻試験は鼻を触るだけで,反復はしません(詳しくはこちら)。

おわりに

理学療法士の場合,鼻指鼻試験は動作分析であるということが,特に重要です。
運動課題の難易度を変えるということについては,以下の記事で解説しています。

協調運動障害における運動課題の難易度を決める要素

その他の協調運動障害の検査についての記事もあります。

四肢の小脳性運動失調(協調運動障害)の要素
指鼻試験:方法,鼻指鼻試験との違い
膝打ち試験とは
足趾手指試験:検査方法の詳細
踵膝試験:検査方法の詳細
向こう脛叩打試験:検査方法の詳細
過回内試験:検査方法の詳細
手回内回外試験:検査方法の詳細
線引き試験:検査方法の詳細
スチュアート・ホームズ反跳現象の詳細

注釈

1)「5 cm 未満」と「5 cm より大きい」の組み合わせだと,5 cm ちょうどはどちらにも含まれなくなり,明らかに不適切です。
原著がそうなっているようなのですが,原著は入手できていません。

参考文献

1)田崎義昭, 斎藤佳雄: ベッドサイドの神経の診かた改訂17版. 南山堂, 2014, pp143-158.
2)森岡周: 運動失調, 標準理学療法学 専門分野 神経理学療法学. 吉尾雅春, 森岡周(編), 医学書院, 2015, pp110-123.
3)岩田誠: 神経症候学を学ぶ人のために. 医学書院, 2004, pp195-205.
4)内山靖: 協調運動障害, 理学療法ハンドブック改訂第4版第1巻. 細田多穂, 柳澤健(編), 協同医書出版社, 2010, pp605-635.
5)鈴木則宏(編): 神経診療クローズアップ. メジカルビュー社, 2011, pp162-171.
6)鈴木俊明(監修): 臨床理学療法評価法-臨床で即役に立つ理学療法評価法のすべて. エンタプライズ, 2005, pp252-263.

2021年3月24日

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