はじめに
指鼻試験のやり方について理学療法士の視点で詳しく解説します。
鼻指鼻試験との違いや,関連する検査についても書いています。
指鼻試験とは
示指で自身の鼻の頭をふれてもらい,上肢の動きを観察します。
測定異常や振戦があれば,協調運動障害(失調症)があることが分かります。
眼を突いてしまわないよう,必要に応じて検者の手を添えます。
鼻指鼻試験との違いと関係
指鼻試験と鼻指鼻試験は同じものとして扱われることもあるようですが,ここでは異なる検査だと定義します。
鼻指鼻試験は検者の指と自分の鼻を交互に触って反復しますが,指鼻試験は鼻を 1 回触るだけです。
指鼻試験は,単純な運動ですので,鼻指鼻試験よりは簡単な運動課題です。
指鼻試験で異常が出なくても,鼻指鼻試験では異常が出るかもしれません。
指鼻試験は測定異常や振戦をみる検査であり,その点は鼻指鼻試験と同じです。
しかし,閉眼でも行うことができるところが鼻指鼻試験と大きく異なるところです(後述)。
検査方法の詳細
観察するポイント
示指の先端が鼻の頭にスムーズに到達するかを観察します。
小脳性の運動失調では,鼻の頭を通り過ぎ,戻ってまた通り過ぎるという測定過大がでたりします。
理学療法士であれば,指先の軌跡だけでなく,肩関節や肘関節などの関節ごとの動きの観察も重要です。
上肢の開始肢位
開始肢位にはいくつかあり,統一されていないようです。
まず一つは,特に指定せず,体側に下垂したところ,あるいは膝の上から始める方法です。
指定しない分,説明は簡単で,すぐに行うことができます。
もう一つは,肩関節外転位,肘関節伸展位とする方法です。
肩関節の外転角度は,文献によって 90° となっていたり,軽度となっていたりします。
外転角度の意味について書いている文献は見当たりません。
肩関節外転位から始めた場合,少し水平内転も加えて,外転の角度を調整するば,肩関節を動かさずに肘関節の屈曲だけで,鼻を触ることができます。
肩関節の運動の有無で比べることができます。
座位で肩関節外転 90° とし,さらに肩関節外旋位で肘関節のみを屈曲するようにすると,前半は重力に抗する運動で,後半は重力に従う運動になります。
重力による加速を制御する運動は難しくなります。
また,主動作筋が肘関節屈筋から伸筋に切り替わることも動作を難しくします。
肩関節屈曲位(前方挙上位)から始めることもできますが,座位で行う場合で,開始肢位を肩関節屈曲位としている文献は,私が見た範囲ではありません。
「いろいろな位置から」としている文献1)はあります。
姿勢
座位で行うのが一般的です。
背もたれなしの座位にすると,体幹が不安定となり,難易度が上がります。
転倒を防ぐため,最初は背もたれありにするのが無難です。
背臥位でも行えますし,立位でも行えます。
背臥位で肩関節屈曲位から始めると,座位と比べて,重力に従う動きが多くなり,重力による加速を制御しなければならないため,難易度が上がります。
測定過大は,重力に従う方向の動きで強く出現します。
ですので,重力の影響が少ない方向の動きに変えると,測定過大は出にくくなるのですが,極端に出なくなることがあります。
その場合は,協調運動障害ではなく,筋緊張低下が主な障害である可能性があります3)。
開閉眼
指鼻試験は閉眼で行うことができます。
開眼よりも閉眼で測定障害などの協調運動障害の症状が強くなるのであれば,深部感覚障害で視覚代償を行なっていることが分かります。
左右同時
検者の合図で左右同時に行わせると患側が遅れることがあります。
時間測定障害で動作の開始が遅れるからです。
開始肢位に戻る動き
鼻を触る動きと元に戻る動きを比較することもできます。
鼻を触る動きは主に求心性収縮で目標が小さい動きで,元に戻る動きは主に遠心性収縮で目標の大きい動きです。
それらを比較することができます。
指耳試験(示指耳朶試験)
鼻の代わりに耳朶(みみたぶ)を触ってもらう検査です。
耳を触るときには指先は見えなくなりますので,鼻を触るよりも難しくなります。
また,指があたったときに,鼻は止まりますが,耳朶は止まりません。
制御する要素が増えるため,指鼻試験よりも難しくなります。
指指試験7)
左右の示指先端を眼前で近づけてもらう検査です。
指先を合わせるのではなく,約 1 cm 開けたところで止めてもらいます。
目を突くリスクを減らすことができます。
おわりに
判定の仕方や理学療法士ならではの考え方は,鼻指鼻試験についての記事で書いています。
その他の協調運動障害の検査については以下の記事でまとめています。
参考文献
1)田崎義昭, 斎藤佳雄: ベッドサイドの神経の診かた(改訂18版). 南山堂, 2020, pp141-156.
2)森岡周: 運動失調, 標準理学療法学 専門分野 神経理学療法学. 吉尾雅春, 森岡周(編), 医学書院, 2015, pp110-123.
3)岩田誠: 神経症候学を学ぶ人のために. 医学書院, 2004, pp195-205.
4)内山靖: 協調運動障害, 理学療法ハンドブック改訂第4版第1巻. 細田多穂, 柳澤健(編), 協同医書出版社, 2010, pp605-635.
5)鈴木則宏(編): 神経診療クローズアップ. メジカルビュー社, 2011, pp162-171.
6)鈴木俊明(監修): 臨床理学療法評価法-臨床で即役に立つ理学療法評価法のすべて. エンタプライズ, 2005, pp252-263.
7)小嶺幸弘: 神経診察ビジュアルテキスト. 医学書院, 2005, pp168-180.
8)平山惠造: 神経症候学. 文光堂, 1976, pp674-675.
2021 年 3 月 25 日
2022 年 11 月 13 日
2024 年 2 月 17 日
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