安静時筋緊張の評価方法:伸展性,被動性など基本的な方法をまとめました

はじめに

安静時筋緊張の評価についてまとめてみました。
理学療法において筋緊張の評価はかなり重要なものですが,教科書では意外にも詳しく書かれていないことがあります。
できるだけ詳しく書いています。

概要

安静時の筋緊張を評価するには,アライメント,形態,硬度,伸展性,被動性,腱反射をみます。

どの検査も,健常者との比較と左右差で異常を見つけることができます。
健常者よりも硬いとか柔らかいといったことを判定するのですが,そのためには健常者の硬さを知っている必要があります。
学生さんには健常者での練習をたくさんしておくことをお勧めします。

アライメントの観察

拮抗筋間で相対的に緊張が高い側に体節が偏倚します。
例えば,肘の屈筋の筋緊張が肘の伸筋よりも高ければ,前腕は屈筋の方に偏り,肘は屈曲位となります。
「相対的に高い」ということは,上の例でいうと,屈筋の筋緊張が亢進して伸筋の筋緊張は正常である場合,屈筋の筋緊張が正常で伸筋の筋緊張は低下している場合,屈筋の筋緊張が亢進して伸筋の筋緊張も低下している場合を含んでいるということです。

形態(視診)

教科書1)にあわせて形態という言葉を使っていますが,日本語としては形状の方が適切かもしれません。

筋や腱の形を視診にて観察します。
触診でみることもできます。

筋緊張亢進の場合

筋緊張が亢進していれば,その筋ならびに腱の形が明瞭となり,皮下に盛り上がって見えます。

筋緊張が正常でも,皮下脂肪が少なければ腱が浮き上がっているように見えます。
触診を行い、腱が張っていれば筋緊張亢進ですし,そうでなければ痩せていて腱が浮き上がっているだけです。

筋緊張低下の場合

筋緊張が低下していれば,筋の形は平坦となったり,垂れ下がったようになります。

筋萎縮と筋緊張低下を間違わないようにしましょう。
筋緊張低下によって筋が平坦になっていると,その筋の体積が減少しているように見えますので,筋萎縮があると勘違いすることがあります。
逆に,筋萎縮で厚みがなくなった筋を見て,筋緊張が低下して平らになっていると勘違いすることもあります。
筋を触ったり,垂れ下がった筋を持ち上げてみたりして,筋の体積を確認します。
筋緊張の低下と筋萎縮は全く別物ですから,間違えないようにする必要があります。

硬度(触診)

筋腹を圧迫したり,つまんだり,つまんで動かしたりすることで筋の硬さをみます。
腱を触ることもありますが,この場合,腱そのものの硬さをみるのではなく、筋の硬さを間接的にみることになります。
筋緊張が高ければ筋腹は硬くなり,筋緊張が低ければ筋腹は柔らかくなります。

触り方によって筋緊張が変化することがあります。
触ることで痛みや不快感が生じないようにします。
接触面積を広くすれば,痛みや不快感は生じにくくなります。
つまむ時には,できるだけ指先ではなく手掌全体でつまむようにします。

皮膚や皮下組織も一緒に触っているため,それらの硬さも考慮する必要があります。

一つの筋のなかでも部位によって筋緊張が異なる可能性があります。
筋腹の中央だけでなく,様々な部位を確認する必要があります。

伸展性

他動運動で正常可動域を超える状態を伸展性亢進といいます。

伸展性亢進は筋緊張の低下によって起こります。
伸展性低下という状態はありません。
筋緊張の亢進により正常可動域に満たない状態は被動性低下といいます(被動性は次でまとめています)。
伸展性は筋緊張の低下をみる方法であり,筋緊張の亢進をみることはできないということです。

正常可動域を超えて動くということは,なんらかの組織が伸ばされすぎて損傷するということがありえます。
伸展性の検査は慎重に行う必要があります。

最終域まで(止まるところまで)動かす必要は必ずしもありません。
正常可動域を超えるかどうかを見る検査です。
正常可動域を超えたことが確認できれば,そこで止める方が安全です。

もちろんゆっくり動かす方が安全です。

できるだけ1回の運動でみるようにし,不用意に反復しないようにしましょう。
なぜか人は無意識に反復してしまいます。
最終域で跳ね返るのを 2 〜 3 回確かめてしまうということがよくありますが,絶対にしてはいけません。

伸展性が亢進していると運動軸が定まらなくなり(次の段落を参照),本来は動かない方向に動くこともあります。
正常な運動軸を知っておく必要があります。
左右差を見つけるためには,左右同時に動かすと分かりやすいのですが,関節の保護は難しくなります。
片方ずつ動かすのが基本です。

骨性に制限される関節でも伸展性は亢進します。
例えば肘関節の伸展は肘頭が肘頭窩に当たるところで止まりますが,それが起こるためには運動軸が固定されている必要があります。
運動軸を固定しているのは靭帯や関節包です。
筋は靭帯や関節包ともつながっており,筋緊張が低下すれば靭帯や関節包も弛緩します。
その結果,運動軸が固定されず,正常なアライメントを維持できず,伸展性が亢進することになります。

さて,この骨性に制限される関節での伸展性亢進について,私は誰かに以上のように習ったのですが,同じことを書いている文献は見つけられていません。

被動性

他動運動で筋を伸ばした時の抵抗感をみます。

筋緊張亢進の場合

他動運動での抵抗感が健常人と比べて強くなります。
動かされにくくなるので,被動性低下と表現します。

筋緊張低下の場合

他動運動での抵抗感が健常人と比べて弱くなります。
あるいは抵抗感がほとんど無いと感じます。
抵抗感がないと感じますが,物理学的には抵抗がゼロになることはありません。
また,抵抗感がなくなっても,筋緊張はなくなりません。
動かされやすくなるので,被動性亢進と表現します。

筋緊張が低下していると,筋緊張が正常な時と比べて,動かしている四肢が重たくなったように感じることがあります。
正常では,他動運動でも筋収縮が生じており,四肢の重さを検者が全て支えているわけではありません。
筋緊張の低下があると,他動運動に対する筋収縮がタイミングよく起こらなくなり,その分だけ検者が四肢の重さを支えることになり,重たくなったように感じます。

痙縮と固縮の鑑別

他動運動の速さを変えて,痙縮と固縮を鑑別します。
固縮では,ゆっくり動かしても抵抗感があり,鉛管様現象や歯車様現象があります。
痙縮では,ゆっくり動かしたときには抵抗感が少なく,速く動かしたときには抵抗感が強くなり,ジャックナイフ現象が生じたりします。

被動性を見るときの注意点

他動運動で感じる抵抗感は,筋緊張によるものだけではなく,皮膚などの抵抗も含まれます。

他動運動は速すぎない方がいいです。
痙縮のある筋を伸ばそうとすると強い抵抗が生じます。
その強い抵抗と速く動かそうとする力がぶつかり合ったときに強い衝撃がどこかに加わります。
それが痛みを生じる場合があります。
そんなに速くなくても,痙縮の抵抗感は生じます。

全可動範囲での他動運動が原則で,検査する筋を充分に伸ばすことが大切です。
可動範囲の一部のみで筋緊張が変化している場合があるからです。

他動運動のやり方によって筋緊張が変化することがあり,本来の安静時筋緊張ではなくなってしまうことがあります。
痛みや不快感がないようにします。
保持する面積が小さいと筋緊張は高くなる傾向があります。
保持する面積が変わっていくのもよくありません。
例えば,肘関節を伸展していく時に,保持しているところが検者から遠くなっていくと,検者が保持している指を伸ばしていってしまうことがあります。
接触面積が小さくなってしまい,筋緊張は高くなります(このことは位置覚の検査についての記事でも書いています)。

検査する関節以外の関節が動いてしまわないようにします。
例えば,肘関節の伸展で手関節が固定されていないと,筋緊張は上がりやすくなります。
また,肘には生理的外反がありますから,肘が伸展位になったときに手は体から離れているはずです。
伸展位になったときに手が体についていたら,それは肩関節内旋も同時にしていたことになります(開始肢位によりますが)。

ある関節を動かしたときに,どの筋が伸ばされているのかが分かっていなければなりません。
あたりまえのことですが,多くの学生は解剖学の知識が不十分なために,どの筋を伸ばしているのかを充分に意識できていません。
どの筋であるのかを明確に意識していないということは,二関節筋や中和筋のことも意識していないということであり,筋を充分に伸ばせていない可能性が高くなります。

振子性,懸振性

被動性をみる方法の一つです。
Pendulousness の検査ともいいます。

他動的に四肢や体幹を“ブラブラ”と揺らします。
筋緊張が低下していれば大きく揺れ,亢進していればあまり揺れません。

不用意に激しく揺らすと関節組織を損傷することがあります。
また,被検者によっては乱暴に扱われていると感じることもあります。
私はこの検査を積極的に行いません。
動作観察や運動療法を行っているときに自然に起こっているのを観察するようにしています。

腱反射

痙縮を見ることができます。
他の検査と違って,筋緊張の非神経要素の影響を受けにくい可能性があります。
例えば,被動性の検査で感じる抵抗感は,特に可動域の最終域では,筋そのものの物理的な硬さである可能性が高いのですが,腱反射の亢進は筋そのものの硬さによるものではなく,中枢神経系の異常によるものである可能性が高いということです。

おわりに

筋緊張については様々な考え方があり,コンセンサスが得られているとは言えない状況です。

この記事では,昔からある基本的な方法を中心にまとめました。

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参考文献

1)平山惠造: 神経症候学. 文光堂, 1979, pp447-465.
2)鈴木俊明, 谷万喜子, 他: 筋緊張検査における検査のポイント. 関西理学. 2012; 12: 1-6.
3)斉藤秀之, 加藤浩(編): 臨床思考を踏まえる理学療法プラクティス 筋緊張に挑む 筋緊張を深く理解し,治療技術をアップする!. 文光堂, 2015.

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