筋緊張低下と筋力低下の違い

筋緊張低下と筋力低下の違いについて解説します。

それぞれの定義

筋力低下は筋収縮によって発生する最大張力が小さい状態です。

筋緊張低下は骨格筋が活動する準備状態1,2)ができていないため,適切なタイミングで十分な張力が発揮できない状態です。

「筋緊張は骨格筋が活動するための準備状態である」という考え方について補足します。
筋が収縮するにはある程度の時間が必要です。
全く収縮していない状態から収縮を始めてしまうと,必要な張力を得るのに時間がかかり,張力を必要とするタイミングに間に合わないということがありえます。
そこで,より早い段階で筋収縮を始めたり,常にある程度の筋収縮を維持していれば,より短時間で必要な張力を得ることができます。
つまり,準備しているということであり,その準備として生じている張力が筋緊張です。

筋緊張低下と筋力低下の違い

例をあげて説明します。

座位で身体を横に傾けていき,あるところで止めてその姿勢を保持する場合で考えてみましょう。

その姿勢を保持するための体幹の筋群の筋力が低下しているのであれば,その姿勢を保持できないか,保持できてもすぐに崩れてしまうということになります。
反復することでその場で改善することはなく,疲労によって徐々にできなくなっていきます。

筋力低下ではなく筋緊張低下であればどうなるでしょう。
収縮が遅れるだけですので,止めようとするときに一瞬崩れますが,もちなおして保持できるかもしれません。
筋緊張は治療によりその場ですぐにあがることがあります。
筋緊張をあげれば,同じことをしても姿勢は崩れなくなります。
何回も繰り返すことで,筋緊張があがっていき,姿勢の崩れがなくなるということもあります。

実際には,筋緊張低下と筋力低下が同時に存在することが多いため,このような違いをはっきりと観察できないことも多いと思います。

図 1 に筋緊張低下と筋力低下の違いについての抽象概念上のイメージを示します。

筋緊張低下と筋力低下の違い
図 1: 筋緊張低下と筋力低下の違い

定義の統一について

さて,ここまで述べてきた筋緊張低下と筋力低下の違いは,「筋緊張は骨格筋が活動するための準備状態である」という定義から導かれるものです。
筋緊張の定義は統一されておらず,例えば,姿勢を保持する筋活動を筋緊張と定義3)すると,筋緊張低下と筋力低下は区別できなくなるかもしれません。
また,「筋緊張低下によって筋力低下が生じている4)」ということもあり,話は簡単ではありません。

そして,よく考えてみると,筋力や筋力低下の定義もあやふやで,わりといい加減に使われています。

必要な張力を得られない状態は全て筋力低下を呼べる可能性がありますが,張力が得られない原因によって筋力低下と呼ぶかどうかが変わります。
しかし,そこが統一されていません。
例えば,拮抗筋の筋緊張亢進によって主動筋の筋収縮が抑制されている状態を筋力低下と呼ぶかどうかは統一されていません。

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おわりに

今回の記事は,授業などで習ったことを中心にまとめています。
文献等には同じことは書かれていません。
前述の通り,定義が統一されていませんので,筋緊張低下という言葉を使うときには注意が必要です。

科学的であることを目指すのであれば,用語の定義の統一はとても大事なことです。
これからも筋力や筋緊張には注目していきたいと思っています。

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参考文献

1)鴨下博: 痙縮の新しい理解. 臨床リハ. 2002; 11: 893-899.
2)増田知子: 姿勢と筋緊張, 臨床思考を踏まえる理学療法プラクティス 筋緊張に挑む 筋緊張を深く理解し,治療技術をアップする!. 斉藤秀之, 加藤浩(編), 文光堂, 2015, pp48-50.
3)星昌博, 丸岡知昭: セルフケアにおける筋緊張の診かた, 臨床思考を踏まえる理学療法プラクティス 筋緊張に挑む 筋緊張を深く理解し,治療技術をアップする!. 斉藤秀之, 加藤浩(編), 文光堂, 2015, pp62-71.
4)鈴木俊明: 運動・生理学からみた筋緊張, 臨床思考を踏まえる理学療法プラクティス 筋緊張に挑む 筋緊張を深く理解し,治療技術をアップする!. 斉藤秀之, 加藤浩(編), 文光堂, 2015, pp6-15.

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