はじめに
位置覚検査の方法,判定,記録(表記)について,できるだけ詳しく書いてみます。
位置覚(位置感覚)とは,四肢の相対的位置関係を感知する感覚です。
検査としては,関節の角度を答えてもらう検査になります。
検査したい関節を他動である角度にし,その角度が閉眼でも分かるかどうかをみます。
受動運動覚は,四肢が動かされた方向の感覚であり,位置覚とは異なるものです。
位置覚検査の基本的な流れ
検査肢位,準備
検査する関節にあわせて,できるだけ筋収縮の生じにくい肢位とします。
重力に抗して動く方向だと,どうしても筋収縮が生じやすくなります。
徒手筋力検査の段階 2 の検査肢位を参考にしてもいいでしょう。
左右対称の肢位とします。
例えば背臥位で検査をする時に体幹が側屈していると,四肢の位置覚が変化することがあります。
ただし,逆に言うと,位置覚が正確になる肢位は人によって異なるかもしれないということであり,位置覚が正確になる肢位を探すという検査もあり得ます。
検査部位は露出するのが基本です。
服で圧迫していると,位置覚が分かりやすくなることがあります(失調症の弾性緊縛帯の理屈です)。
ありがちなミスは,袖を無理にまくって締め付けてしまうことです。
説明と練習は患側で被検者に見てもらいながら行います。
健側での練習はできないことが多いと思います。
検査手技
検査は閉眼で行います。
検査する関節を他動でゆっくりランダムに動かした後に,検査する角度に固定します。
例えば,肘関節であれば,伸展位から始めて 90° → 70° → 130° → 110° → 120° → 40° などのように不規則に動かします。
いつも同じ肢位から動かし始めて検査する角度にしてしまうと,開始肢位からどれくらい動いたかとか,どっちに動いたかという情報が入り,位置覚が分かりやすくなってしまい,検査結果がバラついてしまう可能性があります。
ちなみに,学生さんは「ぶらぶらしてから止める」と勘違いすることがあります。ぶらぶらする範囲はいつも同じでランダムになっていません。
ランダムに動かすときの方向転換はゆっくり行います。
カクカクした動きにならないよう,ゆっくり減速して止めてから動かす方向を変えます。
どの角度におくかは決まっていませんが,関節可動域の初期,中期,終期を混ぜて検査するのが普通です。
答え方
検査する角度に固定したら,被検者にその角度を答えてもらいます。
答えかたには以下の 3 つがあります。
- 反対側の関節を同じ角度にしてもらう(模倣試験)。
- 口頭でその角度を答えてもらう。関節可動域測定のような角度を答えることはできないので,鈍角,直角,鋭角に相当する言葉で答えてもらう。
- 開始肢位に戻し,同側の関節を再び同じ角度まで動かしてもらう(再現試験)。
模倣試験を行うことが多いようです。
模倣試験は,固定した側の位置覚の検査であり,答えるために動かした側の検査でありません。
学生さんはよく間違えます。
模倣試験は検査する関節の反対側の関節が正常でないと行うことができません。
しかし,その反対側が正常であることを確認することは,時に困難です。
脳卒中片麻痺を想定すると分かりやすいでしょう。
非麻痺側の検査で模倣試験を行おうとしても,反対側の関節には運動麻痺や位置覚の障害があって正確に動かすことはできません。
口頭で答えてもらうことはできますが,位置覚の障害が軽度であれば鈍角か鋭角かくらいは答えることができ,その障害を検出することができません。
再現試験もできますが,模倣試験と比べると健常者でも誤差が大きいような印象があります(ちゃんとした研究があるのかどうかは分かりません)。
位置覚検査をより正確に行うための注意点
位置覚の受容器には,関節そのものに由来するもの,関節周囲の皮膚に由来するもの,関節周囲の筋に由来するものの 3 つがあります。
検査全体を通して,関節周囲の皮膚と筋に由来する受容器からの感覚が少なくなるようにし,関節そのものに由来する受容器からの感覚を検査するようにします。
筋緊張を下げる
できるだけ筋収縮のない(筋緊張が低い)状態で検査します。
関節周囲の筋の受容器からの感覚を減らすためです。
筋緊張が高くなると位置覚は分かりやすくなることが多く,検査結果がバラついてしまいます。
被検者には「できるだけ力を入れないように」と指示します。
上下肢の持ち方と動かし方が重要です。
上下肢を持つときに接触面積が小さくなればなるほど,筋緊張は上がりやすい傾向があります。
運動に伴って接触面積が変化しないようにしなければなりません。
検者の手と被検者の上下肢の角度が変わらないようにするとも言えます。
例えば肘関節の検査で考えてみましょう。
被検者はベッドで背臥位,検者は肘関節の横で立っているとします。
被検者の右肘を屈曲 90° として手関節のあたりを検者の右手で保持します。
そこから肘を伸展していくと,右手はだんだん遠くなります。
同じ持ち方はできなくなり,手掌のあたりで持っていたのが,指先で持つようになったりします。
支えが少なくなったと感じて筋緊張が上がる可能性があります。
検者が適度に重心を移動することで,持ち方を一定にすることができます。
これは,位置覚検査に限らず,他動運動全般で使う基本的な運動療法の技術ですので,しっかり練習することをお勧めします。
側面を持つ
上下肢の持ち方と重力との関係は関節角度を知る手がかりとなります。
できるだけ,動かす方向の側面から持つようにします。
座位で下腿を垂らしている姿勢で,膝を動かす場合を例にあげます。
下腿の後面に手をあてて膝を伸展すると,下から押されて持ち上げられるという感覚が入り,関節の角度が分かりやすくなることがあります。
ただし,受動運動覚の検査に比べれば,感覚が分かりやすくなる程度は少ないと思います。
また,側面のみを保持しようとすると,接触面積が小さくなり,筋緊張が高くなりがちです。
単関節での検査
検査する関節だけを動かし,他の関節は固定するようにします。
つまり,単関節での検査が基本です。
関係する要素が増えれば,結果がバラつきやすくなります。
肘関節であれば,手関節の固定を忘れがちです。
手関節が不安定であれば,筋緊張が高くなってしまいます。
また,座位で肘関節を下から保持し肩関節屈曲位を保持した状態で肘を伸展する場合,肘を伸展すると同時に,肘を持ち上げて肩関節を屈曲してしまいがちです。
しかし,理学療法士が行う位置覚の検査では,あえて複数の関節を同時に動かす検査をする場合があります。
実際の生活での動作は複数の関節が同時に動くものであり,実際の動作で位置覚がうまく使えているのかをみるためです。
判定と記録(表記)
5 回あるいは 10 回中の正答率で判定し,関節毎に運動方向と正答率を記録します。
10 回中 10 回正答であれば 10/10,8 回正答であれば 8/10 というように書くことが多いと思います。
5 回あるいは 10 回を選ぶ基準は明確なものはなさそうです。
確率・統計の考え方で説明できるかもしれません(受動運動覚の記事に関連したことを書いています)。
検査肢位も記録すれば,より詳細な記録となります。
正答の基準として,5° 以内の誤差であれば正答とすることが多いのですが,明確な根拠がある基準ではなさそうです。
何度の誤差で正答と判定したかを記録する方がいいと思います。
位置覚は近位部の方が敏感です。
例えば,指の指節間関節では 5 ~ 15° の運動を識別するのに対し,肩関節は 1° 以下の他動運動を識別でき,2° 以内の誤差で与えられた角度を再現できます5)。
どの関節も 5° で判定するというのはよくないのかもしれません。
重症度を正答率で判定することがあります。
10 / 10 なら正常,9 / 10 〜 7 / 10 は軽度鈍麻,6 / 10 〜 4 / 10 は中等度鈍麻,3 / 10 〜 1 / 10は重度鈍麻,0 / 10は消失とするのが自然だと思いますが,これも確立した方法ではありません。
誤差の大きさで重症度を判定する場合もあります。
誤差が 0 ~ 10° は正常, 10 ~ 30° は鈍麻, 30° 以上は重度鈍麻または脱失とします。
ただし,識別できる角度は関節によって異なります(前述)。
角度としては正答でも筋の同時収縮が生じていれば軽度鈍麻とすることもあります。
筋を収縮させることで,正答率があがるかどうかを見る場合があります。
筋収縮によって感覚が鋭敏になるのであれば,それを治療に応用することができます。
正答率だけでなく,同時に得られる様々な反応を見落とさないことが大切です。
消失と重度鈍麻の鑑別,正常と軽度鈍麻の鑑別は難しいことが多いでしょう。
神経学的な異常がない人でも位置覚の異常が検出されることがあります。
詳しく調べていくと重要な知見が得られるのかもしれません。
おわりに
位置覚の検査について私が知っていることはほぼ全て書きました。
感覚の評価について教科書にはあまり詳しく書いていないことが多く,今回書いたことが標準的な方法だと言い切る自信はありません。
検査の目的は別の記事にまとめています。
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スポンサーリンク参考文献
1)田崎義昭, 斎藤佳雄: ベッドサイドの神経の診かた(改訂18版). 南山堂, 2020, pp97-98.
2)田中亮: 感覚検査, 15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 理学療法評価学I. 石川朗(編), 中山書店, 2013, pp115-124.
3)北川泰久, 大木教久: 体性感覚の評価. 総合リハ. 2001; 29: 631-635.
4)鈴木俊明(監修): 臨床理学療法評価法-臨床で即役に立つ理学療法評価法のすべて. エンタプライズ, 2005, pp219.
5)中田眞由美(編著): 新 知覚をみる・いかす – 手の動きの滑らかさと巧みさを取り戻すために. 協同医書出版社, 2019, pp221-225.
6)吉尾雅春: 中枢神経疾患・障害に対する評価の進め方(総論)-脳血管障害を例として, 理学療法ハンドブック(改訂第4版)第1巻. 細田多穂, 柳澤健(編),協同医書出版社, 2010, pp826.
2022 年 2 月 1 日
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