振動覚の検査 – 検査器具,検査方法,判定基準など

はじめに

振動覚の検査器具,検査方法,判定基準などについて詳しく解説します。

振動覚とは

振動覚とは,振動を感じる感覚で,深部感覚の一つです。
しかし,平山1)は「かつて振動覚は骨を介する深部感覚の一種と理解された。しかし今日では皮膚が重視されている。振動覚の受容体とされているPacini小体は皮膚深層にあり,関節囊や腱鞘にあることも知られている」と述べています。
はっきりしないのですが,振動覚は表在感覚でもあるのかもしれません。

検査器具

検査用の音叉を用います。

一般に 128 Hz,ときに 256 Hz のものを用います2)
なぜこの周波数なのかは分かりませんが,Pacini 小体が 60 〜 300 Hzの振動に反応する13)ことと関係があるかもしれません。

楽器のチューニング用の安価な音叉は,440 Hz であること多いですし,十分な振動刺激にならないため,検査には適していません。

ライデルセイファー音叉(Rydel Seiffer tuning fork)という音叉には,振動の強さが分かる仕組みがついています2)
動画があります。

検査方法

音叉を振動させる

柄を持ちます。
U 字型のところを持つとほとんど振動しません(振動を止めるときには U 字型のところを押さえます)。
U 字型になったところで何かを叩くと振動します。
硬いものを叩いてしまうと叩いたものか音叉が傷つきますので,自分の膝などを叩くといいでしょう。
叩くときは U 字の片方だけで叩きます。
腱反射で使う打腱器で叩いてもかまいません。
U 字部の両方の先端を近づけるように手でつまみ,はじくように離すことでも振動させることができます。

叩き方が弱すぎると,すぐに振動が終わってしまい,検査ができません。

できるだけ同じ強さで叩き,検査刺激を一定に保ちます。

音叉を検査部位にあてる

柄の先端をあてます。

あてる強さを説明している文献はみつけられていません。

検査用の音叉の柄の先端は平らな面になっており,検査する部位は様々な曲面です。
音叉をあてる向きによって,音叉の先端が触れる面積が変わり,振動の感じ方が変わる可能性がありますが,この点について書いている文献をみつけられていません。

振動覚検査に適した部位は,皮膚の直下に骨があるところ(皮下にすぐ骨を触れるところ)です。
骨突出部という言い方もよくしますが,言葉通り突出している必要はありません。

頭蓋では音として聞こえてしまい,振動が分かりづらいので,検査はできません。

検者の手などが,被検者にあたらないようしましょう。
振動に集中できなくなります。

U字部が何かにあたらないようにします。
振動が止まってしまいます。

説明と練習

まず,振動がどういうものかを分かってもらいます。

練習は胸骨で行うことが多ようです。
胸骨の振動覚は保たれていることが多いからです。

振動を感じてもらい,振動がだんだん弱くなって,最後に感じなくなってしまうことを分かってもらいます。
振動を感じなくなったら合図をしてもらいよう指示し,閉眼で音叉をあてて練習をします。
合図は「はい」と答えてもらうことが多いでしょう。

振動を感じる程度を調べる

振動を感じなければ振動覚は消失です。
振動を感じるのであれば減弱の有無やその程度を調べます。
調べ方にはバリエーションがあります。

(1)振動を感じなくなったら合図をしてもらい,すぐに音叉を反対側の同じ部位にあてます。
それで振動が感じられるなら,最初にあてた側は減弱していることが分かります2)
反対側も障害されているようなら,対照部位として胸骨を利用します。

(2)手指・足趾では爪に音叉をあて,掌側に検者の手指をあてます。
検者の手指に伝わってくる振動と被検者の答えを比較します。
検者が振動を感じているのに被検者が振動を感じていなければ減弱していると判断します2)

(3)振動を感じなくなったら合図をしてもらい,直ちに検者の同じ部位に音叉をあてます。
被検者が振動を感じなくなるまでの時間と検者が振動を感じなくなるまでの時間を調べる。
そして,[被験者が感じた秒数 / 被験者が感じた秒数+検者の感じた秒数]を記録します4)

(4)たんに振動を感じなくなるまでの時間を測定します。
測定を始めるタイミングについて書いていないことが多いのですが,音叉を検査部位に当てたときではなく,音叉を振動させたときであるとしている文献5)があります。
この方法では,何秒であれば異常なのかを決める必要があります。
糖尿病性多発神経障害の簡易診断基準6)では,内果で 10 秒以下であれば振動覚低下としています。
振動を感じなくなるまでの時間は音叉の違い,高く強さ,部位によって異なることを考慮して判定しますが,標準値はなさそうです。

(5)健常部に音叉をあてて振動を感じてもらい,その強さを 10 点とします。
次に,検査部位にあてて,先に当てた部位での強さと比べてもらい,10 点満点中の何点であるかを答えてもらいます7)
対照部位としては,左右対称の部位か,胸骨を使うといいでしょう。

(6)ライデルセイファー音叉を用いると,振動の強さが 0 から 8 までの 9 段階で表示されるので,どの強さまで分かるかを測定できます8)

どれがスタンダードなのかは分かりません。

平山7)は,振動を感じなくなるまでの時間を測定する方法は推奨できないとし,その理由を以下のように述べています。
振動を感じなくなった時点を答えるのは患者にとって意外に難しい(適当に答えるが正しくないことがある)。
各検査部位での答え(秒数)を比較すると,患者が実際に感じている振動覚の強弱と食い違うことがある。
減衰が速く,良くない音叉を使用すると,振動消失時の指摘が一層不確実になり,食い違いが多くなる。
減衰が遅い,良い音叉を使用すると,全体の検査時間が長くかかり,実用的でない。

検査方法を理解しているかどうかを適宜確かめる

振動を途中で止めてすぐに反応するかをみます。

返答するまでの時間が長すぎる場合は,振動覚がどのようなものかを理解していなくて消失したことに気付いていない可能性があります。

検査部位と髄節レベル

振動覚の検査部位と髄節レベルの関係については,教科書等には書いていないことが多いと思います。
ここでは,神経症候学(第2版)7)の図にあるものをまとめています。
その文献では,人体図に印があり,髄節レベルと部位名が書いてあるだけです。
詳しい説明はありません。
また,どのように選んだのかを明記していません。
「骨格よりは,その上の皮膚分節 dermatome が重視されるので」として,骨での脊髄分節図を改訂にあたって削除していますので,皮膚分節で選んでいるのかもしれません。
しかし,皮膚分節とは一致しないところがあり,神経症候学の旧版9)にある骨の分節とも一致していないところがあります。

以下に原本7)にある髄節レベルと部位名を列挙します。
そして,皮膚分節10,11)や骨の分節9)との比較など,注意点や疑問点を加えています。

C 4:鎖骨

図では鎖骨のほぼ中央に印があります。
皮膚分節では,鎖骨上に C 3 と C 4 の境界があり,外側が C 4 です。
骨の分節では,鎖骨の頭側が C 4,尾側が C 5 になっています。
音叉は鎖骨の頭側にあてるのがよさそうです。
また,皮膚分節で肩鎖関節は C 4 になっているのですが,骨の分節で肩峰の肩鎖関節側は C 5 ですので,外側端は避けたほうがよさそうです。

C 6:肩峰

図で肩峰として印があるところは,人体の後方からの図で肩峰角あたりです。
骨の分節で肩峰の前内側は C 5 ですので,音叉は後方からあてるのがよさそうです。
しかし,皮膚分節で肩峰の後方は C 4 です。

C 6:橈骨下端

橈骨下端を示す印は,後面の図にあります。
橈骨下端は,骨の分節で橈側が C 6,尺側が C 7 ですので,音叉はより橈側にあてるのがよさそうです。

C 7:肘頭

骨の分節で,肘頭の後方は C 7 ですが,後外側は C 6,後内側は C 8 ですので,音叉は肘頭の中央にあてるのがよさそうです。
皮膚分節では,肘頭のあたりに,C 5,T 2,T 1 の境界があります。

C 7:示指と中指

示指と中指のどこかについては,図から判断して,中節骨の背側になります。
中指は,皮膚分節でも骨の分節でも C 7 ですが,示指は皮膚分節で C 6,骨の分節で橈側が C 6,尺側が C 7 です。
中指で検査するのがよさそうです。

C 8:尺骨下端

原本の図では背側に印があります。
尺骨の遠位は,骨の分節では C 8 ですが,皮膚分節でみると T 1 と C 8 の境界がある可能性があります。

T 2:胸骨の柄体関節高

柄体関節というのは胸骨柄結合のことでしょう。
そして,図の印は胸骨ではなく肋骨上にあるため,検査部位は第 2 肋骨だと思います。
ちなみに初版9)の検査部位と髄節レベルの関係の図は骨格の図になっており,第 2 肋骨に印がついています。
第 2 肋骨で,骨が皮下に触れやすいのは内側(胸骨側)です。
外側は大胸筋が厚くなりますので。
体幹の骨の分節は載っていません。

T 5:第 5 肋骨

内側の方が軟部組織が少なくて音叉があてやすいでしょう。

T 7:肋骨弓

肋骨弓の中央に印がついています。
皮膚分節では境界線はほぼ水平に走りますが,肋骨弓はその境界線と斜めに交わります。
皮膚分節で考えるなら,肋骨弓のどこであるのかをはっきりさせないと,髄節レベルは大きく変わることになります。

L 2:腸骨棘

原本では腸骨棘とありますが,図から判断して上前腸骨棘のことでしょう。
骨の分節では上前腸骨棘に L 2 と L 3 の境界があります。
皮膚分節の図では,T 12,L 1,L 2 のいずれであるのか,迷うところです。

L 2:腸骨稜

腸骨稜について,図の印は後面の図にあり,外側(上前腸骨棘のすぐ後ろ)に印があります。
皮膚分節の図では腸骨稜の位置を特定できず,L 1 か L 2 になりそうです。
骨の分節で腸骨稜は L 2 になりますが,すぐ近くに L 3 の領域があります。

L 3,L 4:膝関節内側顆

膝関節内側顆という用語はあまり聞いたことがありません。
図には膝の内側に印が上下に 2 つあり,上:大腿骨内側上顆,下:脛骨内側顆と書いてあります。
L 3,L 4 というのは分かりにくい表記ですが,L 3 か L 4 のどちらかということでしょうか?
骨の分節では,前面の図では大腿骨内側上顆と脛骨内側顆は L 3 になっていますが,後面の図では大腿骨内側上顆と脛骨内側顆は L 4 になっています。
皮膚分節では,膝の内側は L 3 です。
初版9)の検査部位と髄節レベルの関係の図では,大腿骨内側上顆と脛骨内側顆に印がついています。
しかし,大腿骨内側上顆には線が引かれていて L 3 となっていますが,脛骨内側顆には線が引かれておらず,髄節レベルが書かれていません。

L 4,L 5:大転子

これもまた分かりにくい表記ですが,大転子は L 4 か L 5 のどちらかということでしょう?
骨の分節では,大転子の後方に L 4 と L 5 の境界があり,外側は L 5 です。
皮膚分節では,大転子上は L 2 あたりになります。
初版9)の検査部位と髄節レベルの関係の図では大転子は L 5 となっています。

L 4,L 5:膝関節外側顆

膝関節外側顆という用語もあまり馴染みがありません。
図には膝の内側に印が上下に2つあり,上:大腿骨外側上顆,下:腓骨頭と書いてあります。
図の上の印は外側上顆のあたりですが,下の印は膝蓋骨の外側についています。
図の膝の内側には,大腿骨内側上顆と頸骨内側顆を示す印があるのですが,外側上顆を示す印は内側上顆を示す印より上になっていますし,腓骨頭を示す印も,脛骨内側顆より高い位置にあります。
おそらく図の印の位置が間違っているのでしょう。
初版9)の検査部位と髄節レベルの関係の図では,大腿骨外側上顆が L 4,腓骨頭が L 5 となっています。

L 5:脛骨内果,母趾

皮膚分節では,内果は L 4 です。
また,骨の分節での内果の髄節レベルは,前面の図では L 4,後面の図では L 5 となっています。
母趾を示す印は線状になっていて,中足骨から基節骨あたりの背側にあります。

S 1:腓骨外果

皮膚分節だと,外果は L 5 と S 1 の境界あたりになります。
骨の分節での外果の髄節レベルは,前面の図では S 1,後面の図では S 2 となっています。

最後に坐骨結節ですが,原本では「S(坐骨結節)」と書かれており,髄節を表す数字がありません。
初版9)の検査部位と髄節レベルの関係の図には坐骨結節は載っていません。
皮膚分節で坐骨結節は S 3 です。
骨の分節では坐骨結節の前面が S 1,坐骨結節の後面は L 4 〜 S 1 になっています。

検査部位と髄節レベルの関係について,いろいろと疑問が残りますが,そもそも髄節レベルは判定しにくいもののようですから,被検者毎に個別に検討するのがよさそうです。

判定と記録

検査方法にバリエーションがあり,それぞれの方法での判定と記録があります。
検査方法で書いていることを理解していただければ,判定と記録の方法は自然と分かると思います。
詳細で明確な判定基準はなさそうです。

振動覚検査は,検査できる部位が限られるため,触覚検査のように障害の分布は調べることはできません。
また,振動は音叉をあてているところとは別のところにも伝わっていきます。
このことも,振動覚の障害の分布を調べることを難しくしています12)

その他の注意点

慣れ現象が起こることがあります9)
音叉の振動が減衰していく間にある時点で振動を感じなくなっても,いったん音叉を検査部位から離してまたそこに当てると,一度感じなくなっていた振動をまた感じるようになるという現象です。
この現象の病的な意義は分かっていないようです。
慣れ現象がある場合に,振動を感じなくなるまでの時間をどう測定するかは決まっていません。

高度の浮腫や肥満があると振動が分かりにくくなるため検査の信頼性は低くなります。

感覚検査全般で共通することですが,検査に集中できる環境で行うのが基本です。

振動覚検査の目的は,別の記事でまとめています。

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参考文献

1)平山惠造: 神経症候学(改訂第2版)II. 文光堂, 2010, pp359.
2)田崎義昭, 斎藤佳雄: ベッドサイドの神経の診かた(改訂17版). 南山堂, 2014, pp100-101.
3)Panosyan FB, Mountain JM, et al.: Rydel-Seiffer fork revisited: Beyond a simple case of black and white. Neurology. 2016; 87: 738-740.
4)松川則之, 小鹿幸生: 感覚系の情報収集. CLINICAL NEUROSCIENCE. 2003; 21: 290-293.
5)星恵美: 写真&イラストでわかる 糖尿病足病変の検査 3 振動覚検査. 糖尿病ケア. 2018; 15: 208-209.
6)糖尿病性神経障害を考える会: 糖尿病性多発神経障害(distal symmetric polyneuropathy)の簡易診断基準. 末梢神経. 2003; 14: 225-227.
7)平山惠造: 神経症候学(改訂第2版)II. 文光堂, 2010, pp398-400.
8)大河原七生, 臼田滋: 脳卒中片麻痺患者における感覚情報の違いが静的バランス,機能障害に及ぼす影響. 理学療法科学. 2015; 30: 345–352.
9)平山惠造: 神経症候学. 文光堂, 1979, pp732-734.
10)田崎義昭, 斎藤佳雄: ベッドサイドの神経の診かた(改訂17版). 南山堂, 2014, pp104-105.
11)https://asia-spinalinjury.org/wp-content/uploads/2016/02/Key_Sensory_Points.pdf(2019年6月26日引用)
12)岩田誠: 神経症候学を学ぶ人のために. 医学書院, 2004, pp269-272.
13)中田眞由美, 岩崎テル子: 知覚をみる・いかす-手の知覚再教育. 協同医書出版社, 2005, pp26-27.

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2019年6月27日

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