神経学的検査

重心動揺範囲と安定域からみたバランス

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重心動揺範囲と安定域の関係によってバランスを表現することについて説明します。

定義などの確認

重心動揺範囲

重心点は支持基底面内の一定範囲を常に揺らいでいます。
その範囲を重心動揺範囲あるいは圧中心動揺範囲と呼びます。
重心点とは,体重心の支持面への投影点のことです。

図1の足の外周に囲まれた面が支持基底面で,中央の線が重心点の軌跡です。

図1

安定域

重心点を支持基底面内で移動できる範囲を安定域と呼びます。
同じ姿勢のままでの重心点の移動です。

例えば,立位で体を傾けると重心点は移動します。
立位を保ったまま,さらに,足底を床につけたままで,重心点を移動できる範囲が安定域です。

図2のグレーの面が安定域です。
図の安定域は,実際に測定したものではなく,イメージを図にしたものです。

図2

重心点が安定域を超えると転倒や姿勢の変換が起こります。

別の呼び方として,圧中心の可動範囲2),有効支持基底面3),安定性限界4)などがあります。
支持基底面のなかで使用できる範囲という言い方もします。

なぜ安定域は支持基底面より小さくなるのか

安定域があるということは,支持基底面全体を使えないということを意味します。
重心点が支持基底面の端の方にくると,その姿勢を保持できないということです。

これは人体が剛体ではないからです。
剛体とは変形しない物体です。
例えば,外反母趾があると,母趾の底屈筋群が効率よく働くことができません。
母趾の底屈筋群が弱いと,母趾の下に重心点がきたときに,支持基底面が変形してしまい,立位を保持できなくなります。

重心動揺範囲と安定域の関係

重心動揺範囲と安定域の関係によって,バランスの特徴を表現することができます。

重心点が安定域の外に出る可能性が高い状態が,バランスが悪い状態です。
重心動揺範囲が広いほど,また安定域が狭いほどバランスは悪くなります。
逆に,重心動揺範囲が狭いほど,また安定域が広いほど,バランスはよくなります(図3)。

図3

次に,いくつかのパターンをみていきましょう。

協調運動障害

安定域はそれほど狭くならないのですが,重心動揺範囲が広くなるため,バランスが悪くなります(図4)。

図4

パーキンソン病

重心動揺範囲はそれほど広くならないのですが,安定域が狭くなります(図5)。
静止しているときは動揺が少なく,バランスがいいように見えますが,わずかな外乱で簡単に倒れます。

図5

片麻痺

重心動揺範囲はやや広くなり,安定域は狭くなります。
そして,重心動揺範囲と安定域はともに非麻痺側に偏ります(図6)。
ですので,まっすぐ立とうとすると,麻痺側に倒れやすくなります。
勘違いしてはいけないのは,非麻痺側には倒れにくいというわけではないということです。
安定域は狭くなっています。
どちら側に重心点が移動してもすぐに安定域の外に出てしまいます。

図6

動揺は強いが転倒しない人

例えば,片足立ちをしたときに動揺が強いのですが,以外に長い時間片足立ちを保つことができる人がいます。
これは,重心動揺範囲が広いのですが,安定域が平均よりも広いという状態です。

測定

重心動揺範囲と安定域を測定するためには重心動揺計が必要になります。
しかし,重心動揺計をいつでも使えるという環境にいる人は少ないでしょう。

Functional reach test(機能的リーチ検査)は安定域の一部を間接的に測ることができます。

理学療法士には動作観察があります。
重心動揺範囲と安定域を意識した動作観察が重要になると思います。

参考文献

1)望月久: 疾患・障害別評価のポイント 神経・筋系, 標準理学療法学 専門分野 理学療法評価学第2版. 内山靖(編), 医学書院, 2006, pp254-275.
2)内山靖: バランスと姿勢・活動. PTジャーナル. 2002; 36: 223-232.
3)浅井仁, 奈良勲, 他: 極低温空気による足底冷却が安静時立位姿勢調節及び有効支持基底面の広さに及ぼす影響. 理学療法学. 1991; 18: 19-25.
4)中村隆一, 齋藤宏, 他: 基礎運動学(第6版補訂). 医歯薬出版, 2013, pp366-368.

2019年11月18日

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