サルコペニアの定義と診断(AWGS 2019)

はじめに

AWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)2019 による,サルコペニアの診断と治療についてのコンセンサスの更新がありました。
その論文1)にある新しい診断基準を紹介します。

2014 年に発表された診断基準と比べると,基本的な考え方は同じですが,骨格筋量を測定する機器がない場合の診断アルゴリズムが追加されています。
カットオフ値も変わっています。
また,身体機能の評価は歩行速度だけでしたが,5 回椅子立ち上がりテストと SPPB が追加されています。

AWGS 2019 によるサルコペニアの定義

診断基準の前に,サルコペニアの定義をみていきましょう。

「並存疾患とは関係なく,加齢によって,骨格筋の減少に加えて,筋力の低下と身体機能の低下の両方あるいはどちらかがある状態」をサルコペニアと定義しています。

サルコペニアの定義に関する研究はいまだに発展途上ですが,AWGS 2019 では,これまでの定義を踏襲することにしたそうです。

「並存疾患とは関係なく」ということは,悪液質や運動麻痺などの並存疾患によって骨格筋が減少している状態はサルコペニアではないと定義していることになります。
つまり,二次性サルコペニアという概念は採用していません(二次性サルコペニアについてはこちら)。

年齢のカットオフ値は 60 歳または 65 歳となっています。
60 歳か 65 歳のどちらであるかは,各国で高齢者をどう定義しているかによるとしています。
若年者でのサルコペニアについては,今後の調査が必要であるとしており,否定しているわけではありません。

一般の診療所や地域での診断アルゴリズム

骨格筋量を測定する機器がない状況でのサルコペニアの診断基準です(図 1)。

一般の診療所や地域での診断アルゴリズム
図 1: 一般の診療所や地域での診断アルゴリズム

確定診断はできませんが,「サルコペニアの可能性(Possible sarcopenia)」と診断することができます。
「サルコペニアの可能性」という診断を取り入れることにより,サルコペニアのリスクがある人に対してより早期に介入できるようになることを目指しています。

検査機器の整った医療施設や研究施設での診断アルゴリズム

確定診断はこのアルゴリズムで行います(図 2)。

検査機器の整った医療施設や研究施設での診断アルゴリズム
図 2: 検査機器の整った医療施設や研究施設での診断アルゴリズム

「症例の抽出」をみると,例えば,心不全があるというだけで,サルコペニアの診断プロセスに進むという流れになっています。
かなり積極的にサルコペニアを見つけていこうとしていることが分かります。

診断アルゴリズムの補足

図 1 と図 2 は原著では横に並んでいて一つの図になっています。
図 1 の「サルコペニアの可能性」から右に出る矢印は図 2 の「診断」につながります。
「サルコペニアの可能性」と診断された場合は,食事や運動の習慣に対する介入を行いつつ,設備の整った施設での確定診断を勧めるということになります。

図には年齢が含まれていませんが,論文の本文では,高齢者が対象であると書かれています。
図のみが一人歩きしてしまうと危険かなと思います。

カットオフ値が AWGS 2014 と比べて変更になったところがあります。
握力は男性で < 26kg だったのが < 28kg になっています。
また,歩行速度は ≤ 0.8 m/s から ≤ 1.0 m/sになっています。

各検査の方法

下腿周囲径

両側で測定し,大きい方の値をとります。

SARC-F と SARC-CalF

別の記事でまとめています。

骨格筋量

DXA か BIA のどちらかを推奨しています。

骨格筋量の正常値は体格によって変わりますので,身長で補正します(身長 m の2乗で割る)。

BIA は多周波数 BIA(multifrequency BIA)の使用を推奨しています。
家庭用の測定機器(いわゆる体脂肪計)の使用は推奨しないとしています。

握力

スメドレー型握力計かジャマー型握力計の使用を推奨しています。
日本ではスメドレー型が多いような気がします。
スメドレー型とジャマー型では測定値が変わり,ジャマー型の方が大きな値が出る傾向があります。
そうなると,握力計の種類ごとにカットオフ値を決める必要が出てきます。
しかし,AWGS 2019 では,十分なデータがないために,握力計の種類ごとのカットオフ値はだしていません。

スメドレー型握力計での測定肢位は,立位で肘関節は伸展位とします。
ジャマー型握力計では,座位で肘関節90度屈曲位です。

両手もしくは利き手のみで,最低 2 回は測定し,最大値をとります。
握る時間は制限しません。

6 m 歩行速度

通常の速さで歩いてもらいます。
6 m のコースの前後に加速と減速のための余分の距離をとります。
余分の距離の間の 6 mを歩く時間を測ります(原著には from moving start, without deceleration 書かれているだけで,詳しくは書かれていません)。
最低 2 回の測定で,平均値をとります。

さて,私は 6 m を歩く時間を測ると解釈したのですが,サルコペニア診療ガイドライン 2017 年版 一部改訂では,6 m のコースを歩き,前後 1 m を除いた 4 m の歩行で測定するとなっています。

5 回椅子立ち上がりテストと SPPB(Short Physical Performance Battery)

これらについては,AWGS 2019 の論文には詳しく書かれてはいません。
しかし,どちらも,理学療法士であれば入手しやすい MMT のテキスト「新・徒手筋力検査法原著第 9 版」に載っていますので,そちらを参考にするのがいいでしょう。

スポンサーリンク

こちらの記事もおすすめ

サルコペニアについては他にもいくつかの記事があります。

「サルコペニア診療ガイドライン 2017 年版 一部改訂」の要点

サルコペニアの定義と診断(EWGSOP2,2018年改定)

サルコペニアと廃用性筋萎縮,二次性サルコペニアとの関係

サルコペニアは若年者でも発症する?

SARC-FとSARC-CalF(サルコペニアのスクリーニング)

指輪っかテストの方法,判定,結果の解釈

スポンサーリンク

参考文献

1)Chen LK, Woo J, et al.: Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020; 21: 300-307.
2)一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会ホームページ サルコペニア診断基準の改訂(AWGS2019発表). (2023年12月10日引用)

2021 年 1 月 27 日
2020 年 9 月 26 日
2020 年 3 月 25 日

コメント

タイトルとURLをコピーしました