老年医学

サルコペニアの定義と診断(EWGSOP2,2018年改定)

投稿日:2019年7月9日 更新日:

はじめに

European Working Group on Sarcopenia in Older People (EWGSOP)によるサルコペニアの定義は2010年に発表されました。
そして,2018年のワーキンググループ (EWGSOP2)において改定されました。
この記事では,その改定された定義や診断基準を紹介したいと思います。

サルコペニアの定義

まずは原著1)からの引用です。

Probable sarcopenia is identified by Criterion 1.
Diagnosis is confirmed by additional documentation of Criterion 2.
If Criteria 1, 2 and 3 are all met, sarcopenia is considered severe.
(1) Low muscle strength
(2) Low muscle quantity or quality
(3) Low physical performance

次は,翻訳したものです。

基準1を満たせば,ほぼ確実にサルコペニアである。
基準1に加えて基準2を満たせば,診断は確定する。
基準1,2,3の全てを満たせば,サルコペニアは重症とみなす
(1)筋力低下
(2)筋の量または質の低下
(3)身体機能の低下

解説します。

上の定義に加えて,「サルコペニアは進行性で全身性の骨格筋の疾患であり,転倒,骨折,身体障害,死亡率といった有害事象の可能性の増加と関連している」という説明もあります。
疾患であるというところが重要です。

筋力低下があるだけで,ほぼ確実にサルコペニアであるとしています。
筋力低下を重視していることが分かります。

「高齢者」とか「加齢による」という言葉がでてきません。
これらの言葉を使わないことに直接言及はしていませんが,サルコペニアの発症は人の一生のより早い時期に始まると書かれています。
サルコペニアの発症時期については別の記事で書いています。

筋の質とは,筋の構造と組成のミクロおよびマクロの変化と,単位体積あたりの筋の機能の両方を意味します。

次に各基準の評価とカットオフ値などを説明していきます。

症例発見(Case finding)

SARC-F questionnaireが推奨されています。
SARC-Fは,患者への質問による評価で,筋力低下,歩行能力,椅子から立ち上がり,階段昇降,転倒について評価します2)
検査方法はこちらの記事でまとめています。
カットオフ値は≧4点です。

筋力の評価

握力

握力は測定しやすいですし,他の部位の筋力との相関関係があります。
カットオフ値は,男性で<27kg,女性で<16kg です。

Chair stand test(chair rise test)

下肢の筋力測定の代用として行います。
椅子からの立ち上がりを5回行い,その所要時間を測ります。
下肢の筋力をみるものですから,上肢は使わないようにします。
カットオフ値は>15秒です。

筋量の評価

全身の骨格筋量 total body Skeletal Muscle Mass(SMM)や四肢骨格筋量 Appendicular Skeletal Muscle Mass (ASM)として表します。

MRI,CT

筋量測定のゴールドスタンダードはMRIとCTです。
しかし,低骨格筋量のカットオフ値はありません。

二重エネルギー X 線吸収測定法(DXA)

骨密度測定でおなじみの検査です。
機器は移動できるようなものでなく,病院のレントゲン室で検査します。

生体インピーダンス解析(BIA)

市販の体重計での体脂肪率の測定は同じ原理を使っています。
医療用のものは大きくなりますが,持ち運びが可能なものもあります。
DXAと比べると正確さは劣ります。

ASMのカットオフ値

男性で<20kg,女性で<15kgです。
また,骨格筋量指標(ASM/身長2)のカットオフ値は男性で<7.0kg/m2,女性で<5.5kg/m2です。

下腿周径

測定機器がないときの代用として使います。
カットオフ値は<31cmです。

身体機能の評価

歩行速度

簡便であり,サルコペニアに関連したアウトカムを予測することができるという理由で,身体機能の指標として歩行速度を使うことが推奨されています。
「4-m usual walking speed test」がよく使われているそうです。
詳しい説明はありませんが,4mを普通の速さで歩いてもらって時間を測定するということでしょう。
カットオフ値は≦0.8m/sです。

SPPB(Short Physical Performance Battery)

立位バランス,歩行速度,立ち上がりの3つを検査します。
12点満点でカットオフ値は≦8点です。

Timed-Up and Go test(TUG)

椅子から立ち上がり,3m先の目印(コーンなど)を回り,再び座るという一連の動作の所要時間を測ります。
カットオフ値は≧20秒です。

400m歩行(400-m walk test)

20mを20回,できるだけ速く歩いてもらって所要時間を測ります。
カットオフ値は≧6分です。

筋の質の評価

MRIやCTによって筋への脂肪の浸潤を評価します。
また,筋力と四肢骨格筋量の比なども使います。
通常の診療においてルーチンで利用できる筋の質の評価についてのコンセンサスは得られていません。

サルコペニアの発見,診断,重症度の評価のためのアルゴリズム

Find-Assess-Confirm-Severity (F-A-C-S)という流れになっています。

図1に示します。

サルコペニアの発見,診断,重症度の評価のためのアルゴリズム
図1:*筋力低下の原因としてサルコペニア以外のものはないかを考慮する(例えば,脳卒中,バランス障害,末梢血管疾患)。

症例発見の臨床所見とは,転倒,だるさ,歩行速度が遅い,椅子からの立ちあがりが難しい,体重減少,筋肉疲労などがあります。

筋の量または質を評価するには,臨床では DXA と BIA が推奨されており,研究やハイリスクの症例では DXA,MRI,CT が推奨されています。

翻訳の問題

ややマニアックな話です。

「probable 〜」にぴったり合う日本語の表現はなさそうです。
Definitive,Probable,Possibleの3つセットで使われることが多く,「probable」に対する日本語としては,「ほぼ確実」とか,「疑い」などがあてられています。

「case-finding」は症例発見としていますが,症例発見という表現はまだ定着していない印象です。
症例抽出ということもあります。
スクリーニングとの違いはよく分かりません。

「physical performance」も訳しにくい表現です。
EWGSOP 2 では「physical performance」は,移動に関連して客観的に測定された全身機能として定義されています。
とりあえず「身体機能」としましたが,日本語の「身体機能」の定義が「移動に関連して客観的に測定された全身機能」であるとは限らないことに注意が必要です。
身体能力とか運動能力と訳すこともあります。

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参考文献

1)Cruz-Jentoft AJ, Bahat G, et al.: Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis. Age and Ageing. 2019; 48: 16–31.
2)Malmstrom TK, Morley JE: SARC-F: a simple questionnaire to rapidly diagnose sarcopenia. Am Med Dir Assoc. 2013; 14: 531-532.
3)荒井秀典, 木下かほり, 他: サルコペニア:定義と診断に関する欧州のコンセンサス改訂の翻訳とQ and A. 日本サルコペニア・フレイル学会誌. 2019; 3: 37-64.

2020年9月26日
2020年7月4日
2020年5月19日
2019年7月14日
2019年7月9日

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