老年医学

うつと認知症との鑑別

投稿日:2019年2月25日 更新日:

うつと認知症との鑑別についてまとめました。

鑑別の重要性

高齢者のうつと認知症は症状が似ています。
高齢者がうつになると,精神運動制止,思考制止などにより,物忘れや判断力の低下などが生じます。
その症状が認知症に似ているため,認知症と間違われることがあります(仮性認知症と呼ばれます)。
また,認知症の症状のひとつであるアパシーはうつによく似ています。

うつと認知症では,治療や接し方が異なります。
例えば,認知症ではある程度の励ましが有効である一方で,うつでは励ましは禁忌です。
うつは治りますが,認知症は治りません。
しっかり鑑別することが重要です。

しかし,鑑別は簡単ではありません。
認知症にうつが合併することがありますし,うつから認知症に移行することもあります。
そのことが鑑別をさらに難しくしています。

鑑別の方法

うつと認知症の違いの概要を表にまとめました。
診断基準ではありません。
「あり」となっていても必ずあるというものではありません。

うつ認知症
悲哀感の訴えありなし
記銘力低下の訴えありなし
病識病識があり,深刻で,誇張的である病識は少なく,深刻ではなく,無関心である
妄想微小妄想物盗られ妄想
認知機能検査への態度努力する前に「分かりません」と答えることが多い分からないときには取り繕う
記憶障害近時記憶と遠隔記憶が同等に障害を受ける遠隔記憶よりも近時記憶の障害が強い
見当識障害なしあり
失語,失行,失認なしあり
HDS-Rでの失点しやすい項目言語流暢性遅延再生
描画,構成ケアレスミス本質的に障害される
身体症状不眠、頭重感、食欲低下、便秘などが生じやすい特に多くない
活動性行動の減少,外出しなくなる行動の増加,徘徊
睡眠早朝覚醒,熟眠障害昼夜逆転
症状の日内変動午前中に悪化することがある少ない
発症時期の特定週単位から月単位で特定できる年単位でしか特定できない
進行早い遅い
うつの既往ありなし

用語解説

アパシー

興味や意欲の障害です。
自発性・意欲の低下、周囲への無関心・無頓着を示し、自発性の減退を苦しまない様子、自発性の低下に関心のない様子がみられます3)

HDS-R

改訂長谷川式簡易知能評価スケールのことで,認知症のスクリーニング検査です。
別の記事でまとめています。

微小妄想

心気妄想,罪業妄想,貧困妄想の3つを微小妄想(低い自己評価と物事を悪いほうに解釈することによって生じる妄想)といいます3)

心気妄想

自分が重大な病気になっているという内容の妄想です。

罪業妄想

良くないことはすべて自分のせいで,自分が他人に迷惑をかけているという内容の妄想です。

貧困妄想

全財産を失ったのでこれから生活していけないという内容の妄想です。

おわりに

理学療法士が鑑別診断を行うことはありません。
しかし,患者(対象者)の変化や異変には気付く必要があります。
特にうつを見落とすことはとても怖いことです。

参考文献

1)福井圀彦: 老人のリハビリテーション(第4版). 医学書院, 1997, pp98.
2)副田秀二, 中村純: うつ状態への対応. 総合リハ. 2000; 28: 1009-1013.
3)馬場元: 認知症と鑑別を要する精神症状-うつ病. 月刊薬事. 2015; 57: 1783-1788.
4)池田将樹, 池田佳生: 認知症とうつ・せん妄の鑑別診断ポイント. Mebio. 2015; 32: 54-58.
5)植草朋子, 品川俊一郎: うつ病とアルツハイマー型認知症. 老年精神医学雑誌. 2018; 29: 249-257.
6)布村明彦: うつ病性仮性認知症およびうつ病とMCIの併存. 老年精神医学雑誌. 2018; 29: 241-248.
7)渡辺雅幸: 専門医がやさしく語るはじめての精神医学(改訂第2版). 中山書店, 2017, pp95-103.

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