「サルコペニア診療ガイドライン 2017年版1)」でのサルコペニアの定義は以下のようになっています。
サルコペニアは高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下により定義される。
サルコペニアは高齢者で生じる疾患であるということになりますが,EWGSOP2によって改定されたサルコペニアの定義についての論文2)で,「サルコペニアの発症は人の一生のより早い時期に始まる」というような記述がありました。
それ以上の詳しい説明はありませんので,この記述のもとになっている論文3)を読み,概要をまとめてみました。
筋力が能力低下を起こすほどに低下するのは,筋力の低下率が大きくなることだけでなく,若いときに獲得した筋力の低さも影響します。
もともと筋力が低いので,筋力低下が始まるとより早期に能力低下を起こすレベルになってしまうということです。
論文3)では,この若い時のピーク時の筋力に影響する要因をレビューしています。
動物実験の結果がいくつか紹介されています。
その一つは,妊娠中の母体の低栄養により,胎児の遅筋線維が少なくなったというものです。
出生前の環境により筋の質が変わる可能性があるということです。
そして,ヒトでは,出生時の体重が少ないと,大人になってからの握力も小さいという関係が分かっているそうです。
論文には明記されていませんが,出生前の環境により,サルコペニアを発症しやすい筋になっている可能性があるということのようです。
出生前からサルコペニアを発症していることを確認できたという論文ではありません。
サルコペニア発症のメカニズムが分子レベルあるいは細胞レベルで分かっていないのですから,はっきりしたことは言えないということのようです。
さて,EWGSOP2によって改定されたサルコペニアの定義には「高齢者」とか「加齢による」という言葉が入っていません。
今後,サルコペニア発症のメカニズムが解明され,もしかしたら胎児がサルコペニアを発症していることが分かるようになるのかもしれません。
あるいは,若年者のサルコペニアに対する治療が重要になってくるのかもしれません。
そういう可能性を見越して,「高齢者」とか「加齢による」という言葉を入れなかったのではないでしょうか?
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参考文献
1)http://jssf.umin.jp/pdf/jssf_guideline.pdf(2019年7月14日引用)
2)Cruz-Jentoft AJ, Bahat G, et al.: Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis. Age and Ageing. 2019; 48: 16–31.
3)Sayer AA, Syddall H, et al.: The developmental origins of sarcopenia. J Nutr Health Aging. 2008; 12: 427-432.
2019年7月14日