はじめに
日本における認知症と軽度認知障害(MCI)の有病率について,2022 年度に行われた調査3)の概要をまとめます。
さらに,それよりも古い調査の数値も紹介します。
関連する理学療法士国家試験問題の解説もあります。
目次
2022 年度の調査
タイトル
令和5年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業) / 認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究報告書 / 国立大学法人 九州大学
2016年より行われている「健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究: Japan Prospective Studies Collaboration for Aging and Dementia (JPSC-AD)研究」のなかの一つです。
対象と方法
調査期間:2022 年から 2023 年にかけて行われています。
対象:福岡県糟屋郡久山町,石川県七尾市中島町,愛媛県伊予市中山町,島根県隠岐郡海士町,岩手県紫波郡矢巾町(19行政地区),大阪府吹田市の 6 地域の 65 歳以上の地域住民約 9,000人です。
悉皆調査(全数調査)ですが,吹田市だけは無作為抽出調査です。
認知症の有病率
調査率(調査数 / 対象者数)の高い地域と低い地域で結果が大きく変わっているため,調査率が高かった地域に限った有病率と調査した全ての地域での有病率の 2 つが報告されています。
調査率が高かった地域に限った有病率の数字が使われることが多いようです。
性年齢調整後の有病率です。
- 調査率が高かった地域での認知症の有病率:12.3%
- 全ての地域での認知症の有病率:10.9%
軽度認知障害(MCI)の有病率
同じく,2 つの有病率が報告されています。
性年齢調整後の有病率です。
- 調査率が高かった地域でのMCIの有病率:15.5%
- 全ての地域でのMCIの有病率:15.3%
年齢階級別有病率
より古い調査
簡単に示します。
2016 – 2018 年の調査での認知症と軽度認知障害(MCI)の有病率1)
上述の調査と同じ研究グループによるものです。
粗有病率であり,前述の結果のような性年齢調整は行われていません。
- 認知症の有病率:8.5%
- 軽度認知障害(MCI)の有病率:17.0%
この数値は,検査を行う施設に来ることができた人から得られた数値です。
一部の地域においては,対象者の自宅や入所している施設を訪れて検査を行うことで悉皆調査(全数調査)を実現しており,その調査での認知症の粗有病率は 16.4% です。
2009 – 2010 年の調査での認知症と軽度認知障害(MCI)の有病率2)
年齢調整が行われた有病率です。
- 認知症の有病率:15%
- 軽度認知障害(MCI)の有病率:13%
前述の最新の調査での認知症有病率は 12.3% ですから,認知症の有病率は低下傾向にあるのかもしれません。
関連する国家試験問題
第 56 回理学療法士国家試験 午前 問題 96
我が国の 65 歳以上の高齢者における軽度認知障害(MCI)の有病率として適切なのはどれか。
1.5%
2.15%
3.35%
4.50%
5.70%
正解 2
前述の調査での軽度認知障害(MCI)の有病率は,15.5%,17.0%,13% であり,全く同じ数値はありませんが,2 の 15% が一番近い数値です。
この問題は 2021 年 3 月に行われた国家試験の問題です。
この記事の最初に紹介した調査はこの問題が出題された後の調査です。
国家試験では,どの年の数値を暗記すべきか?悩ましいところです。
おわりに
認知症の有病率は一部の国では低下傾向にあるようで,喫煙,身体活動の低下,高血圧,糖尿病,高脂血症などの危険因子が減っていることが関係している可能性があるようです。
認知症が予防できるようになるといいですね。
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スポンサーリンク参考文献
1)Ninomiya T, Nakaji S, et al.: Study design and baseline characteristics of a population-based prospective cohort study of dementia in Japan: the Japan Prospective Studies Collaboration for Aging and Dementia (JPSC-AD). Environ Health Prev Med. 2020; 25: 64.
2)朝田隆, 他: 都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応.
3)認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究報告書
2021 年 7 月 14 日
2024 年 12 月 7 日
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