ポストポリオ症候群の概要:定義,診断,リハビリテーション

はじめに

ポストポリオ症候群(post-polio syndrome; PPS)の定義,診断,リハビリテーションについて簡単にまとめます。

目次

ポリオとは

ポリオ(急性灰白髄炎,小児麻痺)とは,ポリオウイルスによる感染症で,脊髄前角細胞に感染すると,運動麻痺(下位運動ニューロン障害)が生じます。

ポストポリオ症候群とは

ポストポリオ症候群とは,幼少期にポリオに罹患し,運動麻痺がある程度の回復した後,10 〜 40 年症状が安定していた方(ポリオ経験者)が,新たな筋力低下,疲労,疼痛などの症状を呈する症候群です。

疫学

日本では,ポリオ経験者の 75% がポストポリオ症候群を発症しているとの報告があります1)
また,アメリカでは,ポリオ経験者の 11 〜 25% がポストポリオ症候群に罹患しているという報告もあります2)

発症機序

発症機序は明らかになっていません。

ポリオ発症後は,神経支配を失った筋線維に対して,残存した運動ニューロンによる再支配が行われますので,運動単位は肥大化します。
その肥大化した運動単位への長期の過負荷により,運動単位の末端が変性するという説が有力です2)

神経の変性であり,根本的な回復は見込めません。

発症要因として,過用,加齢,体重増加などが考えられています。

診断基準

Halstead の診断基準

有名で,よく用いられているものですが,2 つのバージョンが存在します。

バージョン 1 1)

  1. 麻痺性ポリオの確実な既往
  2. 部分的または完全な神経学的・機能的回復
  3. 少なくとも 15 年間の神経学的・機能的安定期間
  4. 安定期間を経過した後に,以下の健康問題が 2 つ以上発生
    • 普通でない疲労
    • 筋肉痛 / 関節痛
    • 麻痺側または非麻痺側の新たな筋力低下
    • 機能低下
    • 寒冷に対する耐性の低下
    • 新たな筋萎縮
  5. 以上の健康問題を説明する他の医学的診断がない

バージョン 2 7)

  1. 麻痺性ポリオの既往。これは,病歴・診察・電気診断によって確認する
  2. かつての脊髄前角細胞障害を証明する標準的筋電図所見(明らかなポリオ麻痺のある四肢では必要なし)。
  3. ポリオの神経学的回復。その後,新しい筋力低下に先立つ,長期にわたる神経機能の安定期の存在。この安定期は通常 15 年以上続く。
  4. ポリオ罹患筋の緩徐な,あるいは急激な,新しい筋力低下。この筋力低下は以下の新しい健康上の問題点を伴うことがある。全身の疲労・筋萎縮・関節痛・筋肉痛・持久力の低下・運動機能の低下
  5. 上記 4 にあげた症状を引き起こす内科的・整形外科的・神経学的異常の除外

このバージョン 2 とほぼ同じ内容で,さらに「新たな筋力低下が,最低 1 年間続く」が加えられたバージョン2)もあります。

バージョン 1 と 2 との違いで重要だと思うところが 2 つあります。
まず一つは,新たな筋力低下がポリオ罹患筋に生じるのか,あるいは非罹患筋(非麻痺側)にも生じるのかの違いです。
もう一つは,バージョン 1 の基準では,新たな筋力低下がなくてもポストポリオ症候群と診断されうるところです。
このような違いについて記述している論文は見つからず,詳しいことは分かりません。

March of Dimes 国際会議の診断基準4,6)

比較的新しい診断基準です。
Halstead の診断基準がベースになっており,より客観的になっています。

  1. 運動ニューロン消失を伴う麻痺性ポリオの既往(病歴:急性発症した麻痺性疾患,診察:残存する筋力低下や筋萎縮,筋電図:脱神経所見)
  2. 急性ポリオを発症し,部分的にあるいは完全に機能回復後に,神経学的に機能が安定した状態が一定期間(通常15 年以上)ある
  3. 進行性で持続する新たな筋力低下や易疲労性(持久力減少)が徐々に,あるいは突然出現する.全身性疲労,筋萎縮,筋や関節痛を伴うことがある。まれに,関連症状として新たな呼吸や嚥下の問題を生じる
  4. これらの症状は 1 年以上持続する
  5. 同様の症状の原因となる他の神経疾患,内科疾患,整形外科疾患を除外する

治療・リハビリテーション

ポストポリオ症候群に対する有効な治療法は確立されていません。
リハビリテーションでは,過用を起こさないようにしながら,廃用や体重増加を防ぐことが重要になります。

運動療法の適応は,筋力低下,運動器の痛み,肥満,疲労,呼吸機能障害などです。

筋力増強運動は低負荷高頻度が基本となりますが,頻度が高すぎると休息期間がなくなるため,注意が必要です。
運動負荷設定の目安は,疲労感や筋肉痛が翌日に残らない程度で,CK(creatine kinase)値が上昇しない範囲です。
最大筋力での負荷は避けたほうがよさそうですが,諸説あるようです。
筋力が MMT で 3 以下の場合は,運動ではなく保護を優先します5,7)

その他には,疼痛に対する物理療法,歩行補助具の使用,生活指導などが行われます。

運動療法に関する詳しい情報は,水間による論文5)が分かりやすいと思います。

国家試験問題

第 57 回理学療法士国家試験 午前 問題 43

ポストポリオ症候群で正しいのはどれか。

1.疼痛を伴うことは少ない。
2.発症年齢は 10 歳以下が多い。
3.罹患筋の運動単位数は減少している。
4.非麻痺側に新たな筋力低下は起こらない。
5.MMT 3 レベル以下の新たな筋力低下に対して筋力増強運動を行う。

正解 3

解説

1.疼痛はよくある症状6)であり,ポストポリオ症候群の診断基準にも含まれています。ただし,多いか少ないかは何を基準にするかで変わりますので,注意が必要です。
2.通常 15 年以上続く安定期を経てから発症するのですから,発症年齢は 10 歳以下にはなりません。
3.ポストポリオ症候群の前段階として「運動ニューロン消失を伴う麻痺性ポリオの既往(March of Dimes 国際会議の診断基準)」があるのですから,運動単位数は減少しています。
4.非麻痺側にもポストポリオ症候群による筋力低下は生じるとの記述6)があります。また,前述の Halstead の診断基準のバージョン 1 には「非麻痺側の新たな筋力低下」とあります。しかし,Halstead の診断基準のバージョン 2 ではポリオ罹患筋の筋力低下となっており,この点に関しては諸説あるのかもしれません。もしそうであれば,この国家試験問題は不適切問題になります。
5.治療・リハビリテーションのところで書いたとおりで,筋力が MMT で 3 以下の場合は,運動ではなく保護を優先します。

第 56 回理学療法士国家試験 午後 問題 84

筋量減少が診断基準に含まれるのはどれか。

1.フレイル
2.サルコペニア
3.ポストポリオ症候群
4.メタボリックシンドローム
5.ロコモティブシンドローム

正解 2

この問題は主にサルコペニアについて問うている問題です。

ポストポリオ症候群の診断基準に筋量減少は含まれませんが,筋萎縮は含まれます。
微妙な問題ということになります。

サルコペニアの診断基準については以下の記事でまとめています。

サルコペニアの定義と診断(AWGS 2019)

サルコペニアの定義と診断(EWGSOP 2, 2018年改定)

第 55 回理学療法士国家試験 午後 問題 36

成人期に発症するポリオ後症候群の Halstead らの診断基準にないのはどれか。

1.感覚障害
2.関節痛
3.筋萎縮
4.筋肉痛
5.疲労

正解 1

解説

ポリオは下位運動ニューロン障害です。
また,ポストポリオ症候群の発症機序は明らかになっていませんが,運動麻痺であり,感覚障害はありません。
Halstead の診断基準を知らなくても解ける問題です。

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おわりに

ポストポリオ症候群の認知度はあまり高くないそうです。
まずは知ることが大切です。

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参考文献

1)青柳陽一郎, 佐伯覚, 他: ポストポリオ症候群. Jpn J Rehabil Med. 2015; 52: 625-633.
2)Kilgore EM, Halstead LS: ポストポリオ症候群の診断,評価と管理. 臨床リハ. 2007; 16: 121-128.
3)青柳陽一郎, 沢田光思郎, 他: ポストポリオ症候群診療ガイダンス – ポリオ(脊髄性小児麻痺)経験者に対する診察ポイント. Jpn J Rehabil Med. 2017; 54: 140-144.
4)蜂須賀明子, 佐伯覚: ポストポリオ症候群のリハビリテーション治療. Jpn J Rehabil Med. 2020; 57: 736-741.
5)水間正澄: ポストポリオ症候群のリハビリテーション リハビリテーションアプローチ(1)運動療法. 臨床リハ. 2007; 16: 129-134.
6)Gonzalez H, Olsson T, et al.: Management of postpolio syndrome. Lancet Neurol. 2010; 9: 634-642. doi: 10.1016/S1474-4422(10)70095-8.
7)向山昌邦監(監訳):ポストポリオ症候群 – その病態から対処法まで. 全国ポリオ会連絡会, 2004.

2021 年 8 月 9 日
2024 年 4 月 19 日

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