肩鎖関節の解剖と運動:基本情報のまとめ

はじめに

肩鎖関節 acromioclavicular joint の解剖(構造)と運動について基本的なところをまとめます。

目次

肩鎖関節を構成する骨と関節面

  • 肩甲骨の肩峰(鎖骨関節面,肩峰関節面5)
  • 鎖骨の肩峰端(肩峰関節面,肩峰端関節面)

どちらも肩峰関節面と呼ばれることがありますので,注意が必要です。

関節面はほぼ平らで,凹凸には様々なバリエーションがあります。
鎖骨の関節面がわずかに凸,肩甲骨の関節面は平面3)となっていたり,両方とも平坦あるいはやや凸8)となっていたりします。

関節面の傾きも様々ですが,多いのは肩峰の関節面が上向き,鎖骨の関節面が下向きです9)
肩峰に対して外側から内側に向かう外力が加わった場合,関節面に傾斜があることで剪断力が生じ,脱臼する場合があります。

肩鎖関節の脱臼
図 1: 肩鎖関節の脱臼

肩鎖関節の関節面は硝子軟骨ではなく線維軟骨で覆われています1)。 

関節の分類

  • 可動性による分類:滑膜性関節(可動結合)
  • 関節面の形状と動きによる分類:平面関節
  • 運動軸による分類:3 軸性
  • 骨数による分類:単関節

半関節と分類される3,5)こともありますが,半関節という分類の定義が曖昧ですので注意が必要です。

関節周囲の結合組織(靱帯など)

肩鎖関節周囲の結合組織
図 2: 肩鎖関節周囲の結合組織

肩鎖靱帯

関節包を補強する靱帯です。
関節包の上にあるとする文献3-6,8)と,上下にあるとしている文献1,2,9)があります。

烏口鎖骨靭帯

以下の 2 つの靱帯に分かれます。

菱形靱帯:烏口突起の上内側縁で小胸筋付着部の後方9)から鎖骨の菱形靱帯線まで外側上方に走ります。
円錐靱帯:烏口突起の基部から鎖骨の円錐靱帯結節までほぼ垂直に走ります。

烏口鎖骨靭帯は強い抗張力ももつ靱帯です。
鎖骨に肩甲骨(上肢)をぶら下げる働きがあります。
そして,肩鎖関節の動きを制限します。

関節円板

形は一定ではありません。

文献には,この関節円板の働きについての記載はありません。

肩鎖関節の安定化に作用する筋

  • 三角筋
  • 僧帽筋上部線維

どちらも付着部が肩鎖関節をまたいでおり,関節包を補強する働きがあります。

肩鎖関節の運動

肩鎖関節の動きは,鎖骨の外側端に対する肩甲骨の動きで表現されます。

3 軸での運動が可能です。

肩鎖関節の運動
図 3: 肩鎖関節の運動

上方回旋と下方回旋

前額面における前後軸での動きです。

  • 上方回旋の可動域:30°1),または 5°7)
  • 上方回旋の制限因子:烏口鎖骨靭帯10)
  • 上方回旋のエンドフィール:記載なし
  • 下方回旋の可動域:5°7)
  • 下方回旋の制限因子:烏口鎖骨靭帯10)
  • 下方回旋のエンドフィール:記載なし

内旋と外旋

水平面における垂直軸での動きです。

  • 内旋の可動域:10°7)
  • 内旋の制限因子:円錐靱帯(図 4)
  • 内旋のエンドフィール:記載なし
  • 外旋の可動域:10°7)
  • 外旋の制限因子:菱形靱帯(図 4)
  • 外旋のエンドフィール:記載なし

内・外旋全体の可動域は最大で 50° であるという報告14)もあります。

円錐靱帯と菱形靱帯による内・外旋の制限
図 4: 円錐靱帯と菱形靱帯による内・外旋の制限8)

前傾と後傾

矢状面における内外側軸での動きです。

  • 前傾の可動域:25°7)
  • 前傾の制限因子:烏口鎖骨靭帯10)
  • 前傾のエンドフィール:記載なし
  • 後傾の可動域:25°7)
  • 後傾の制限因子:烏口鎖骨靭帯10)
  • 後傾のエンドフィール:記載なし

文献には肩鎖関節のエンドフィールに関する記載はありません。
そもそも,肩鎖関節の動きのみを徒手的に分離するのは簡単ではなく,肩鎖関節のエンドフィールを感じることも簡単ではありません。

しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)

  • CPP:肩関節 90° 外転位
  • LPP:肩甲骨が生理的肢位にあるとき

作用する筋

肩甲骨と鎖骨を結ぶ筋はなく,狭い意味での肩鎖関節に作用する筋はありません。
肩鎖関節は上肢の動きに連動して動きます。

肩甲骨に付着する筋はこちら
鎖骨に付着する筋はこちら

主な血液供給

記載なし

関節の感覚神経支配1)

肩甲上神経と腋窩神経(C5,C6)

その他の特徴

内・外旋と前・後傾の動きには,肩甲骨が胸郭に沿って動くよう,肩甲骨の向きを微調整する働きがあります。

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参考文献

1)P. D. Andrew, 有馬慶美, 他(監訳):筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版. 医歯薬出版, 2020, pp146-150.
2)武田功(統括監訳): ブルンストローム臨床運動学原著第6版. 医歯薬出版, 2013, pp167-169.
3)博田節夫(編): 関節運動学的アプローチ AKA. 医歯薬出版, 1997, pp15-16.
4)秋田恵一(訳): グレイ解剖学(原著第4版). エルゼビア・ジャパン, 2019, pp577-578.
5)金子丑之助: 日本人体解剖学上巻(改訂19版). 南山堂, 2002, pp185.
6)越智淳三(訳): 解剖学アトラス(第3版). 文光堂, 2001, pp57.
7)富雅男(訳): 四肢関節のマニュアルモビリゼーション. 医歯薬出版, 1995, pp136-138.
8)荻島秀男(監訳): カパンディ関節の生理学 I 上肢. 医歯薬出版, 1995, pp50-55.
9)山嵜勉(編): 整形外科理学療法の理論と技術. メジカルビュー社, 1997, pp206-207.
10)中村隆一, 斎藤宏, 他:基礎運動学(第6版補訂). 医歯薬出版株式会社, 2013, pp217-218.
11)木村哲彦(監修): 関節可動域測定法 可動域測定の手引き. 共同医書出版, 1993.
12)板場英行: 関節の構造と運動, 標準理学療法学 専門分野 運動療法学 総論. 吉尾雅春(編), 医学書院, 2001, pp20-41.
13)大井淑雄, 博田節夫(編): 運動療法第2版(リハビリテーション医学全書7). 医歯薬出版, 1993, pp165-167.
14)山本昌樹: 肩関節複合体の正常運動学. 臨床スポーツ医学. 2019; 36: 132-142.

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2021 年 10 月 18 日
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