はじめに
ランチョ・ロス・アミーゴ(RLANRC)方式の歩行周期の定義1)をまとめました。
読み手として想定したのは,従来からある歩行周期は知っているけど,新しいものにはまだ馴染んでいないという方です。
従来からある歩行周期の用語を使った説明を入れています。
また,歩行の動き自体は分かっているのを前提としています。
用語の一覧
まずは用語を一覧表にしました。
最後の列は略語です。
英語のカタカナ表記がよく使われている印象がありますが,他もよく使われています。
面倒ですが,全て覚える必要があります。
第1相 | 初期接地 | イニシャルコンタクト | initial contact | IC |
第2相 | 荷重応答期 | ローディングレスポンス | loading response | LR |
第3相 | 立脚中期 | ミッドスタンス | mid stance | MSt |
第4相 | 立脚終期 | ターミナルスタンス | terminal stance | TSt |
第5相 | 前遊脚期 | プレスイング | pre-swing | PSw |
第6相 | 遊脚初期 | イニシャルスイング | initial swing | ISw |
第7相 | 遊脚中期 | ミッドスイング | mid swing | MSw |
第8相 | 遊脚終期 | ターミナルスイング | terminal swing | TSw |
歩行の各相の定義
「観察による歩行分析1)」にある定義を書き,その後に従来の歩行周期の用語を使った定義や,従来の歩行周期との対応を書いています。
また,各相のもう少し詳しい説明は別の記事にまとめていて,それぞれリンクをはっています。
初期接地(イニシャルコンタクト)
足注1)が地面に接触する瞬間です。
踵接地(heel strike)に相当します。
荷重応答期(ローディングレスポンス)
始まり:初期接地
終わり:反対側の足が地面から離れた瞬間
観察肢の踵接地から反対側の爪先離地(toe off)までです。
つまり,両脚支持期ということです。
反対側の爪先離地と観察肢の足底接地は同時に起こるとしている文献4)と,足底接地の方が先に起こるとしている文献3)があります。
おそらく,足底接地の瞬間を厳密に決めることが難しいのではないでしょうか?
正常歩行での荷重応答期の終わりは足底接地の瞬間でもあるとして大きな間違いではなさそうですし,臨床的には実用的かもしれませんが,あくまで正しい定義は反対側の足が地面から離れた瞬間です。
立脚中期(ミッドスタンス)
始まり:反対側の足が地面から離れた瞬間(toe off)
終わり:観察肢の踵が床から離れた瞬間(身体重心は前足部の直上にある)
反対側の爪先離地(toe off)から観察肢の踵離地(heel off)までです。
単脚支持期で足底全体が接地しているあいだになります。
従来の立脚中期は体重が支持側下肢を通過するときで,両足部が並ぶときであり,矢状面で大腿骨大転子が支持足部中央の垂線上にあるときです3)。
従来の立脚中期とは異なります。
立脚終期(ターミナルスタンス)
始まり:観察肢の踵が床から離れた瞬間
終わり:反対側のイニシャルコンタクト
観察肢の踵離地から反対側の踵接地までです。
単脚支持期で,踵が浮いています。
前遊脚期(プレスイング)
始まり:反対側のイニシャルコンタクト
終わり:観察肢のつま先が床から離れた瞬間
反対側の踵接地から観察肢の爪先離地までです。
反対側も接地しているので両脚支持期です。
この相は,まだ観察肢が接地していますので,従来の歩行周期では立脚期です。
しかし,ランチョ・ロス・アミーゴ方式では遊脚相になります。
荷重のほとんどは反対側に移動しており,機能的には遊脚期の準備をしていると捉えているからです。
遊脚初期(イニシャルスイング)
始まり:観察肢のつま先が床から離れた瞬間
終わり:両側の足関節が矢状面で交差した瞬間
加速期はとほぼ同じです。
完全に同じと言えないのは,加速期の定義2)が「下肢が体幹の後方にある」と曖昧になっているからです注2)。
遊脚中期(ミッドスイング)
始まり:両側の足関節注3)が矢状面で交差した瞬間
終わり:観察肢の下腿が床に対して直角になった瞬間
従来の遊脚中期とだいたいは同じですが,正確には異なります。
従来の遊脚中期の定義は「下肢が体幹の真下にある2)」となっています。
それに対して,ランチョ・ロス・アミーゴ方式の遊脚中期は下腿が垂直になるまでで,下腿が垂直になるとき足部は体幹の前方に振り出されています。
遊脚終期(ターミナルスイング)
始まり:観察肢の下腿が床に対して直角になった瞬間
終わり:観察肢の足が床に触れた瞬間
従来の減速期に近いものですが,全く同じではありません。
従来の用語とランチョ・ロス・アミーゴ方式の対応表
文献1,2)には従来の用語とランチョ・ロス・アミーゴ方式の対応の表があります。
いろいろと問題がありますので,引用したうえで解説します。
観察による歩行分析1)の表
従来の用語 | ランチョ・ロス・アミーゴ方式 |
踵接地 | 初期接地 |
足底接地 | 荷重応答期 |
立脚中期 | 立脚中期 |
踵離地 | 立脚終期 |
つま先離地 | 前遊脚期の終わり,遊脚初期の始まり |
加速期 | 遊脚初期の一部と遊脚中期 |
遊脚中期 | 遊脚中期の一部と遊脚終期 |
減速期 | 遊脚終期の一部 |
従来の用語の,踵接地,足底接地,立脚中期,踵離地,つま先離地は全てある瞬間を表しています。
一方のランチョ・ロス・アミーゴ方式では,初期接地以外は時間経過のある相を表しています。
ですので,基本的には従来の用語とランチョ・ロス・アミーゴ方式は一致しません。
従来の用語の「加速期」と,ランチョ・ロス・アミーゴ方式の「遊脚初期の一部と遊脚中期」が並んでいます。
もし,これらが同じだとするなら,遊脚初期の最初の方の一部に当たるものが,従来の用語にはないことになります。
また,「遊脚中期」と「遊脚中期の一部と遊脚終期」が並んでいて,これらも同じものなのであれば,「加速期」と「遊脚中期」は重なることになってしまいます。
文献1)には「従来の用語との対比を正確に理解するため」の表ということになっています。
対比ですので,同じだと言っているのではないのかもしれません。
基礎運動学2)の表
伝統的な定義 | 新たな定義(ランチョ・ロス・アミゴス) |
踵接地 | 着床初期(initial contact) |
踵接地から足底接地まで | 荷重応答期(loading response) |
足底接地から立脚中期まで | 立脚中期(midstance) |
立脚中期から踵離地まで | 立脚終期(terminal stance) |
爪先離地 | 遊脚前期(preswing) |
爪先離地から加速期まで | 遊脚初期(initial swing) |
加速期から遊脚中期まで | 遊脚中期(midswing) |
遊脚中期から減速期まで | 遊脚終期(terminal swing) |
従来の足底接地から立脚中期までがランチョ・ロス・アミーゴ方式の立脚中期であるとしていますが,これは間違っています。
前述の通りで,反対側の爪先離地から観察肢の踵離地までです。
他にもおかしいところがあるのですが,省略します。
どちらの表も,見ないほうがいいのかもしれません。
しかし,どこがおかしいのかをじっくり考えてみると,最終的にはランチョ・ロス・アミーゴ方式の歩行周期についての理解が深まるかもしれません。
正しい表を作ることができればいいのですが,どちらも定義に曖昧なところがあり,正確に対応させることができません。
おわりに
従来の用語でランチョ・ロス・アミーゴ方式の定義を理解しようとすると,ややこしくなるところも出てきます。
さくっと終わらせたい方は,従来の用語は忘れてしまった方がいいでしょう。
その他の歩行に関する記事の一覧はこちら
注釈
1)もとの文献1)では,「脚」と「足」が混在しています。意味があって使い分けているのかもしれませんが,この記事では「足」で統一しました。
2)「筋骨格系のキネシオロジー3)」ではもう少しはっきりした定義なのですが,遊脚初期という言葉を用いており,加速期と遊脚初期が同じであるのかどうかが分からず,今回の記事には含めていません。
3)もとの文献1)での遊脚初期の終わりの定義は「両側の足関節が矢状面で交差した瞬間」となっていて,遊脚中期の始まりの定義は「両側の下腿が矢状面で交差した瞬間」となっています。どちらが正しいのかは分かりませんが,とりあえずは足関節が交差した瞬間にしています(詳しくはこちら)。
参考文献
1)月城慶一, 山本澄子, 他(訳): 観察による歩行分析. 医学書院, 2006, pp11-14.
2)中村隆一, 齋藤宏, 他: 基礎運動学(第6版補訂). 医歯薬出版, 2013, pp380-384.
3)P. D. Andrew, 有馬慶美, 他(監訳):筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版. 医歯薬出版, 2020, pp716-722.
4)武田功(統括監訳): ペリー 歩行分析 原著第2版 -正常歩行と異常歩行- .医歯薬出版, 2017, pp20.
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コメント
いつも勉強させて頂いています
非常につまらない質問なんですが、
なぜランチョロスアミーゴと言うのでしょうか?
施設名はランチョロスアミーゴスとホームページにも記され、センターの職員もアミーゴスと言っていましたが…違和感有ります
どうでもよい話でスミマセン
ご存知ならお教え下さい
コメントありがとうございます。
ランチョ・ロス・アミーゴという表記は「観察による歩行分析」にあるものをそのまま使いましたが,確かに変ですね。
ネットで調べてみましたが分かりませんでした。
フランス語で複数形のsは発音しないというルールがあったような気がしますが,「観察による歩行分析」の著者はドイツ人ですので関係はなさそうです。
さらに気になったのですが,「アミーゴス」なんですね。辞書では「アミーゴゥズ」となっています。
いろいろと気になるので,引き続き調べてみます。