はじめに
股関節屈曲の可動域制限(伸展拘縮)によって生じる異常歩行について解説します。
股関節の角度は,垂直線に対する大腿の角度で表します。
GC は gait cycle(歩行周期)の略です。
立脚期
初期接地での股関節屈曲角度は 21.6° です。
5% GC までほとんど動かず,あとは伸展が続き,立脚終期の終わりで最大伸展位(19.2°)となります。
前遊脚期に屈曲が始まりますが,前遊脚期の終わりで伸展 6.6° です。
立脚期で股関節屈曲可動域制限による問題が目立つのは荷重応答期です。
荷重応答期に股関節の屈曲が少ないと,膝関節の屈曲も少なくなり,衝撃吸収も不十分となってしまいます。
これはヒールロッカーの動きと関係しています。
初期接地での下腿は,股関節が屈曲している分だけ後傾しています。
そして,荷重応答期における膝関節屈曲は,股関節はほとんど動かず,後傾している下腿が垂直になることで起こります。
股関節屈曲角度が少なくて下腿の後傾も少なければ,膝関節の屈曲も少なくなります(図 1)。
ただし,股関節の屈曲が少ないということは歩幅が短くなるということです。
歩行速度が落ちて衝撃は少なくなりますので,影響は少ないのかもしれません。
遊脚期
遊脚期には股関節は屈曲します。
屈曲のピークは 84% GC 〜 85% GC(遊脚中期)で 23.9° です。
遊脚肢の前方への動きが制限される
屈曲可動域制限があれば,遊脚肢の前方への動きが制限され,歩幅が短くなります。
遊脚肢を前方に出すための代償が生じます。
骨盤は後傾します。
骨盤の過度の前方回旋と股関節の外転による代償もあります。
これらの代償動作は,体幹を大きく動かす必要があるため,多くのエネルギーを消費してしまいます。
また,腰への負担も増えます。
ハムストリングスの短縮があれば,股関節の屈曲が制限される場合と,膝関節の伸展が制限される場合があります。
いずれにしても歩幅は短くなります。
トウクリアランスが制限される
遊脚初期の途中に大腿が中間位を通過するまでは,股関節が屈曲することで足部は床に近づきますので,トウクリアランスは膝関節屈曲によって行われます。
しかし,この膝関節屈曲には,股関節の屈曲に伴って生じる二次的な力が関与しています(詳しくはこちら)。
股関節の屈曲制限が股関節屈曲の勢いを抑えてしまうほどであると,膝関節をうまく屈曲できず,トウクリアランスが妨げられます。
遊脚中期以降は膝関節が伸展しますが,そのときに股関節が屈曲していなければ,足部は床に近づくことになり,トウドラッグが生じます。
トウドラッグに対する代償運動は,同側の骨盤の挙上,反対側への体幹の側屈,同側の股関節の外転(ぶん回し),反対側の伸び上がりがあります。
エネルギー消費は増えます。
おわりに
トウドラッグは膝関節や足関節の異常によっても生じます。
実際の歩行分析では他の関節も同時に考える必要があります。
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スポンサーリンク参考文献
1)武田功(統括監訳): ペリー 歩行分析 原著第2版 -正常歩行と異常歩行- .医歯薬出版, 2017, pp111-185.
2)月城慶一, 山本澄子, 他(訳): 観察による歩行分析. 医学書院, 2006, pp111-157.
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2020 年 12 月 27 日
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