Daniels らの徒手筋力テスト1)(MMT)における肘関節伸展の検査についての疑問点を書きます。
肘関節を「ロックする」のを避ける?
段階 4 と 5 では肘関節軽度屈曲位(最小の屈曲位)で抵抗を加えます。
その理由については,「患者が肘を過伸展して肘関節を「ロックする」のを避けるためである1,2)」と書かれています。
ところが,肘をロックしてはいけない理由は明記されていません。
古い版3)では「さもないと患者は肘を過伸展反張位にして肘関節を「不動化する,ロックする」状態にできることがありうるからである」と書いてあります。
この古い版の表現から,肘関節伸展の筋力が低下していても,肘をロックすれば抵抗に抗することができるから,という理由になりそうです
さて,ここで疑問です。
いわゆる closed kinetic chain では,肘関節を過伸展位にして荷重をかければ,肘伸展筋の筋力が 0 であっても,肘伸展位を保持することができます。
頸髄損傷の方の動作です。
しかし,MMT での運動は open kinetic chain であり,そのメカニズムは働かないはずです。
肘関節軽度屈曲位にすることと,その理由がロックするのを避けるということは,本当に正しいのでしょうか?
肘関節は軽度屈曲位?(第 9 版で勉強した方が対象)
第 9 版では,肘関節を軽度屈曲位で抵抗をかけると書いてあるのですが,図では肘関節伸展位で抵抗をかけています。
本当に屈曲位にするのか?と不安になりますが,第 10 版では,図が肘関節軽度屈曲位のものに変更されています。
また,第 9 版での患者への指示は「肘をまっすぐ伸ばしなさい。その位置を保ち,私が屈曲しようと力を加えても負けないように」となっていますし,段階 5 の説明には「可能な可動域を動かし,最大の抵抗に対しても伸展位をしっかり保つ」と書いてあります。
これらの説明でも,本当に屈曲位にするの?となります。
これらの点に関して,第 10 版では説明が変わっています。
患者への指示は「その位置を保ち,私が屈曲しようと力を加えても負けないように」となっていて,「肘をまっすぐ伸ばしなさい」が削除されています。
そして,段階 5 の説明は「最大の抵抗に対抗して,テストポジションを保つ」に変更されています。
以上のことから,肘関節軽度屈曲位で抵抗をかけるということで間違いありません。
前腕の肢位?
前腕の回内外について,患者の体位のところでは,文章による説明はありません。
抵抗のかけ方の説明のところでは,第 10 版では「伸びた前腕の背面で,下方への抵抗を加える」とあり,第 9 版でも似たような説明で,これは前腕回外位であることを意味します。
図を見ると,第 9 版では前腕回外位で抵抗をかけていますが,第 10 版では中間位で抵抗をかけています。
段階 3 についての図は,第 9 版,第 10 版ともに回外位になっています。
付属の動画では前腕は中間位です。
第 10 版の抵抗をかけている図は,版が変わったときに修正された図であり,最新の情報と捉えることができます。
そのことから,第 10 版の抵抗にかけている図にある前腕中間位が正しい方法で,他の回外位になっているところは修正するのを忘れていると解釈するのが自然かと思います。
しかし,前腕中間位が正しいと断言することはできません。
段階 3 では最終域まで伸展する
最後に,間違う可能性のあるところを簡単に説明します。
段階 3 では最終域まで伸展してもらい,段階 4・5 で抵抗をかけるときには少し屈曲してもらいます。
段階 3 は軽度屈曲位まで伸展できればいいというわけではありませんし,過伸展位になる人は過伸展位になるまで伸展してもらいます。
文章をしっかり読み,動画まで確認していないと,間違うかもしれません。
おわりに
肘関節を「ロックする」ことに関して,明確な答えをもっている方がいらっしゃいましたら,ぜひコメントをお願いいたします。
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参考文献
1)津山直一, 中村耕三(訳): 新・徒手筋力検査法(原著第10版). 協同医書出版社, 2022, pp159-163.
2)津山直一, 中村耕三(訳): 新・徒手筋力検査法(原著第9版). 協同医書出版社, 2015, pp144-148.
3)津山直一, 中村耕三(訳): 新・徒手筋力検査法(原著第8版). 協同医書出版社, 2010, pp120-124.
2020 年 5 月 16 日
2022 年 11 月 24 日
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