Hoehn-Yahr の重症度分類(原著論文より)

はじめに

Hoehn-Yahr の重症度分類を原典1)に基づいて紹介します。

パーキンソン病の重症度の尺度としては有名で広く用いられています。
しかし,日本語版には様々なものがあり,中には原著にはない文言が含まれるもの2)もあります。
そこで,原著論文にあるオリジナルのスケールを翻訳し,解説したいと思います。

原著論文である「Parkinsonism: onset, progression and mortality」は,パーキンソニズムの症例 802 例を 1949 年から 1964 年の 15 年にかけて観察した研究です。

その中に「各症例は,臨床的な障害のレベルに応じて,任意のスケール(ステージ I 〜 V)で評価した」とあり,それが Hoehn-Yahr の重症度分類です。

「任意のスケール」であり,原著論文にある研究の結果に基き科学的なプロセスを経て作られたというものではありません。

Hoehn-Yahr の重症度分類(原著論文の翻訳)

ステージ I.
片側の症状のみ,通常,機能障害は最小限か,全くない。

ステージ II.
両側あるいは体幹の症状,バランスの障害はない。

ステージ III.
立ち直り反射障害の徴候が出現し始める。
その徴候は,方向転換するときの不安定さで明らかとなり,あるいは,足を閉じ目を閉じて立位を保っている患者を押すことで示される。
機能的にはいくらかの活動の制限があるが,仕事の種類によっては,ある程度は働くことができる可能性がある。
身体的には自立した生活を送ることができ,障害は軽度から中等度である。

ステージ IV.
疾患は完全に進行し,障害は重度; まだ歩行や立位は介助なしで可能だが,生活の障害は明らかである。

ステージ V.
介助がなければ,ベッド上あるいは車椅子での生活。

補足説明

疾患なのか障害なのか

重症度分類という日本語での名称から,疾患そのものの重症度を表しているように感じてしまいます。
しかし,原著では「障害の程度 degree of disability」となっていますし,スケールの内容から考えても,パーキンソニズムによって生じた障害を評価するものだといえます。
しかし,障害 disability という用語の定義は,ICFで使われる場合ほど厳密ではなさそうです。
また,ステージの定義も曖昧なのですが,疾患の症状も評価しているところがあります。
あまり気にしなくてもいいところですが,理学療法士であれば,疾患と障害の違いには敏感でありたいものです。

ステージ I

「片側の症状のみ」の原文は「Unilateral involvement only」となっており,曖昧な表現です。
何に involvement するのかが書かれていません。
しかし,「機能障害は最小限か,全くない」のですから,機能障害ではなく,症状が片側にあるということになるでしょう。
ステージ I の具体的なイメージとしては,振戦や固縮のようななんらかの症状が片側にあるけれども,生活に支障はないという症例になると思います。

また,機能障害という用語の定義を ICF での定義で捉えてしまうと,多少の矛盾が生じてしまいます。
生活での障害全般を指していると捉えた方がいいでしょう。

初めから両側で発症すれば,ステージ I はスキップされます。

ステージ II

「両側あるいは体幹の障害」の原文は「Bilateral or midline involvement」です。
「midline」の辞書での訳語は「正中,正中線」ですので,そのままだと意味不明です。
常識的に考えて「体幹」ということで問題はないでしょう。

バランス障害以外の障害については記載がありません。
ステージ III になると障害は軽度から中等度なのですから,ステージ II ではまだ障害は軽度で,生活に支障はあまりないと考えるのが自然だと思いますが,原著に記載がないため,はっきりしたことは分かりません。

ステージ III

「righting reflex」は「立ち直り反射」と訳すのが一般的です。
しかし,その反射の障害の例としてあがっている,立位で押されたときの不安定さは,立ち直り反射の障害のみで起こるものではありません。
「righting reflex」という用語は,生理学での厳密な定義で使われているのではなさそうですので,立ち直り反射ではなく,バランス障害と意訳する方がいいのかもしれません。

「いくらかの活動の制限」と「仕事の種類によっては」のどちらも曖昧な表現です。
自立した生活を送ることができるのに障害は中等度だというのには違和感があります。
「機能的に(functionally)」という用語と「身体的に(physically)」という用語の使い分けも不明確です。
そのため,生活での自立度や就労の状態でステージを判定するのは難しいと思います。
しかし,原著には,「食事,更衣,外出に介助が必要であればステージ IV と判定した」とありますので,介助が不要であれば,ステージ III になりそうです。
また,立ち直り反射の障害が出現し始めることが,判定の中心になるのだと思います。

ステージ IV

疾患は完全に進行するのですが,疾患が完全に進行した状態がどのような状態であるのかは原著には書かれていません。

歩行や立位は介助なしで可能であるのに,障害は重度というのは変な気がしますが,パーキンソン病の方は,バランス障害が重度の割には意外に歩けるという面があると思います。

「障害は明らか」というのも曖昧です。
しかし,前述のとおりで,生活で介助が必要になればステージ IV になるようです。

ステージ V

「介助がなければ,ベッド上あるいは車椅子での生活」をもっとシンプルに表現すれば「立位や歩行で介助が必要」になると思います。
寝たきりになったらステージ V と解釈されることもあるようですが,それほど障害が重度でなくてもステージ V になります。
例えば,介助があれば,リビングや食堂に移動でき,そこで生活し,トイレにも行くし,デイサービスにも行っているというような方は,移動に介助が必要なのでステージ Vになりますが,寝たきりではありません。

ステージを適用できない場合

原著には,ステージを適用できない場合があると書かれています。
例えば,立ち直り反射が正常だが固縮が重度であることで生活が制限されている場合や,片側に重度の障害がある場合です。
しかし,そのような場合に,どう判定したかは原著には書かれていません。

自分の言葉に変換してみました

私が理解している Hoehn-Yahr の重症度分類を自分の言葉でできるだけシンプルに表現してみました。
Hoehn-Yahr の重症度分類を理解する際に参考にしていただければと思います。
これが Hoehn-Yahr の重症度分類であるとはしないでください。

ステージ I : 片側の症状のみ
ステージ II : 両側あるいは体幹の症状のみ
ステージ III : バランス障害が出始めるが,日常生活は自立,ある程度は働くことができる
ステージ IV : まだ歩行や立位は介助なしで可能,日常生活では介助が必要になってくる。
ステージ V : 立位や歩行で介助が必要になる

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おわりに

日本語版がたくさん存在するという評価では,その原著を確認する方がいいと思います。
ただ,そういう場合,英語が分かりにくいことが多いように思います。
分かりにくがゆえに,翻訳がバラバラになるのかもしれません。
そういう場合に,日本語版を統一するシステムがあればいいなと思います。

日本語版作成に関して以下の記事でまとめています。

評価尺度の日本語版作成の標準的な手順

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参考文献

1)Hoehn MM, Yahr MD. Parkinsonism: onset, progression and mortality. Neurology. 1967;17(5):427-442.
2)池田誠: パーキンソン病に対する理学療法評価, 理学療法ハンドブック改訂第4版第1巻. 細田多穂, 柳澤健(編), 協同医書出版社, 2010, pp1170-1185.

2020 年 8 月 10 日

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