評価指標

6分間歩行テスト-検査方法のスタンダード

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はじめに

6分間歩行テスト(6-min walk test; 6MWT)は,6分間で歩ける距離を調べる検査です。
簡単な検査ですが,検査方法によって結果が大きく変わる可能性があり,検査方法を統一する必要があります。

2002年に American Thoracic Society(ATS, 米国胸部学会)によるガイドライン1)が発表され,検査方法の統一が示されました。
さらに2014年には, ATS と European Respiratory Society(ERS,欧州呼吸器学会)の合同で,テクニカルスタンダード2)が発表されました。

この記事では2014年に発表された論文にある検査方法を中心に紹介します。

論文での6MWTの対象は慢性呼吸器疾患ですが,健常高齢者でも使われています3)

検査を行う場所

静かなコースが必要です(原文は quiet course となっているのですが,単調とか落ち着いたという意味かもしれません)。
理学療法室や専用の検査室のようなところを用意します。
快適な温度が重要ですので,エアコンが必要です。
緊急時に迅速で適切な対処ができるところで行います。

コースは 30m 以上の直線とし,路面は平坦で硬いところにします。
トラックのような周回コースにしてはいけません。

被験者以外の人が歩くことがないところが必要です。
つまり,病院の廊下などでは行えず,専用のコースをとる必要があります。

歩行距離の予測式を使う場合,使用する予測式の開発に使われたコースの長さに合わせます。

コースに沿って距離を測定した印をつけます。
具体的にどのような印なのかは書かれていません。
ですので,各自でやりやすいようにするしかありません。
ちなみに,2002年の旧ガイドラインでは「3メートル毎に印をつける」とか「歩行距離は壁のマーカーで測定する」と書かれています。

コースの両端には被験者が見やすい印が必要です。
どのような印かは書かれていませんが,コーンを使うことが多いと思います。

必要な器具と準備

椅子

少なくとも1台をスタート位置の近くに置きます。
検査中に座って休むことがありますので,すぐに移動できる椅子が必要です。

記録用紙とペンがついたクリップボード

血圧計

パルスオキシメータ

ストップウォッチ

6分間を測ると同時に,検査中に休んだ場合に,その休んだ時間も測定する必要があります。
細かいことですが,そのような機能がついているものが必要ですし,その使い方に慣れておく必要がありますね。

緊急時に備えた酸素と電話

次の緊急計画に含まれる内容だと思いますが,酸素が投与できることと,適切なスタッフにすぐにアクセスできるということが,特に大切だということでしょう。

緊急計画

具体的なことや詳しいことは書かれていません。
心停止などの緊急事態に対応する手順を決め,必要なものを用意しておくということだと思います。
「救急カートの配置は医師が行う」とか,「ニトログリセリン(舌下),サルブタモール(定量吸入器またはネブライザー)を用意しておく」,「狭心症の患者では事前に投薬を行なう」といった記述があります。
旧ガイドラインでは除細動器を用意するとあります。

患者が必要とするなら携帯用酸素

さて,論文に書いてあるのは以上ですが,実際にはもう少し必要なものがあると思います。
例えば休ませるためのベッドが必要です。
実際の環境に合わせた完璧なチェックリストを作るといいでしょう。

検査者の条件

検査を行う者はBSL認定を取得し,心肺蘇生が行える必要があります。
そして,関連する保健医療分野での訓練,経験,認定があるのが望ましいとなっています。

常に医師が立ち会う必要はありませんが,医師が必要がどうかは医師が個別に判断する必要があります。

被験者の準備

歩くのに適した服と靴を着用させます。

歩行補助具を普段から使っているのなら,検査でも使う必要があります。

検査が始まる2時間前からは激しい運動は行わないようにします。

薬は通常通りに服薬します。

検査開始前のウォームアップや,短時間歩いてみることは許されていません。

呼吸機能検査を同じ日に行う場合は,6MWTより先に行っておきます。
さらに呼吸機能検査後,6MWTを開始する前に少なくとも15分間は休憩させます。

酸素について

酸素療法を受けている場合は,標準の流量で投与しながら検査を行うか,あるいは医師の指示やプロトコールに従います。
酸素の流量は検査中は一定とします。
検査を繰り返す場合,酸素の流量や器具,運び方は変えないようにします。
酸素の処方が変わった場合にはそれに合わせますが,そのことは記録しておきます。
酸素ボンベ等を患者自身が運べない場合,検査者が被験者の少し後ろを歩くようにします。
前を歩くと歩行スピードが検査者のスピードになる可能性があります。

検査の直前

検査を開始する前には,スタート位置の近くに置いた椅子で休ませます。
休んでいる間に,禁忌事項を確認し,パルスオキシメーターでSpO2と心拍数を測定し,呼吸困難と疲労感の度合い,血圧も測定します。

呼吸困難や主観的な疲労感の測定に関して,特定のスケールを指定していませんが,Borg scale がよく使われているとあります。

どれくらい休ませるかは書かれていません。
旧ガイドラインでは少なくとも10分となっています。
また,休んでいる間のどのタイミングで測定を行うのかも書かれていません。
おそらくは,安静時の測定を求めているでしょうから,椅子に座ってしばらくしてから測定するのがいいと思いますが,確かなことは分かりません。

オリエンテーション

検査直前に行う口頭での説明は,以下のように決められています(表 1)。

この検査の目標は6分間でできるだけ長い距離を歩くことです。この通路の目印の間を6分間でできるだけたくさん往復してもらいます。
1分経過するごとにお知らせします。そして,6分後にあなたがいるところで止まってもらいます。6分は歩くのには長い時間ですので,頑張ってください。必要に応じて,歩くスピードを落としたり,止まったり,休んだりしてもかまいませんが,できるだけすぐに歩き始めてください。
目標は6分間でできるだけ長い距離を歩くことだということを忘れないでください。でも,走ってはいけません。
何か質問はありますか?
表1

ポイントは,「できるだけ長い距離」というところです。
これを「できるだけ速く」と言ってしまうと,歩行距離が変化してしまうそうですので,変えてしまってはいけません。

検査の開始

被験者が歩き始めればタイマーをスタートさせます。

パルスオキシメーターでSpO2と心拍数を連続で測定します。
SpO2の最低値をとります。
測定のため必要であれば,被験者の後ろを歩きます。
前や横について一緒に歩いてしまうと,歩行速度が変わってしまいます。

検査中の声かけ

1分ごとに決められたフレーズ(表 2)を使って被験者を励まします。
他の言葉やジェスチャーを使ってはいけません。

被験者は好きなように座ったり立ったりしながら休むことができます。
休んでも6分間の計測は止めません。
休んだ時には,30秒ごとに決められたフレーズ(表 2)で励まします。
休んだ時間は記録します。

被験者が途中で歩くのをやめた場合,SpO2,心拍数,呼吸困難感,疲労度を測定し,歩くのをやめた理由を尋ねます。

1分その調子です。あと5分です。
2分その調子で続けてください。あと4分です。
3分その調子です。半分です。
4分その調子で続けてください。残りは2分だけです。
5分その調子です。あと1分だけです。
6分そこで止まってください。
止まってしまった場合,酸素飽和度が85%以上になれば,30秒ごとに歩けそうになったらいつでも歩き始めてください
表2

検査終了時,記録

止まったところに印を入れます。

検査終了時のSpO2,心拍数,呼吸困難感,疲労感を測定します。
歩行中のSpO2の最低値も確認します。

総歩行距離を算出します。
歩行距離は,メートルまたはフィートで小数点以下は四捨五入します。

途中で休んだ場合,休んだ時間の合計,休んだ回数,6分間での平均歩行速度も記録します。

予測値の何%かを計算する場合もあります。
その場合,予測に使用した計算式を示す必要があります。
日本人を対象にした予測式がもうすぐ発表されるそうです4)

検査を中止する基準

  • SpO2 < 80%:SpO2 ≥ 85% に回復すれば再開
  • 胸痛
  • 耐え難い呼吸困難
  • 下肢の痙攣
  • ふらつき
  • 多量の発汗
  • 顔面蒼白

これらの理由で検査を中断した場合,必要に応じて,座るか仰向けに寝てもらいます。
検査者の判断で,血圧,心拍数,SpO2の測定や医師による評価を行います。
必要に応じて酸素を投与します。

検査を2回行う場合

継時的な変化を見るためのベースラインを確かなものとするためには,検査は2回行います。
2回目の方が歩行距離が伸びることが多いからです。

大きい方の数字をとります。

同じ日に2回行うことはできますが,少なくとも30分の間隔をとり,心拍数とSpO2の値がベースラインに戻っている必要があります。

禁忌

絶対的禁忌

  • 急性心筋梗塞(3-5日)
  • 不安定狭心症
  • 症状(symptoms)や血行動態異常を引き起こすコントロール不良の不整脈
  • 失神
  • 活動性心内膜炎
  • 急性心筋炎または心膜炎
  • 症候性の重度大動脈弁狭窄
  • コントロール不良の心不全
  • 急性肺塞栓症または肺梗塞症
  • 下肢の血栓症
  • 解離性動脈瘤の疑い
  • コントロール不良のぜんそく
  • 肺水腫
  • SpO2(room air)≤ 85%
  • 急性呼吸不全
  • 運動能力に影響のある,または運動によって悪化する急性非心肺障害(感染症,腎不全,甲状腺中毒症など)
  • 検査に協力することができないほどの精神障害

相対的禁忌

  • 左冠動脈主幹部狭窄またはそれに相当するもの
  • 中等度の狭窄性心臓弁膜症
  • 重度の未治療の高血圧(安静時の収縮期血圧200 mmHg,拡張期血圧120 mmHg)
  • 頻脈性不整脈または徐脈性不整脈
  • 重度の房室ブロック
  • 肥大型心筋症
  • 重度の肺高血圧症
  • 妊娠後期または合併症を伴う妊娠
  • 電解質異常
  • 整形外科的な機能障害による歩行障害

2002年版から2014年版への変更点

禁忌がCPET(心肺運動負荷試験)と同じになりました。

検査中のSpO2の継続的な測定が追加されました。

旧版の方がより細かい指示が書かれている傾向にあり,2014年版では削除されている項目がいくつかあります。
削除された項目の中に,考慮する必要がありそうだと私が思った項目があり,いくつかはすでに書いています。
残りをここで書きます。

旧版では,検査の途中で休む場合,壁にもたれてもいいとありますが,2014年版にはありません。
壁があれば被験者は自然ともたれることがあると思うのですが,おそらく,それは許していいのだと思います。

旧版では,歩行中の声かけのトーンは均一にすると書かれているのですが,2014年版では声のトーンについては触れていません。
同じフレーズでもトーンが違えばより強く励ますことになったりして歩行距離が変わる可能性があります。
基本的には毎回同じトーンで行う必要があると思います。

おわりに

ATS と ERS による検査方法を紹介しましたが,これが日本でどれくらい定着しているのかは分かりませんでした。
また,正式な日本語版も見つけられていません。
特に口頭指示の文言などは統一すべきですので,正式な日本語版があるのであればそれを使うべきです。

古い教科書だと旧版が載っていることがありますので注意が必要です。

緊急事態への対応について強調されている印象を受けました。
その通りに行おうとすると,病院ではできますが,福祉の領域では難しいのかもしれません。
特別な機器を必要とせず,簡単に行うことができる検査ですが,安易にはできない検査だと思いました。

参考文献

1)ATS Committee on Proficiency Standards for Clinical Pulmonary Function Laboratories: ATS statement: guidelines for the six-minute walk test. Am J Respir Crit Care Med. 2002; 166: 111-117. doi:10.1164/ajrccm.166.1.at1102
2)Holland AE, Spruit MA, et al: An official European Respiratory Society/American Thoracic Society technical standard: field walking tests in chronic respiratory disease. Eur Respir J. 2014; 44: 1428-1446. doi:10.1183/09031936.00150314
3)千住秀明: 6-Minute Walking Distance(6MD)6分間歩行距離, 臨床評価指標入門 適用と解釈のポイント. 内山靖, 小林武, 他(編), 協同医書出版社, 東京, 2013, pp135-141.
4)佐竹將宏, 塩谷隆信, 他: 6分間歩行試験について. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌. 2019; 28: 286-290.

関連記事

日本語版作成に関して以下の記事でまとめています。
評価尺度の日本語版作成の標準的な手順

2020年9月6日

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