四肢長計測の定義は統一されているのか?

はじめに

四肢長計測における計測点(測定の基点)や計測項目の定義について,最も標準的な定義はどれであるのかを調べてみました。
明確な結論は得られていませんが,問題点を少しは整理はできたと思います。

リハビリテーション領域でよく用いられている定義

以下の定義1)が一般的だと思います。

  • 上肢長:肩峰(外側突出点)〜 橈骨茎状突起(最突点)
  • 上腕長:肩峰(外側突出点)〜 上腕骨外側上顆(外側突出点)
  • 前腕長:上腕骨外側上顆(外側突出点)〜 橈骨茎状突起(最突点)
  • 棘果長:上前腸骨棘(最下端)〜 内果(最下端)
  • 転子果長:大転子(最上端)〜 外果(最下端)
  • 大腿長:大転子(最上端)〜 膝関節外側裂隙(中央)または大腿骨外側上顆
  • 下腿長:膝関節外側裂隙(中央)または大腿骨外側上顆〜 外果(最下端)

しかし,別のテキスト2-5)では,基準点の定義が異なっていたり,書かれていないこともあります。
肩峰の外側突出点が肩峰角2)となっていたり,肩峰突起下縁3)となっていたりします。
上肢長を肩峰から第 3 指尖端とする場合もあります3)
また,外果の下端ではなく,下端や上端としているもの2)もあります。

このような状況ですので,最も標準的な方法として確立したものがあるのかどうかを調べてみることにしました。

標準的な方法であれば,その方法がしかるべき機関によって作られていたり承認されていたりします。
それを確認するために,引用元の文献をたどろうとしたのですが,どの文献も引用元が明記されていません。

私の記憶では,形態測定はマルチン法が基本になっているということですので,そのマルチン法を確認してみましょう。

マルチン法

マルチン法は人類学における人体計測法のスタンダードのようです。
今回はその原典(ドイツ語)は諦め,日本語の人類学のテキスト6)にあたりました。

まずは測定の基点(計測点)の定義です。
関係のあるものをピックアップします。
計測点の名前はラテン名をカタカナ表記したものになっています。

  • アクロミアーレ:正立位で,肩甲骨肩峰の最外側方突出点
  • フメラーレ・ラテラーレ:上腕骨の外側上顆の中心の点
  • スティリオン:橈骨茎状突起の先端(正立位なら下端)
  • スープラカルパーレ・ラディアーレ:橈骨の遠位端で最も側方に突出している点
  • ダクティリオン:中指(第 3 手指)の先端(正立位なら下端),爪を除いた指腹先端の点
  • イリオスピナーレ・アンテリウス:正立位で,上前腸骨棘の最下端の点
  • トロカンテリオン:正立位で,大転子の最上方の点
  • ティビアーレ:正立位で,脛骨内側顆上縁で最側方に位置する点
  • メリオン・ラテラーレ:大腿骨遠位端の外側上顆の最側方への突出点
  • スフィリオン・フィブラーレ:腓骨の外果の最下端
  • スフィリオン:脛骨の内果の最下端
  • スープラタルサーレ・ティビアーレ:内果の最側方突出点
  • スープラタルサーレ・フィブラーレ:外果の最側方突出点

リハビリテーション領域でよく使われている計測点は,膝関節裂隙以外は全て含まれています。
計測点の定義は,マルチン法からとっているとしてよさそうです。
しかし,スープラタルサーレ・フィブラーレ(外果の最側方突出点)のように,同じ外果での異なる定義もあります。
ですので,マルチン法に従えば定義が一つに定まるということではありません。

次は計測項目です。
対応する項目全てだと長くなりますので,一部分を確認していきます。

例えば,上腕長には,「肩峰から橈骨頭上縁の最高位の点(ラディアーレ)までの直線距離」と「肩峰から上腕骨外側上顆先端(フメラーレ・ラテラーレ)までの直線距離」の二つがあります。
後者がリハビリテーション領域で使われる上腕長と同じですが,直線距離で定義されていますので,全く同じではありません。
臨床での測定は,メジャーを体表に密着させて測る表面距離とするのが一般的です。

転子果長や棘果長に相当する,下肢全体の長さを直接測定する方法はマルチン法にはありません。

つまり,マルチン法とリハビリテーション領域での測定法は同じではないということです。

日本産業規格(JIS)

日本産業規格(JIS)に「人間工学−設計のための基本人体測定項目7)」があります。
JIS 規格であれば自信をもってこれが標準であると言えます。
しかし,リハビリテーション領域で行われている四肢長の計測とは異なります。
JIS 規格のものは,おおまかには,マルチン法に近いものになっています。

国民年金・厚生年金保険障害認定基準

上肢長と下肢長だけが以下のように定義されています。

  • 上肢長:肩峰先端 〜 橈骨茎状突起尖端
  • 下肢長:上前腸骨棘尖端 〜 脛骨内果尖端

これだけですし,おおまかな定義ですので,これは標準ではありません。

結論

この記事の一番最初に示した方法が最もよく利用されている印象ですが,それが最も標準的な方法であるという確証は得られませんでした。

調べた文献は年代や分野が偏っていますので,今後も範囲を広げて調査を続けていきたいと思っています。

あわせて読みたい

身長測定の標準的な方法
体重測定の標準的な方法

参考文献

1)進藤伸一: 姿勢と形態, 標準理学療法学 専門分野 理学療法評価学第2版. 内山靖(編), 医学書院, 2006, pp72-75.
2)森山英樹: 形態測定, 15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 理学療法評価学 I. 石川朗(編), 中山書店, 2013, pp33-42.
3)和才嘉昭, 嶋田智明: リハビリテーション医学全書5 測定と評価(第2版). 医歯薬出版, 1994, pp78-83.
4)鈴木俊明(監修): 臨床理学療法評価法-臨床で即役に立つ理学療法評価法のすべて. エンタプライズ, 2005, pp92-106.
5)千住秀明, 他(編): 理学療法学テキストII 理学療法評価法. 神陵文庫, 1998, pp34-37.
6)人類学講座編纂委員会(編): 人類学講座別巻 1 人体計測法 I 生体計測法. 雄山閣出版, 1991.
7)JIS Z 8500: 2002 人間工学−設計のための基本人体測定項目
8)肢体の障害関係の測定方法(厚生労働省ホームページ)

2021年5月23日

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