医療面接

医療面接ロールプレイの実施方法

投稿日:2020年3月11日 更新日:

医療面接(メディカルインタビュー)の練習方法の一つであるロールプレイの実施方法について説明します。
実際に理学療法士養成校で行なっていた授業の解説になっていて,理学療法士養成校の教員向けの記事になります。

ロールプレイとは

ロールプレイは,簡単なシュミレーション(模擬面接の演習)です。
あるシナリオにおける理学療法士(PT)や患者の役割を学生自身で演じます。
特別に訓練された模擬患者などを用意する必要がありません。
学生達だけで出来るのが利点ですが,ロールプレイ全体のリアリティは,それぞれの役割を演じる学生の経験や能力に依存します。
特に医学的な設定のリアリティが低くなりがちですので,面接による評価の技術練習としては限界があります。
しかし,患者としての体験を疑似体験することで,患者の感情面に意識を向け,様々な気づきを得ることができます。
そして,患者を落胆させたり困惑させたりしないようなコミュニケーションの技術を学ぶことができます。

大まかな流れ

  1. オリエンテーション
  2. 二人一組のグループを作る
  3. PT役と患者役のどちらを先に行うかを決める
  4. PT役は別室に移動する
  5. 教員がPT役と患者役のそれぞれに対してシナリオの説明を行う
  6. PT役の学生が患者役の学生のところに行くことでロールプレイが始まる
  7. 5〜10分のロールプレイを行う
  8. 終了後に相手役のシナリオを配る
  9. 患者役からPT役へのフィードバックを行う
  10. PT役と患者役を交代し,同様に進めていく
  11. 振り返りのレポートを書く

詳細

グループ分け

二人一組だと,一人あぶれてしまう可能性があります。
アシスタントの教員がいれば理想的です。

別室への移動

相手のシナリオは知らない状況でロールプレイを行います。
例えば,記憶障害のある患者のシナリオでは,PT役には「もう何度も治療を行なっている」と説明し,患者役には「見知らぬ人がリハビリに行きましょうとやってきた」と説明したりします。
相手役のシナリオを知ってはいけないため,教室は2つ必要です。

相手役が説明を受けている間に,シナリオを読み込んで役作りをします。

ロールプレイを行なっている間

PTではなく,患者の気持ちに注目します。
PTとしてどう話すかではなく,患者が何を感じるのかという視点が大切です。

ロールプレイ中は,できるだけリアルな感情が沸き起こるようにします。
演技であることを思い出させるようなことをしてはいけません。
演技に徹します。
例えば,間違った時にやり直したり,元の自分に戻って照れ笑いをしてはいけません。
シナリオも見ないようにします。
医学的な正確さは無視して構いません。
例えば,矛盾した話になってしまっても,それが患者役の発言であれば,PT役は「認知症なのかな?」などと考えます。
その判断でPT役の態度が変わり,それが患者役に伝わって,感情の変化が起こったりします。
それはシナリオにはなかったことですが,それはそれで面白い展開になります。
間違いは気にせず,どんどん進んでいくようにします。

演技に入りやすくするため,PT役が別室に移動してシナリオの説明を受けるという形にしていました。
病室に患者を迎えに行くというような設定にし,PT役が患者役の待つ教室に戻るようにすると,患者役のところに戻る前から,ずっと演技をしたままになります。

教員はロールプレイ中は一切介入せず,質問も受け付けません。

シナリオの設定によっては,話があっという間に終わってしまう可能性があります。
その場合は,PT役の人が話をつなぐよう,事前に説明しておきます。
また,実際の理学療法では,動きながら話をすることも多いのですが,お互いに座ったまま,話を続けてもらいます。
どうしても不自然になってしまうところです。

ロールプレイ終了後

相手役のシナリオを配ります。
PT役と患者役ではシナリオの情報量が異なり,感情の衝突が起こるようになっていますので,学生はここで「ああ,そういうことか」となります。

患者役からPT役へのフィードバックの方法を具体的に説明します。
事前に記載事項が印刷された報告書を渡していました。
PT役が持っている報告書を患者役に渡します。
患者役の人は,面接中にどんなことを感じたかを書きます。
そして,書いたものをもとに,口頭でのフィードバックを行い,その後は自由に話し合います。

フィードバックではどんなことを感じたかを伝えます。
良かったか,悪かったかの判断ではなく,感じたことを事実のありのままに伝えます。
例えば「誰でもそうなると言ってくれたのが良かった」ではなく「誰でもそうなるんですよと言ってくれた時,気持ちがとっても楽になりました」とします。
気持ちを表現することに抵抗を感じる学生は多いようです。
自分の気持ちを表現することが,患者の気持ちを扱えるようになるための練習になるということを,繰り返し伝えるようにします。

患者役とPT役の両方を行なった後に,全体の考察を報告書に書かせます。
学んだことや今後の課題などを,患者役の体験を踏まえて,理学療法士の視点で書いてもらいます。
面接中の患者の感情を踏まえ,PTとしてどうすべきかを考えてもらいます。

実際に使っていた報告書の記載項目は以下の通りです。

  • 患者役からPT役へのフィードバック(患者役に書いてもらってください)
    • 患者役として感じたポジティブな感情
    • 患者役として感じたネガティブな感情
    • 総評(悪かったところを改善するための提案)
  • 考察(両方の役を体験した後に自分で書いてください)

この報告書だと,患者役として感じたことを相手の報告書に書くことになります。
終了後は,相手役の報告書もコピーして返却していました。

シナリオについて

どのようなシナリオを作るのかを説明します。

感情的な衝突が起こるような工夫が必要です。
PT役と患者役で異なるシナリオを渡すことになります。
患者には内に秘めたネガティブな感情があったりします。
担当PTが嫌い,リハビリはしたくない,などが典型的です。
PT役のシナリオに,医療面接技術としてはよくないことをするような設定を入れたりもします。
PTの評価が間違っているという設定もありです。

適度な分量にしなければなりません。
設定が細かすぎて,シナリオが長くなりすぎると,学生は覚えることができません。
オリエンテーションにも時間がかかります。
逆に設定が大雑把すぎて自由度の大きい設定だと,ロールプレイ中に考えることが増え,演技に集中できません。

医学的な設定を正確にしようとすると,シナリオは長くなりがちです。
医学的な情報収集の練習ではないとするのなら,医学的なところは簡単に済ませます。

性別の設定は,ロールプレイを行うものの性別に合わせて行います。
そのため,性別には関係のないシナリオにする必要があります。

話がすぐに終わってしまうと,学生は手持ち無沙汰になってしまします。
結論の出にくい難しい話になるような設定にします。

シナリオの例

一つだけ例を挙げます。
他にもいくつか作っていて,それは別の記事にまとめました。

患者用シナリオ

あなたは80 歳です。
5年前に足の骨を折って家に帰れなくなり,今の施設にいます。
どちらの足だったか?足のどこを折ったのか?分からなくなってしまいました。
特に楽しいことはありません。
バードウォッチングが好きでしたが,70歳のころに目が悪くなり,重たいスコープを持って山に行くのも大変になり,行かなくなりました。
今ではバードウオッチングが趣味だったことも忘れてしまいそうですし,部屋から見る鳥の名前も出てこなくなりました。
好きな芸能人がいるわけでもなく,スポーツにも特に興味はありません。
妻(夫)とは55歳の時に離婚しており,ずっと一人暮らしです。
子供には恵まれず,親兄弟もすでに他界しています。
甥が帯広あたりにいるはずですが,相続トラブルがあり,もうずっと会っていません。
友達もみんな死んでしまいました。
事実上の天涯孤独です。
この先,楽しいことがあるようには思えません。
リハビリは嫌いではありませんが,やる気もありません。
リハビリの先生はだいたいいつも元気ですが,それを不快に感じることもあります。
これまでの人生いろいろあったけれど,それなりに満足しています。
このまま一人で静かに天国に行くのも悪くないことのように思えてきました。今日も一人で静かにしていたいと思います。

PT用シナリオ

あなたは介護老人保健施設に勤める理学療法士です。
ある利用者を担当しています。
5年前に右大腿骨頚部骨折を受傷し,それ以来,自宅には帰っていません。
長谷川式簡易知能評価スケールの点数は25点で,歩行は近監視レベルです。
両膝とも軽度の変形性膝関節症があります。
最近あまり元気がありません。
理学療法を拒否するわけではないのですが,できれば休みたいようです。
もともと物静かな性格のようです。
離婚しており,子供もおらず,親戚には連絡がつきません。
趣味は特になく,毎日の生活で楽しいことは特にないと言っていました。
今から理学療法を行うため,その方を部屋まで迎えに行きます。
なんとか楽しい気分で理学療法を行いたいと思います。

解説

このシナリオは,うつ傾向にある人を励まそうとすることの是非が大きなテーマになっています。
また,患者役には,孤独と向き合うことを要求しています。
PT役のシナリオでは,長谷川式簡易知能評価スケールの点数は25点で,認知症はないかのようになっていますが,患者役のシナリオでは,物忘れが進行しつつあるような設定になっています。
PT役のイメージする全体像が実際とはずれるような工夫です。
話が一瞬で終わってしまう可能性のある設定になってしまっていますが,その場合は,なんとか話を続けるよう学生には言っておきますので,それはそれで面白い展開になったりします。

その他

授業としては,90分2コマでした。
全体で180分で,120分でロールプレイを行い,残りの60分で医療面接についてのレクチャーをするというのが,だいたいの時間配分です。
レポートも授業時間内で書かせていました。
ある科目の一部分として行なっていて,ロールプレイそのものに対する成績判定は行なっていませんでした。

事前の準備としては,教室を2つ確保,アシスタントの確保,シナリオの作成などがあり,教務の立場では,けっこう面倒な授業です。

おわりに

私自身,ロールプレイを体験して,多くのことを学ぶことができました。
オススメです。

参考文献

1)福井次矢: メディカル・インタビューマニュアル – 医師の本領を生かすコミュニケーション技法(第3版). インターメディカ, 2002.
2)田村康二: 医学的面接のしかた-聞き上手,話し上手になる技術. 医歯薬出版, 2000.

ロールプレイ全体の進め方は,教員向けの研修会を参考にしています(全国私立リハビリテーション学校連絡協議会第15 回教員研修会・第8 回教育研究大会. リハスタッフに必要なコミュニケーションスキル. 岐阜大学医学部医学教育開発研究センター, 藤崎和彦)。

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